精神科Q&A

【1644】大量に薬を飲んでいるのに妄想が止まりません


Q: 現在28歳の妹は、7年前に統合失調症を発病し、急性期−休息期−回復期を経て、一度は治りかけましたが、その後回復を急いで薬を減らしすぎたのが原因(と思われます)で再発し、その後はよくなったり悪くなったりを繰り返しています。 2年ほど前に恋人ができ、結婚を前提としての同棲生活を始めましたが、3ヶ月程で症状が悪化してしまい、帰ってきました。その後は元通り母と2人の生活をしていましたが、この程恋人と結婚することになり、その際旦那さんも一緒に生活することになって、今は3人で暮らしています。(旦那さんがお婿さんにきたような格好です)
 交際直後から嫉妬妄想等があり、それが年々酷くなるように思われます。 病気自体は陰性症状・陽性症状含めて一進一退を繰り返してきたように見えるのですが、この所は妄想が酷くなり、どんなに薬を飲んでも治まらないようなのです。 普段は本当に普通に見えます。

わたし(姉)は結婚して家を出てから1年程になりますが、その後母が言うにはだいぶ悪くなったとのことで、簡単な言いつけが覚えていられなかったり、能力低下も進んだといいます。 それでも私と話す時にはいたって普通で、昔の思い出話などもできますし、妄想に絡む話も私の前ではしないので、なんら変わりがないかのように思えるのですが、一週間に何回かは夜中に嫉妬妄想で狂ったように泣き叫んだり暴れたりするとのことです。 強い薬を飲めば一時的には症状は抑えられると思っていたのですが、そうではない、何を飲んでもきかない場合もあるのでしょうか? もちろん全然効いていないわけではなくて、飲まなかったらもっと酷くて頻繁なのだろうとは思うのですが、それにしても、今飲んでいる量も、体に耐えられるギリギリの量なのだと母は言うのです。 具体的に飲んでいる薬は私は詳しくは知らないのですが、リスパダールを、上限量の6mgの、倍飲んでいる(てことは12mg?)そうです。 母親のいとこに精神科医がいて、今の妹の主治医にその旨を手紙で書いて、薬を減らせるようお願いしたらしいのですが、今の症状を知る主治医は薬を減らすことはできないと、言うらしいのです。 私は客観的にリスパダール12mg、というのがどのくらいの量なのか分かりません。母はいつ心臓が止まってもおかしくないと言います。 そんなに飲んでいるのに、妄想が治まらないのです。 妹は発病前は料理などするほうで、病気になってからも、今も時々は台所に立ったり、洗濯物を干したりします。でも、そういうことも最近は少しすると疲れて、その後に酷い妄想に襲われることもたびたび、との事です。(全て母から聞いているのですが) 妄想に苦しむ妹は本当に苦しそうで、本当になんとかしてやりたいと思いますが、何もできません。普通、陽性症状は発病直後に現れ、その後は徐々に減っていくはずなのに、どこのHPにもそう書いてあるのに、妹の妄想はおさまりません。発病後7年も立っているのに、未だに妄想で苦しんでいるのです。妄想の内容自体は変化していますが、状態がよくはなっていません。このような患者さんもいるのでしょうか。 私はリスパダール12mgというのが客観的に見てどの程度の量なのか分かりません。そこまでギリギリの量を飲んでも妄想がおさまらないというのがどのようなことなのか分かりません。 薬が合っていない、ということはないのでしょうか。 話がまとまらなくなってきましたが、要するに薬を飲んでも陽性症状がよくならない場合、どのような対処法があるのか、またリスパダール12mgという量はどの程度危険な量か、客観的に教えて欲しいと思ってメールしました。 


林: リスパダール12mgは、特別に大量とはいえません。リスパダールの添付文書には「12mgをこえないこと」と記されていますので、公式には上限の量ということができます。(したがって、このメールに記載されている「上限量は6mg」は誤りです)。
 しかし抗精神病薬を統合失調症の方に処方する場合、公式の上限をこえた量が必要になることはしばしばありますので、リスパダール12mgは、特に問題とするような多い量とはいえません。

今飲んでいる量も、体に耐えられるギリギリの量なのだと母は言うのです。

母はいつ心臓が止まってもおかしくないと言います。

薬について特に専門的な知識を持っていないと思われるお母様の、このような見解を真に受けるのは馬鹿げています。
もっとも、真に受けるのはどうかと考えておられるからこそ、こうして質問しておられるということは理解できます。
 しかし、薬のこと以外に目を向けても、この質問メールには、「母が言うには」があまりに多いことを指摘しなければなりません。というよりも、大部分の情報は、お母さまの言葉という間接情報であるというべきでしょう。そして、統合失調症についてのお母さまの見解はあてにならないことは、上記リスパダールのことからも明らかですので、全体としてこの【1644】の統合失調症の妹さんについての情報は信頼度がかなり低いということになります。したがって質問者の方がまずすべきことは、妹さんが本当はどのような状態にあるのか、ご自身で確認することだと思います。
たとえば、

一週間に何回かは夜中に嫉妬妄想で狂ったように泣き叫んだり暴れたりするとのことです。

とありますが、この記述の中でそのまま事実と受け入れていいと思われるのは「一週間に何回かは夜中に泣き叫んだり暴れたりする」ということまでであって、それが本当に嫉妬妄想によるのかは確認しなければわかりません。そのためには、具体的にこのときにどのようなことを妹さんが言っているのかを確かめる必要があります。
 多くのケースで、いったん「統合失調症、妄想あり」とレッテルが貼られると、その人が少しでも不合理なことを言ったりすると、すべて妄想に結び付けて解釈されてしまうことがよくあるものです。この【1644】のケースもそうではないか、まずその確認が必要です。
 但し、少しでも不合理な言動が見られた場合、たとえそれが妄想とは思えないことでも、それをとらえて統合失調症の悪化や再発を疑うこと自体は重要です。【0534】【1055】などもご参照ください。しかしその判断のためには、やはり具体的な言動の内容が必要です。
 また、「一週間に何回かは夜中に嫉妬妄想で狂ったように泣き叫んだり暴れたりするとのことです」の「狂ったように」も、それがどの程度か、あらためて確認する必要があるでしょう。どの程度だと「狂ったように」といえるのか。その基準は人によって異なるのは当然です。そしてこのお母さまは、統合失調症についての他の言動 (はっきり言って、きわめていい加減な知識に基づいた不適切な言動です) からみて、「狂ったように」は過剰な表現である可能性も考えなければなりません。

これらについての事実関係を確認してはじめて、

薬が合っていない、ということはないのでしょうか。 

という質問を発すべきです。そして、この一文に対するだけの答えとしては、「薬が合っていないということもあり得ます」になります。けれども、まず上で説明してきた点についての確認が必要です。薬の量も、症状の評価も曖昧なまま、「薬を飲んでも治らない」と言って、薬や病院を次々にかえ、どこでも中途半端な治療しか受けない状態が続き、結局文字通りいつまでたってもよくならない、そういうケースは少なくありません。


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