精神科Q&A

【1612】もともと弱音をほとんど吐かない夫が、うつ病のようなことを言うようになった


Q: 私は29歳,女性です。夫(34歳)と二人暮らしで共稼ぎです。
昨日,夫が突然有休を取得しました。
その日の朝はいつもどおり夫と朝食をとり,私は先に家をでて仕事にむかいました。
お昼過ぎ,携帯に,「今日は1日休むことにした」とのメールがはいりました。
どこか調子が悪いのかと問うと「いや,体がだるいだけ」との返事。

特に気に留めず,通常通り仕事を終え,晩御飯のリクエストを聞くために電話をすると、いつもと違う暗い声で電話にでました。「なんでもいいよ」と。

家に帰り,再度具合を尋ねましたが、熱もなく,特に調子が悪いということはないとのこと。ただ,体がだるかったので,1日家でのんびりしていたそうです。

翌日の遅い夕食時,夫が何か言いたげな顔をしてじっと私をみているのに気づき,そういえば,今日は調子はどうかと軽い気持ちで聞いてみました。
すると,「実は昨日,なんか突然死にたいと思って,それが頭から離れなくて,1日そのことをずっと考えてた」と静かに話し始めました。

昨年,異動があり,仕事も忙しくなっているようです。
それなりのやりがいはあるようで,仕事が嫌だということではないそうです。
仕事上で何か特にトラブルがあった様子もありません。
私が何か負担をかけているのではないかと聞いてみましたが,それもないといわれました。
何かしてほしいことはないかと問いましたが,それも「ない」とのことでした。

「こういうのが「うつ」っていう状態なんだろうな。
 お前や両親,親戚や同僚に迷惑をかけると思うと,
 死ぬのはめんどくさいと思った。死ぬくらいなら,会社もやめるし。
 第一,昨日考えてみて,俺には死ぬ勇気はないなと思った」
と言いました。
「死ぬ勇気」のところは,半分笑って誤魔化すように言ったのがかえって気になりました。

「私も働いてるんだし,会社しばらく休んでもいいよ」というと
「いや,結局仕事が気になるし,休みたくない。 休んでどうなることでもなさそうだし,嵐がすぎるのをまつような感じだ」ということでした。
今はどうなのかと問うと,今は全く大丈夫だ,そういう気持ちもない。とのことでした。 

去年,うつで同僚が半年間休職した際は、その分の仕事をすべて被ってしまったうえに、当時の上司の責任を追及しようとする姿を目の当たりにして
「最近のメンタル系の病気は,なんでも病名をつけすぎだと思う。 自分はそういうのはまったくないから気持ちはわからないが,人にこれだけ迷惑をかけておいて,権利ばかり主張して、さらに責任転嫁する神経がわからない。本当にいい迷惑だ」
と憤っていました。

心のバランスを崩すのは,弱い人間であり,自分には関係ないという態度をとってきました。知人が,うつとの闘病の末に自殺した時も、「悲しいことだけど,やっぱりこういう形で 命をたつというのはゆるせないし,まったく自分には理解できない」と言っていました。

そういっていた彼が
「うつで死ぬ人の気持ちがわかった」
「死にたいなぁと1日考えていた」
「特に理由はない」
と言ったことに対し,私は激しいショックを受けました。
死にたいという気持ちになったことは,過去には一度もなかったそうです。

最初に受診を進めた際も,
「悩み事は,とか精神的な問題があるみたいなことを問診されるのは無駄だし,絶対いやだから行きたくない」
と相当しぶっていました。

「心配させるから言わないでおこうと思ったけど、 気になっているようだから言ってしまった。 まぁ,いまこうして話せているのは,大丈夫ってことじゃないかと思う」
と笑っていました。私には,強がりにみえてしまいました。
 
私に何かできることはないんでしょうか。
本人は,嵐がすぎるのを待つ,と言っていますが
受診をすすめたほうがいいのでしょうか。
もともと悩み事や弱音をほとんど言わない人なので,
取り返しのつかないことになる可能性はないでしょうか。とても心配です。 


林: 症状は漠然としていますが、このケースのここまでの流れと雰囲気からは、うつ病が疑われます。精神科を受診されたほうがいいでしょう。

ここまでの流れとは、
この方が、

もともと悩み事や弱音をほとんど言わない人なので,

であったということ、さらには、

去年,うつで同僚が半年間休職した際は、その分の仕事をすべて被ってしまったうえに、当時の上司の責任を追及しようとする姿を目の当たりにして
「最近のメンタル系の病気は,なんでも病名をつけすぎだと思う。 自分はそういうのはまったくないから気持ちはわからないが,人にこれだけ迷惑をかけておいて,権利ばかり主張して、さらに責任転嫁する神経がわからない。本当にいい迷惑だ」
と憤っていました。


ということなどを指します。
この同僚の方が、うつ病であったのか、擬態うつ病であったのか、これだけでは判断できませんが、「権利ばかり主張して、さらに責任転嫁」が事実だとすれば、擬態うつ病の可能性が高いというべきでしょう。
そして、この【1612】の方がうつ病だとすれば、擬態うつ病の人を見てそれがうつ病だと誤って信じてしまったために、ご自分のうつ病の治療開始が遅れるという形で、【1301】などと同様、擬態うつ病の深刻な弊害の例であるといえます。

本人は,嵐がすぎるのを待つ,と言っていますが

それはきわめて危険な考え方です。嵐はすぎないかもしれないからです。

受診をすすめたほうがいいのでしょうか。

是非そのようにしてください。

取り返しのつかないことになる可能性はないでしょうか。

あります。このまま様子をみることはお勧めできません。


精神科Q&Aに戻る

ホームページに戻る