精神科Q&A
【1630】境界性パーソナリティ障害だと思う自分の不眠などについて
Q: 林先生のQ&Aを読んで、精神科を受診した者です。少し楽になりました。
有り難うございます。
私が困っていたのは、「イライラして子供につらくあたってしまうこと」「私はきっと境界性パーソナリティ障害(境界性人格障害)だと思うこと。理由…父がアルコール依存症。私は10代〜20代の間、過食嘔吐をしていた。自分勝手で、人を利用する。人に対する評価が尊敬→軽蔑と180度簡単に変わる。利用されてくれている間は、相手に好感は持つけれど、基本的に誰のことも信頼しないし好きでもない。他人もそうに違いないと感じる。相手の手の内がだいたいわかる。自分には利用価値がないのに、それに気付かず好いてくれる(ように見える)人にはイライラする。が、その人の望むような演技を続ける。結構うまく演技すると思うが、突然嫌になって地を出すこともある。驚き悲しまれ、去られることがほとんどで、辛いけど何故かスッキリとして気持ちがいい。いつもむなしい。友人はいない。自殺はした事がないが、いつ死んでも構わないと思っている(子供がいるのに)。年齢よりも子供じみて見えるらしい。」
先月、初めて精神科のクリニックを受診しました。待合で、これで楽になると思うと泣けて来てずっと涙が流れっぱなしでした。先生の気を引きたかったのかもしれません。名前を呼ばれると泣きやむことが出来て、診察中は全く平気でした。来た訳を聞かれ「境界性人格障害かも知れないと思って」と答えました。睡眠と食事のことを聞かれ、問題ないと答えました。仕事にも行けているし、少なくともウツじゃないと思うが、どうしても薬を試したければコレにしてみましょう。とのことでドグマチール50mgを1日3回飲み始めました。飲んで3日位で、イライラがましになり、子供にあまりつらくあたらなくなり、夜中に目が覚めることが減ったのと、フラフラめまいがしょっちゅうしていたのが無くなったことに気付きました。こうなって初めて、「3〜4時頃に目が覚めてその後寝れないのに、5〜6時頃また眠くなってつらくて二度寝をしている。仕事に遅刻はしないが慌ただしく出勤しないと間に合わない」ので不便していたとわかりました。何故、困っているのに自分で分らなかったのか分りません。ともあれ、毎日が以前よりは楽になりました。
ここからがやっと本題です。長くて申し訳ありません。
(1)ドグマチールを飲めば、病気じゃない人でも気分が良くなりますか?(不眠症の人でなくとも、睡眠薬をのんだら眠くなるではないですか。私は性格が異常なだけで病気でもないのに、薬に頼ろうとしているのかも知れません。)
(2)思い出すと、「夜中に起きる、二度寝してしまって困る」のは時々出て来て、数か月続いて、いつの間にかおさまることを繰り返しています。一番酷かった時は、それに加えてしんどくて何も出来なくなり、顔も洗わず風呂にも週一回位しか入らず、なんとか歯磨きだけして仕事に行っていました。食事を作れず、惣菜を買って帰り、子供にはなんとか食べさせましたが、自分は食べる気になりませんでした。みかねた元旦那が親に連絡し、子供をしばらく引き取ってもらえました。その後、私はもっとしんどくなり本当に起きられなくなって、仕事を休むようになりました。知らない間に5kgほど痩せていました。欠勤の電話も、初めは毎回していたのに、そのうち電話も出来なくなり無断欠勤の状態になりました。半年位していつの間にかまた元気になり、上司にわびに行くと、クビにならずに仕事を再開させてもらうことになりました。今書いていると、何もかも何故出来なかったのかわかりません。ウツだったのかしら、と思ったこともあります。でも、ウツであれ症状が何年も続くことはないとどこかの先生が雑誌に書いておられたし、診察して下さった先生もウツではないと言われています。とにかく何か病気であったなら納得出来るのですが、そうでなければ私は平気で無断欠勤出来る怠け者ということを自分で認めないといけないことに気付きました。とても嫌な気分です。でも知りたい。なんだったと思われますか?
林:
(1) ドグマチールを飲めば、病気じゃない人でも気分が良くなりますか?
これは単純なようで難しく深い質問です。
というのは、薬にはすべてプラセボ効果(プラセボplaceboとは「偽薬」のことです)があるからです。つまり、どんな薬でも、効くことを期待して飲めば、それなりの効果はあるということです。そして、そもそも薬が「効く」というのは、厳密な方法によって、プラセボ効果を超える効果があることが証明された場合にはじめてそのように認められるものです。
ですから、いま公式に認められている薬は、どれもプラセボを超えた効果があることは事実です。しかし、ある一人の人が、ある薬を「効く」あるいは「効くかもしれない」と思って飲んだ場合は、それがどんな薬であっても、また、その人が病気である・ないにかかわらず、効果(=プラセボ効果)は期待できます。したがってその意味で、
(1) ドグマチールを飲めば、病気じゃない人でも気分が良くなりますか?
このご質問に対する答えはイエスです。
(2)思い出すと、「夜中に起きる、二度寝してしまって困る」のは時々出て来て、数か月続いて、いつの間にかおさまることを繰り返しています。 ・・・なんだったと思われますか?
これは単純にお答えすることができます。あなたが境界性人格障害だとすれば、その一症状としてのムードスイングです。
病気の症状は何であれ、言葉で書くと単純で、読めばすぐにわかるようですが、このように実際には、現に体験している症状が、本に明記されていても、それと気づかないこともよくあります。あるいはこの回答をお読みになって、「ムードスイングなんて、そんな単純な言葉に解消できる症状じゃないと思う」とおっしゃるかもしれませんが、そうした感想は多くの方がお持ちになるものです。事実は、ムードスイングという、どの本にも書かれている平凡な症状です。