精神科Q&A
【1705】何かきっかけがあって躁うつの波が来ることがある私は、躁うつ病ではないのでは?(【1517】のその後)
Q: 【1517】躁うつ病はいつまで服薬が必要か でお答えいただき、ありがとうございました。再発してからの10年間で11回入院して2年以上家でもったことがなかったのですが、前回退院してからやがて1年9か月になります。あと3ヶ月です。 さて、先生の『それは「うつ病」ではありません!』を読ませていただいて思ったのですが、25歳の時にうつ状態になったのも31歳の時も仕事というはっきりわかる原因がありました。25歳の時は荒れた学年の担当でしたし、31歳の時は重要な発表を控えていました。初発のときは職場を異動するとうそのように治ったのですが、再発の時は9月の発表が終わっても延々とうつ状態が続いていました。はっきりとしたきっかけのある「うつ状態」は健康な人の当然な反応とするなら、私は病気ではなかったのではないでしょうか? 31歳の夏休みに再診を受けたのですが、その時の診断はやはりうつ状態で、2学期いっぱいアナフラニール等飲みながら仕事をしていて3学期の初日に出勤できなくなりそのまま病気休暇、休職となった次第です。 10年前の3月に大学病院からの紹介という形で今の病院に替わったのですが、それからの半年の入院生活の間、病棟にノートパソコンを持ち込んで日記をつけたり病棟の行事には積極的に参加したり、かと思えば何日も食事もとらずベッドに横になっていたこともありました。 同じ年の10月に退院してからは翻訳の勉強をしようと高い通信教育に手を出したり、ネット通販にはまったり、突然動けなくなって何日も布団から出られないこともありました。それこそ、買い物にも行けず、隣の家に回覧板を持って行くこともできませんでした。 3年目になる今の主治医は私のことを1型の双極性障害だと言いました。ラピッドサイクラーだとも。おととしの秋、最後の入院中は外出・外泊の予定があっても当日になって「躁(うつ)がひどいからダメ」ということもありました。私は今の主治医を信頼しています。でも、そもそも私は躁うつ病なんでしょうか?ちなみに、主治医には「躁うつ病とパーソナリティ障害がかぶさっている」と言われています。今まで11回の入院のうち3回は過量服薬で、最後に退院してから薬は夫が管理しています。 今の病院でほぼ10年間臨床心理士のカウンセリングを受けています。そこでは「あなたは本当の意味での躁うつ病じゃないと思う」と言われたことがあります。何もきっかけがなくても躁うつの波が起こることもあるし、明らかにきっかけがあって(町内の仕事とか)なることもあるからです。 私は本当に躁うつ病なのでしょうか?薬は必要なのでしょうか?
林:
はっきりとしたきっかけのある「うつ状態」は健康な人の当然な反応とするなら、私は病気ではなかったのではないでしょうか?
このご質問は、お読みいただいた『それは「うつ病」ではありません!』のp.78の表、すなわち、「うつ病らしい」か、「うつ病らしくないか」の見分け方をご覧になってのことと思います。確かにその表には、発症のきっかけが「わりとはっきりしている」と「うつ病らしい」、逆に「はっきりしない」と「うつ病らしくない」と書きました。けれども、その表についての本文にしつこく(重要なことなのでとてもしつこく)、「目安にすぎない」と書いてあります。さらにいえばこの表は、「うつ病」「うつ病でない」ではなく、「うつ病らしい」「うつ病らしくない」の見分け方にすぎません。それに、発症のきっかけは、この表の一項目にすぎません。
すなわち、この【1705】の質問者の表の見方は非常に偏っていると言わざるを得ません。
それは決して、質問者の不注意ではないと思われます。
自分がうつ病だと思いたい人は、一項目でもうつ病らしいものがあてはまると、やっぱり自分はうつ病だと考えがちです。
逆に、自分がうつ病だと思いたくない人は、一項目でもうつ病らしくないものがあると、やっぱり自分はうつ病ではないと考えがちです。
この【1705】の質問者は後者、すなわち、自分がうつ病(この場合は躁うつ病)と思いたくないために、自然に表の見方が偏ってしまったのでしょう。
うつ病でうつになるとき、また、躁うつ病で躁になるとき、うつになるとき、何のきっかけがなければそれは確実に診断できますが、生活の中には次々と出来ごとが発生するわけですから、純粋に何のきっかけもないことは稀です。というより、後から考えれば、何かしらのきっかけは思い当たることが多いものです。しかしそれは精神科の診断では「きっかけ」「誘因」とは呼びますが、「原因」とは呼びません。
【1705】の質問者は、「はっきりした原因があった」と書いておられますが、これらは「誘因」にすぎないとみるべきです。
そして決め手は、
何もきっかけがなくても躁うつの波が起こることもあるし、明らかにきっかけがあって(町内の仕事とか)なることもある
という事実です。「何もきっかけがなくても躁うつの波が起こることがある」以上、躁うつ病 (双極性障害) の診断は確実です。