精神科Q&A

【1717】セカンドオピニオンの先生に母の薬について相談したところ、「めちゃくちゃです」と回答され、病院への不信が高まっている


Q: 70代の母の薬の妥当性についてセカンドオピニオンの先生にみて頂いたところ、下記(2)の見解を頂きました。現在の病院への不信感はつのるばかりです。つきましては、林先生のご見解も伺いたく思います。よろしくお願いします。 
(1)【セカンドオピニオンの先生への相談内容】
1)母(患者の)年齢 73才
2)現主治医の診断名 老年期精神病(統合失調症に近い)、認知症 D1) 主訴、もしくは相談に伴う治療の目標。 患者は私の母で現在要介護5で全介助です。 現在の病院は入院3年でもう良くならないし、介護の状態だから年末までに病院を出て行ってくれと医者にいわれ、受け入れ先の病院を探していますが下記理由でどこからも断られています。 理由: 経鼻栄養(鼻からくだ)は対応できない、抑制は対応できない、薬が強すぎる等 せめて他の病院で受け入れてもらえるようになればいいと思うのですが 薬の妥当性、もうこれ以上良くならないと言われたが本当か否か知りたいです。 D2) 薬の種類と1日量。(最も多い時期の内容があるとさらに良い)  漢方の服用歴。 漢方の服用歴はありません。--薬の種類と1日量--------------------- <毎食後> リントン     3r(0.75-0.75-1.5) ルーラン    24r ウィンタミン 100r(25-25-50) アキネトン  3r ウブレチド   10r  <眠前> リントン    1.5r ウィンタミン  75r ルーラン    16r テグレトール  400r リボトリール  2r ロヒプノール  2r アキネトン   1r プルゼニド   12r  <不眠時> レンドルミン  1錠  <不安時> ソラナックス  1錠  <頓用> ヒルナミン細粒 10% ピレチア細粒 10%------------------------------------- D3) 体質判断の材料(胃腸の強弱、便秘の有無、月経の状態、詳しい  精神状態、冷え、むくみの有無、食事量、飲水量など)・現在の問題(介護サマリーより抜粋) @M-Tより食事・与薬が行われるも本人認識ないため安全管理が必要。 A転倒注意 徘徊誘導などで拘束介助時、指示動作に従えず一人で  立ち上がるなど転倒の恐れあり。 B褥そう予防 拘束中のため適宜、体交中。 C夕方頃より大声・放歌あり 眠剤服用後は入眠するため様子観察中。 D4) 身長、体重、年齢、性別、投稿者と患者の関係、家族関係の良好度  158cm 43k 73才 女 患者は投稿者の母であり家族も含め関係は  良好です。 D5) 生育歴と疾患に至った病歴。・入院状況(介護サマリーより抜粋) 東京にて出生、高校卒業後、事務関係の仕事に就く。21歳で結婚。 5才歳〜60才まで再度事務関係の仕事をする。 退職後、しばしばうつ状態になったと言われる。68才時に姪の結婚式 で海外に行き帰国後しだいに躁状態となる。毎晩のように友人に電話 をかけたり、家具を全部買い換えたり、セカンドマンションを買おう としたりする。 X年4月近医受信をし、躁鬱病と診断される。投薬治療にて躁状態は 落ち着くが同年7月末より鬱状態となり家事が出来なくなり 不眠、食事量も低下する。主治医から通院での治療は困難という理由 で入院先を紹介されるも、遠いことから知人に紹介された現在の病院 に入院。・入院経過(介護サマリーより抜粋) 入院後、薬物調整にて躁状態は改善したかに見えたが、次第に被害的 な幻聴、妄想、徘徊、せん妄が出現する。転倒の危険が高まり  X+2年7.10身体拘束開始。薬物調整続く。X+3年7.6リネン交換時、  一人で立ち上がり転倒、骨折、手術(人工骨頭)のため転院。 同年7.23同病院に再入院する。薬物治療で不穏状態は軽減したが 身体拘束は継続中。食事や薬を吐き出すことが多くなり体重減少 みられる。X+4年11.21拒食・薬が頻回での夫の介助以外摂取せず、 栄養不良のためM-Tより1200Kcal注入、与薬も対応している。 

(2)【セカンドオピニオンの先生の回答】 はじめまして。ひさしぶりにめちゃくちゃなケースが出てきました。これは老年期精神病でも認知症でもなく、薬剤性精神病です。躁うつ病はそれでよかったのでしょうがその時の薬がめちゃくちゃなため幻聴も妄想も徘徊も痴呆も寝たきり状態も出現したわけです。訴えれば勝てる可能性もあるくらいの内容です。よくなる余地はいくらでもありますが実際どうするかとなると難しい。どこも受け入れないのは事実でしょうから自分たちで薬を調節していくよりないでしょう。薬を減らせばある程度よくなるのでそのあとはリハビリやデイケアなどがカギとなるでしょう。もし減薬を開始するなら昼のアキネトンをやめルーランを半分に割って飲ませることから始めてください。また漢方の抑肝散を手に入れましょう。


林: この質問文にはいくつか不明の点がありますので、回答の前にまずそれらをはっきりさせておきたいと思います。

1. 「セカンドオピニオンの先生」には、どのような形で相談されたのでしょうか。
 
その形については明記されていませんが、質問文中に、「患者は投稿者の母であり」とありますので、直接相談に行き資料などを手渡すのではなく、文章によって質問していると推定できます。すると「セカンドオピニオンの先生」が、ネット上であれ何であれ、質問者からの文章だけをもとに回答していると一応仮定します。
すると、

2. 「セカンドオピニオンの先生」は、どのようなスタンスで回答されているのでしょうか。

つまり、直接診療している医師の判断と、自分の判断の関係をどのように位置づけておられるのでしょうか。あくまでも参考意見として自分の判断を示しているのか。あるいは、「セカンドオピニオン」と明示するなどして、直接診察している医師と同等またはその誤りを糾すというような看板を掲げているのでしょうか。

ちなみに私の精神科Q&Aは、ページの冒頭に「これは医療相談ではありません」と明記している通り、あくまでも参考としてお答えしているものです。
「すでに医師にかかっていて、私の回答と主治医の見解が矛盾する場合、迷わず主治医の見解を信用してください。」と、精神科Q&Aに質問される方へ にも明記してある通り、メールからの判断には相当な限界があり、直接診療している医師の判断に勝ることは、通常はあり得ません。
ですから、この【1717】の質問文にある「セカンドオピニオンの先生」が、メール等による質問の限界を十分に説明せずに、実際の診療に意見を述べているとすれば、それだけですでに信用ならないということになります。

3. 「セカンドオピニオンの先生」に、質問者が提供した情報は、このメールの内容がすべてなのでしょうか。

メール質問文の内容を読むと、これですべてのようにも見えますし、文中の、たとえば(介護サマリーより抜粋)の記述をみると、その「介護サマリーより抜粋」がその直後の記述内容を指しているようにも読める一方、この括弧内に、原文では介護サマリーが書かれていて、ここでは省略しているようにも読めます。
もし「セカンドオピニオンの先生」への質問文の中に、私にいただいた以上の情報が書かれていたとすれば、私はいかなる評価もすることは出来ません。

以上の点が不明ですが、以下の回答にあたっては一応、1. ネットで回答している 2. 主治医の方を信用すべきと明示していない 3. 提供された情報はこのメール内容がすべて
であると仮定します。
そして、ここからが回答です。

この「セカンドオピニオンの先生」の回答は、馬鹿げています。このような回答を本気にしてはいけません。

このケースの経過を振り返りつつ、そう言える理由を説明していきます。

60才まで再度事務関係の仕事をする。 退職後、しばしばうつ状態になったと言われる。68才時に姪の結婚式 で海外に行き帰国後しだいに躁状態となる。毎晩のように友人に電話 をかけたり、家具を全部買い換えたり、セカンドマンションを買おう としたりする。 X年4月近医受診をし、躁鬱病と診断される。

まず、この記載からは、躁うつ病という診断が正しかったかどうかがわかりません。
うつ状態については、「しばしばうつ状態になったと言われる」だけでは、それが病的なものかどうかわかりません。もっと具体的な記載が必要です。
一方、躁状態については具体的な記載がありますので、確かに躁状態があったと判断することができます。そしてこれは躁うつ病の躁状態に一致しています。仮にこのケースの60歳からのうつ状態が病的なものだったとすれば、躁うつ病のうつ病相が60歳で初発し、68歳で躁病相が初発したということになります。このような年齢で躁うつ病が発症することに矛盾はありませんが、典型的とまではいえませんので、他の病気ということも考える必要があるでしょう。ある程度高齢になってから躁うつ病的あるいは統合失調症的な症状が初発した場合には、脳の器質的な病気の可能性も高いからです。この時に、その検査(MRIなど)は行ったのでしょうか。記載がないのでわかりませんが、経過の書き方と、「近医で診断された」ということから、一応ここでは検査はしなかったと仮定します。
したがって、このケースの68歳の時点での適切な判断は、「躁うつ病が最も考えられるが、器質的な精神病の可能性も否定できない」ということになります。

そしてその後ですが、

投薬治療にて躁状態は 落ち着くが同年7月末より鬱状態となり家事が出来なくなり 不眠、食事量も低下する。

この「鬱状態」も、躁うつ病のうつ状態と判断できる性質のものであるか、これだけの記載ではわかりません。「家事ができなくなる」「不眠」「食事量の低下」という症状は、元気がなくなればほぼ必ず見られるものですから、身体的な病気によることもあり得ますし、薬が強すぎたということも考えられます。
そうしますとこの方は、過去に躁状態は確かにあったようですが、躁うつ病のうつ状態が一回でもあったかどうかは不明ということになります。このことと、先に指摘した、躁状態といってもそれが躁うつ病によるかどうかがわからないことを合わせると、はたして躁うつ病という診断が正しかったかどうかもわからないということになります。

もし他に情報がなければ、それでも躁うつ病の可能性が最も高いと考えることは合理的です。けれどもこのケースでは、そのあとに幻聴や妄想などが出てきていますので、そもそもの診断が脳の器質性の精神病であった可能性や、統合失調症であった可能性も有力なものとして浮上してきます。というより、これらの病名であれば、このケースの全経過を一つの病名で説明できますので、診断を考える順序としては、「躁うつ病の人が、ある時期から別の病態になった」というよりも、「最初から器質性の精神病だった」とか、「最初から統合失調症だった」と考えるほうが自然です。そして、何らかの理由でこれらが否定されれば、時期によって別の病気が出てきた可能性をあらためて考えるのが正しい手順です。

入院後、薬物調整にて躁状態は改善したかに見えたが、次第に被害的な幻聴、妄想、徘徊、せん妄が出現する。

上にすでにお書きしたことですが、この時点で、躁うつ病だけでは説明しにくい症状が出てきています。
こういう場合、精神科Q&Aの他の回答でも繰り返し述べていることですが、「幻聴」「妄想」「せん妄」などの用語で書かれたのでは、ほとんど診断の役には立ちません。「被害的な幻聴」や「妄想」の、その具体的な内容がどのようなものかが書かれていなければ、情報としての価値がほとんどないのです。さらにいえば、「幻聴」や「妄想」は、仮に本当にあったとしても(この記載の仕方では、それすらわかりませんが)、「せん妄」は一つの診断名ですから、質問者がなぜこのケースにせん妄という症状があったと言い切れるのかも不明です。
つまり、全体として、この時の症状の本質が何であったか、このメールの記載からは判断できないということです。

 なお、これらの症状が薬剤性(薬の副作用)である可能性は、もちろんゼロとはいえませんが、大きいとはいえず、ましてや断言することは到底できません。
その第一の理由は、この直後の記載として、

X+2年7.10身体拘束開始。薬物調整続く。

があることから、この時の処方が現在とは違うことは明らかです。
すると、処方内容が不明な以上、このときに出現した「被害的な幻聴、妄想、徘徊、せん妄」が、薬によるものであると判断することは不可能なはずですが、「セカンドオピニオンの先生」は、薬剤性であると断言していることから、その判断が全く不合理なことは明らかです。


同年7.23同病院に再入院する。薬物治療で不穏状態は軽減したが 身体拘束は継続中。食事や薬を吐き出すことが多くなり体重減少 みられる。X+4年11.21拒食・薬が頻回での夫の介助以外摂取せず、 栄養不良のためM-Tより1200Kcal注入、与薬も対応している。

メールの記載されている処方がいつのものか、はっきりと記されていないので厳密にはわからないというべきですが、文脈からみてこのとき(X+4年11.21)からメールを書かれた時点まで継続されているものだと考えられますので、そのように仮定します。
 すると次はこの処方をどう考えるかということになりますが、その答えは、「確かに種類も量も多いが、経過が長く複雑なので、いいとか悪いとかは言えない」ということになります。

【1710】で大学病院の先生にセカンドオピニオンを求めた方からの質問がありましたが、その時の先生の回答は「確かに薬は色々な種類をたくさん飲んでいるという印象は受けますが、状態を一番把握されているのは主治医の先生ですから・・・。」であったと記されています。当然の答えです。この場合のセカンドオピニオンは、相談者が直接医師に会って資料を呈示した形で行なわれているもので、ネットの相談より数段に正確な回答ができるわけですが、それでも医師は、主治医の見解のほうを尊重しているわけです。薬とは、症状に対応して処方するものですから、単に薬の種類や量が多いというだけで、その処方の批判をすることは不可能です。にもかかわらず【1717】の「セカンドオピニオンの先生」は、処方を「めちゃくちゃ」と断じている。それ自体が不合理なのはもちろんですが、さらに、先にお書きしたように、処方された時期と症状の関係についても誤認している。この「セカンドオピニオンの先生」の回答が信頼できないことは明らかです。

それはそうと、「セカンドオピニオンの先生」の回答はともかくとして、この【1717】のケースの症状と処方について検討を試みてみましょう。
処方は、ひとつは「不穏」という症状に対してなされていることが読み取れます。
けれども、「不穏」と書かれているだけではそれがどのようなものかわかりませんので、どの程度の薬が必要か判断することはできません。
しかし、実際に診療している医師が、不穏に対して処方している以上、それが一見して多量であっても、それだけ多量の薬を必要とするほどの不穏であったと考えるべきでしょう。少なくとも、そうでないという根拠がなければ、処方の内容が多量だという一事実だけを持って、その処方が不適切だという批判は決して成り立ちません。


以上の通り、この【1717】のケースについては、メールの情報からは、診断が何であるかもわからず、処方が適切であるかどうかも判断できないということになります。
 
 そこで「セカンドオピニオンの先生」の回答を見てみますと、

これは老年期精神病でも認知症でもなく、薬剤性精神病です。躁うつ病はそれでよかったのでしょうがその時の薬がめちゃくちゃなため幻聴も妄想も徘徊も痴呆も寝たきり状態も出現したわけです。

「その時の薬がめちゃくちゃ」と書かれていますが、上にお書きしたとおり、「その時の薬」の内容は書かれていませんので、「めちゃくちゃ」などと言えるはずがなく、したがってこの回答自体がめちゃくちゃというのが正しい評価になります。
 また、繰り返しますが、このケースの診断は不明です。したがって、「老年期精神病でも認知症でもなく、薬剤性精神病です」この文章にも根拠がありません。

なお、この「セカンドオピニオンの先生」の回答中、一つだけ私が賛成できる見解があります。それは、

薬を減らせばある程度よくなるので

という部分です。これ自体は正しいと思います。これだけの薬が投与されていれば、副作用が相当出ていると思われますので、減らせばある程度はよくなります。
しかし、それは一時的なものにすぎません。
どんなケースでも、大量の薬が投与されている場合、薬を減らせば一時的にはよくなりますが、間もなく、前より悪い状態になるのが常です。大量の薬は、副作用というマイナスがあるのを承知の上で、症状をよくする、ないしは抑えるというプラスのほうが大きいから投与されるものだからです。

ですからいま私が「薬を減らせばある程度よくなる」という見解に賛成できると言ったのは、もちろん皮肉にすぎません。一時的に表面上はよくなったように見えるだけです。したがって、より大局的に見れば、「薬を減らせばある程度よくなる」という見解は浅薄なもので、専門家のアドバイスとは言えません。しかも薬の減らし方を具体的に指示していますが、こんなことは言語道断です。

以上述べてきた私の見解は、この回答の冒頭の3つの仮定が正しいことを前提としたものです。もし仮定に誤りがあれば、「セカンドオピニオンの先生」への私の批判は全く筋違いなものになります。最大のポイントは、この「セカンドオピニオンの先生」が、どのようなスタンスで回答されているのかということです。一種のお笑い芸人として、受け狙いの回答をしているのではないでしょうか。そうであれば、ネット上のギャグとして価値があります。しかしそうでないとすれば、大変な害悪を流しているといえます。


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