精神科Q&A
【1632】うつ病と診断されていますが、過剰に眠ってしまいます
Q: 以前より気になっていることがあり、ご回答いただければと思いメールいたしました。
私は26歳の女性です。21歳の夏より心療内科及び精神科にて薬物治療を受けています。
はっきり病名を教えられた事は、最初のクリニックにて「うつ病」「不安神経症」と告げられたのみです。
質問させていただきたいのは、うつ病に見られる睡眠障害や早朝覚醒です。
私はこれらが一切無く、どれだけ落ち込んでいようと、不安で仕方が無い時も、あっさり眠ってしまいます。それどころか異常な長さで眠っています。
12時間以上眠るのももはや当たり前です。一番酷かった時には18時に仕事から帰ってきて倒れるように就寝、翌朝8時半に目を覚まし、眠さと憂鬱で動けず会社を休みまた就寝。16時ごろようやく目を覚まし、0時ごろに寝る。
これが当たり前のようにありました。
この過剰な睡眠もうつ病の症状の一種なのでしょうか?
それとも何か別な病気、または体質でしょうか。
うつ病が軽くなってくると、通勤できる程度に目覚めはよくなり、睡眠時間も6時間程度まで削る事ができます。
しかし休日には用事が無ければやはり12時間は眠っています。余談になりますが、食事も拒食にならず過食になります。
他の質問に比べれば他愛ない事かもしれませんが、どうかご回答いただけますようお願い申し上げます。
林: あなたは非定型うつ病だと思います。
非定型うつ病とは、1959年に提唱されたもので、うつ病の中でも特にモノアミン酸化酵素阻害薬(MAO阻害薬)がよく効くというのが最大の特徴です。
薬の効き方から診断するというのは、病気の本来の診断法からいうと不合理なことですが、現実には、ある特定の薬が鮮やかに効くような一群の症状があれば、それは発生のメカニズムが共通する一つのまとまった病気であると考えるのはかなり合理的なことです。非定型うつ病も、そのような立場から提唱された病気です。
しかしながら、現在の日本にはうつ病の治療薬としてのMAO阻害薬はないので、非定型うつ病という病名をことさらに用いることにあまり意味がないと私が考えていることは以前にもお書きしました。
とは言っても、非定型うつ病という病気が存在すること自体を否定することはもちろん出来ません。そして、この【1632】は、かなり典型的な非定型うつ病(「典型的な」「非定型」というのは矛盾した言葉のようですが、そうではありません。「非定型うつ病」は、一つの独立した病気と考えられるからです)
私はこれらが一切無く、どれだけ落ち込んでいようと、不安で仕方が無い時も、あっさり眠ってしまいます。それどころか異常な長さで眠っています。
12時間以上眠るのももはや当たり前です。一番酷かった時には18時に仕事から帰ってきて倒れるように就寝、翌朝8時半に目を覚まし、眠さと憂鬱で動けず会社を休みまた就寝。16時ごろようやく目を覚まし、0時ごろに寝る。
非定型うつ病の大きな特徴は、このような過眠です。
そして、
余談になりますが、食事も拒食にならず過食になります。
過食も、非定型うつ病の大きな特徴です。(ですから、これは余談ではなく、重要な所見です)
非定型うつ病のその他の特徴としては、
・ 気分の反応性・・・良い出来事があると、気分がよくなる。
(すなわち、本来のうつ病では、良い出来事があっても、気分が良くならないのが重要な所見です。「良い出来事があったら気分が良くなる、それはうつ病ではなく擬態うつ病」と私が各所で繰り返し言っている通りです。ところが、この非定型うつ病は、真のうつ病でありながら、良い出来事があると気分が良くなるという特徴を持っています。これはきわめて重要で興味深い症状です)
・ 身体が、鉛のおもりをつけられたように重いと感じる。
・人から拒絶されることに過敏
これも、興味深いといったらやや不謹慎ですが、非定型うつ病の顕著な特徴です。「人から拒絶されることに過敏」というふうに言葉だけで説明すると、境界性パーソナリティ障害と共通しているようですが、実際には色彩がかなり異なるのが常です。
・ その他: 恐怖が目立つ、午後に気分が悪くなる、などが特徴であるといわれることもありますが、これらについては見解が統一されていません。
【1632】の方に、過眠・過食以外に、上のような症状があれば、非定型うつ病の診断はより確実になります。
なお、最近では非定型うつ病という言葉が誤って使われていることがよくあります。(たとえば【1633】)。「よくあります」というより、大部分の場合に誤って使われているといったほうがいいかもしれません。それは「非定型」という言葉そのものに誤用されやすい性質があることにも起因しています。ですから私は、以前にもお書きした通り、非定型うつ病という言葉は、一般には使わないほうがいいと考えています。(非定型うつ病という病気自体が存在することは確かだと思います。うつ病という病気を解明していくうえで、非常に重要な病気であることも確かだと思います。しかし、そのことと、この病名を一般の臨床で使うこととは別です。非定型うつ病は、少なくとも日本においては、専門家だけが使う概念とすべきだというのが私の見解です)