精神科Q&A
【1710】うつ病で休職中の夫、薬がどんどん増えて不安です
Q: 39歳の専業主婦です。子供は8歳と5歳の男の子二人です。主人が、会社のストレスから休職して1年半がたちました。 3年ほど前、転勤になり、自分の専門外の仕事を任されたプレッシャーと、同僚との冷めた人間関係、休日出勤の多さから、不眠、中途覚醒、イライラが続き、体重も減りガリガリになっていきました。この頃は、会社帰りに診察していただける病院ということで、M医院に通っていました。
処方は、トレドミン100r、ワイパックス1r (1日量) でした。3分診療で、いつもお決まりの質問をし「はい」と返事をすれば前回と同じ薬を処方するという先生で、主人の希望で、1年間代理で私が薬だけをいただいてくるということをしていました。そうするうちに、どんどん抑うつ感がひどくなっていき、這うように会社へ出かけるようになり、これではまずいと、2年前の夏からD病院へ転院をしました。 D病院では、親身になって話しを聞いていただき、休職をすすめられましたが決心がつかず、服用しながら通勤を続けました。処方は、 アモキサン75mg、レンドルミン0,25r 1ヵ月後には アモキサン150mg、デブロメ−ル50mg、ソラナックス0,4r(頓服)、ロヒプノール1mgとなりましたが、職場で立っていられず人目を盗んで横になる、数字を読んでも理解するのが困難になる、会社を辞めたい、生きていたくない等々の症状から、転院して2ヶ月後に休職するにいたりました。 処方は アモキサン150mg、パキシル50mg、ジプレキサ15mg、アキネトン3r、ソラナックス1,2r を長く服用し、休職して半年くらいでほぼ布団で過ごす日々から、ショッピングができるほどに回復していきました。 しかし好調不調の気分の波は続き、調子の悪い日に耐えられず、昼間からお酒を飲んだり、毎日の晩酌は続きました。最初は「3ヶ月も休めば、大丈夫でしょう」と言われていたのですが、復職への焦りと不安で、調子を崩すと頭を抱えて過ごす日もあり、処方は、アモキサン300r、パキシル50mg、ジプレキサ20mg、ビカモール6r、ソラナックス1,2r と増えました。 休職して1年2ヶ月後には、不安感が以前より強くなったということで、アモキサン→アナフラニール75rに変更し、1年4ヵ月後にはアナフラニール225r、パキシル50mg、ジプレキサ15mg、ビカモール6mg、レキソタン15mg、になりました。 肝臓の数値が深刻になった為、1ヶ月前からやっと晩酌をやめましたが、調子が悪い時は耐えられずお酒で辛い気持ちをごまかす日もあります。調子が良い日には、子供と楽しく遊ぶことができるのですが、悪い日は、しくしく泣いたり、生きていてもしょうがないというような事を言い、時には私に「結局お前も、何もしてくれていない」などと八つ当たりします。 うつ病は良い悪いの波を繰り返しながらよくなっていくと聞きますが、確かに調子の良い日は以前に比べ晴れやかになった気がします。しかし悪い日は、休職し始めた時期と変わらない、又はもっとひどい地獄のような日もあります。(自殺念慮もあります)おおよそ2週間交替くらいでそのような状況ですが、回復していると考えられますか? 薬をたくさん飲んでいて、それによって抑うつ症状がでているということはないのでしょうか? このまま、今の主治医を信じて、治療していくほかないのでしょうか? 一度大学病院に行き、同じ質問をしましたが、「確かに薬は色々な種類をたくさん飲んでいるという印象は受けますが、状態を一番把握されているのは主治医の先生ですから・・・。」という答えしかいただけませんでした。物忘れもひどく、同じ話題を1日に何度もしたり、急に切れたり、対応に困る事もしばしばです。 長文になりましたが、読んで下さってありがとうございました。
林: うつ病で休職して1年半。うつ病としてはかなり長引いているといえます。うつ病が長引く最も多い原因は、抗うつ薬の量が不十分なことですが、この【1710】ではおおむね十分な量が投与されているようです。ただし、途中、かなり飲酒もされていたとのこと、その量はどのくらいだったのでしょうか。昼間から飲み、肝障害も出てしまったという記載から判断する限り、相当なアルコール量になっていたことも疑われます。それによってうつ病が長引いたことが、ひとつの可能性として指摘できます。
それから、処方された薬をきちんとお飲みになっていたのかどうか。
薬をたくさん飲んでいて、それによって抑うつ症状がでているということはないのでしょうか?
これは荒唐無稽な質問であり、ご家族・ご本人の治療態度に疑問を持たざるを得ないところです。このようにお考えだとすれば、処方されていた薬をきちんと飲んでいなかった可能性を考えなければならないでしょう。
アルコールの影響がそれほどでもなく、かつ、薬はきちんとお飲みになっていたと仮定すると、処方方針の見直しが必要になるケースです。十分な量の抗うつ薬を十分な期間飲んでもうつ病がよくならないときは、別の抗うつ薬にスイッチする、リーマスなどの気分安定薬を追加する、非定型抗精神病薬を追加する、など、様々な方法があり、それまで回復の兆しがなかったうつ病が、このような方法によってよくなることもしばしばあります。この【1710】のケースでは、症状がよくなっていないのにもかかわらず、抗うつ薬のみで1年以上治療されてきたのがなぜか、やや理解に苦しみます。
それから、説明が前後しましたが、うつ病として治療されていて、長期間よくならない場合、まず考えなければならないこととして、それはうつ病ではなく擬態うつ病であることはとてもよくあることです。が、この【1710】は、記載されている症状からみて、擬態うつ病の可能性は低そうです。とはいうものの、診断の見直しは一応は必要でしょう。
また、セカンドオピニオンについてですが、
一度大学病院に行き、同じ質問をしましたが、「確かに薬は色々な種類をたくさん飲んでいるという印象は受けますが、状態を一番把握されているのは主治医の先生ですから・・・。」という答えしかいただけませんでした。
「同じ質問」とは、どのような質問をされたのでしょうか。直前に書かれている「薬をたくさん飲んでいて、それによって抑うつ症状がでているということはないのでしょうか?」でしょうか。だとすれば、上のような答えがくるのは当然です。そうでなくても、主治医の先生が最も状態を把握されているのは当然ですので、セカンドオピニオンは多くの場合上のような答えになります。(ですから、セカンドオピニオン外来を開設している大学病院でも、精神科だけはセカンドオピニオンを受け付けない所が大部分です。)
しかしここで疑問なのは、これだけうつ病が長引けば、入院治療が勧められるのがごく自然であるのに、なぜこの大学病院でそれが勧められなかったのかということです。入院すれば、診断や薬物療法の見直し、さらには電気けいれん療法の適応の可能性なども検討することができます。1年半も休職し、回復の兆しがなければ、入院によって活路を求めるのが当然でしょう。質問者は大学病院で薬のことだけを質問したのでしょうか。もしそうだとすれば、答えは「主治医がいちばん把握している。薬の量だけでは多いとも少ないともいえない」となるのは当然で、無駄な質問だったといえます。
しかし悪い日は、休職し始めた時期と変わらない、又はもっとひどい地獄のような日もあります。(自殺念慮もあります)おおよそ2週間交替くらいでそのような状況ですが、回復していると考えられますか?
全く回復していないと思います。入院を含め、治療戦略を考え直すべきです。このままの治療を続けていてもあまり大きな期待は持てません。