精神科Q&A

【1583】過去に摂食障害や自傷行為のあった私は病気でしょうか


Q: 私は20代後半の女性です。 もしかしたら自分が何かの病気なのではないだろうかと疑っています。 過去に自分で振り返っておかしいかもしれないと思う点がいくつかありました。以下、長くなりますが、時を追って書かせていただきます。 
 いつからかはっきりしませんが、覚えているのは小学生の時、自分が汚いと思う物にふれた後や、何となく手足がもやもやしたように感じられるとき、片手でもう片方の手をぱんぱんとはたく仕草をするようになりました。清めの儀式のようなつもりだったと思います。最初大っぴらにしていたのが、変だと指摘されてからは、人前では傍目には手を揉んでいる様に見えるくらいの動作で行うようになりました。始めた当時は意味があったかもしれませんが、次第に馬鹿馬鹿しいと思うようになりました。何度となく止めようと思うのですが、しないではいられません。次第に一人でいるときもごく軽く手を払う程度になり、日常生活に大して影響が出なくなったので、かえって止められなくなったのかもしれません。これは今に至るまでずっと続いています。現在は誰かと一緒だとしないですむことが多いです。 小学校高学年頃、身長や年齢と関係なく体重は40キロを超えてはならないと思い込み(当時好きだった少女漫画に出てくる女の子が皆40キロ未満だったため)、ダイエットとしてジョギングをしていました。
 中学生になり身長が伸びるにつれ、40キロを超えるようになりました。その時は、いずれ痩せないととは思ったのですが、大して気にとめていませんでした。でも好きな人ができたので、振り向かせるため痩せなければと過激なダイエットを始めました。(別にその時も太っていない、むしろ痩せている方だったのですが。)カロリーを極端に制限し活発に動き回っていたら、ほどなくしてがりがりに痩せましたが、ふらふらして動くのが辛いほどになってしまいました。食事を制限することに限界を感じるようになったとき、食べても吐けばいいという記事を何かの雑誌で読み、食事を食べてはトイレで吐くようになりました。最初は普通の量だったのが、どうせ吐くならとそのうち家族の目を盗んで大量に食べては吐くようになりました。酷いときは一日に何度もしました。
 高校生になっても状況は余り変わらず、やめようと思うときも多々ありましたが、結局続かず、食べては吐くのを繰り返していました。またそれまでは割と成績が良かったのですが、高二の頃から、なぜだか勉強を頑張ってはいけないような気がしてあまり勉強しないようになりました。変な話ですが、自分で自分の能力や将来を断ち切らないといけないような気がしました。もちろん成績は目に見えて下がりました。
 それでも何とか進学し、大学生になって一人暮らしを始めました。誰の目も気にしなくていいようになって、一日に何度も過食・嘔吐する日が増えました。それから、アームカットもするようになりました(人に見られないように肩の部分などですが)。自分の顔を殴ったこともあります。また何をする気にもなれず、大学にも行かず食料品の買い出し以外は、一日中カーテンを閉めた部屋に引きこもっている日がひと月以上続くこともありました。
 その頃、少し奇妙な体験をしました。夜中に自転車でコンビニへ買い物に行ったのですが、帰りに突如後ろから同じように自転車に乗った男がつけてきたのです。最初は一定の間隔を保っていたのが徐々に近くなり、猛スピードで漕いでいるのにぴったりついてきます。怖かったので別のコンビニの前で自転車を降りて店に駆け込みました。男もその店の前で自転車を降りました。店員さんに助けを求め、辺りを見ていただいたのですが男の影はなく、「誰もいませんけど」と不審気に言われました。 また同時期に、誰かに監視されているような気がして、自宅に盗聴器や監視カメラが仕掛けられていると強固に思いこんでいたことがあります。現在は隣家や自分たちの出す物音に過敏気味なところはありますが(以前近隣トラブルがあったので、うちがうるさいと思われてないか心配。現住居では苦情等でていない)、そういう思いこみはありません。今思うと妄想があったのかもしれませんが、盗聴器云々はともかく、自転車の男の件はやけにリアルだったので、妄想なのかどうか今でもはっきりしません(それ一度きりです)。
 卒業後就職し、職場のストレスから一時過食と嘔吐が酷くなりました。しかし配属が変わってから仕事が順調になり、回数が減りました。(時にはリバウンドもありましたが。)
それから数年後、結婚・出産し、退職しました。結婚してからはほぼなくなり、現在に至ります。 過食嘔吐に関しては何とか止めようとしたりまた酷くなったりを10年以上も繰り返し、なかなか抜け出せなかったのですが、ここ4年ばかり一度もしていません。もうすることはないと思います。今は、以前のように容姿や体重にこだわる気持ちがあまりないからです。 アームカットなどの自傷も、ほんの時たましたい気持ちになることがありますが、もう6年ほどもしていません。 
当時は分からなかったのですが、後に本やインターネットで調べて、私は摂食障害だったのだと知りました。また、そのことやアームカット、家族歴(幼少時に母に首を絞められたり罵詈雑言や無視などされた)などから、もしかしたら自分は境界性人格障害なのではと疑念も抱きました。  ただそれにしては境界性人格障害の方の話によくあるような、自殺すると言って人を振り回したり、誰かを褒め称えたと思ったら急にこき下ろしたりといった行動は、私にはありません。 たまにささいなトラブルはありましたが、総じて人間関係に波風が立つことは少ないです。協調性があるというより、付き合いがその場しのぎで、親密な関係を築けないことが原因だと思います。 誰かと遊びに行ったりメールや電話したり、向こうから誘われればできますが、こちらから何か行動を起こすことがとても苦手です。(用事があって必要な時は電話やメールはできます。)会っても、大抵聞き役で、自分のことはどうでもいいことしかしゃべることはできません。また人と会うこと自体楽しいと思えないことも多く(あれこれ気を回すのが面倒なことや遊ぶこと自体がくだらなく思えるのが理由)、学校や職場などでは仲良く過ごせても、そこを離れるとこちらから連絡を取らず、誘いの連絡が来ても断ってしまうこともあって、次第に疎遠になっていくことが多いです。現在は仕事をしていないため、ほとんど家族以外と会うことはありません。それが辛いと感じることもありますが、自分から行動を起こすことが難しく、また一人の方が気楽なのも事実なのでそのままです。 それゆえに上に書いたような過去の症状(?)も、幾度となく誰かに相談し、助けて欲しいとは思いながら、結局今までに一度も誰にも話したことはありません。
 大学生の時、勇気を出してカウンセリングに行ったのですが、いざカウンセラーを目の前にすると、どうしても話すことはできませんでした。代わりに全く関係ない事をしゃべり、問題ないと言われて帰ってきました。正直に話さなかったので、当たり前なのですが。 このように文章でなら、調子の良いときには自分のことも書くことができます。(ただ、このように相談させて頂くのは初めてです。何度か色んなサイトで書き込みをしようと試みたのですが、途中で何もかも書いている自分も嫌になり、また匿名とはいえ、人に自分の恥をさらすのがいたたまれず、投稿には至らなかったため。)知っている人、目の前にいる人に自分のことを話すのはとても怖いです。
 長くなりましたが、したがって自分は本やインターネットで見た、境界性人格障害の性格には当てはまらないような気がしています。 今現在気になることは、・一人でいると、手足にもやもやした熱感のようなものがあり、気がつくと冒頭の、手をぱんぱんと払う儀式をしている。気になると余計しないではいられませんが、誰か側にいると大丈夫なことが多いです。・毎日、過去にした自分の言動を細かく振り返り、恥をかいたことを何度も思い出す。そのたびに恥ずかしさで叫びたくなる。過去に誰かにされた嫌なことも同じように何度も繰り返し思い出し、落ち込む。・消えてしまいたい、もしくは他の誰かになりたいと思う。自分は客観的に見て特に不幸な人間であるとは思いませんが、時折自分ではなく、誰か別の人間であったらと思うことがあります。というよりも、基本的にはそう感じている、そういう気持ちが根底にあり、それが時々表面に出てくるという感じです。・どうでもいいことが頭から離れない。ここ数年は、誰かに対する嫉妬であることが多いです。知人やただテレビで見かけただけの人を羨ましく思う。それだけでなく、心の中でその人をこき下ろさないと気が済まないこともある。(本当はその人についてよく知らないのに。)・特に理由もなく、知人が自分のことを馬鹿にしているような気がする。そのことが頭から離れない。・動き出すまでに時間がかかる。朝から買い物に行かなければと思いながら、実際にいけるのは夕方であったりする。支度に時間がかかるのと、出かけるのに勇気がいるため。夫と一緒であれば良いのですが、一人で外出するのが怖いです。人に見られることが怖いというか、抵抗があるのだと思います。(誰も私のことなど見ていないとは思うのですが。)一日の終わりには大して何もできなかったことで落ち込み、明日こそはと思うのですがなかなか思うように動けません。・家の中にいても周りの家の音が気になり、自分の生活音は極力出さないようにしているので、息が詰まるような感じです。ただこれは、以前住んでいたところでトラブルがあったので、周囲の家の人がうちをうるさく思っていないか心配なためだと思います。・自分の能力が年々低下していくように感じる。記憶力や集中力が低下し、話や文章などもうまくまとめられない。また、自分の人格が低下しているように感じる。(上記の、よく知らない人に対する嫉妬など。)・何もかも虚しいと感じることが多い。これは高校くらいから今に至るまでずっとです。
先生にお伺いしたいのですが、過去、または現在における私は何かの病気なのでしょうか?(過去の私は境界性人格障害に近いようにも思うのですが、対人関係の面では当てはまらないと感じています。) もし現在病気だとしたら、このまま治療しないでいると悪化するでしょうか? また私には子どもが二人いるのですが、子ども達に影響はありますでしょうか?(もし現在私が境界性人格障害だとしたら、世代間伝播というものがあると聞いたので。)子ども達は可愛く思いますし虐待したいなどとは絶対に思いませんが、無自覚に傷つけてしまわないか心配です。  
 長々と、読みづらい文章で申し訳ありません。大変お忙しいとは存じますが、ご回答いただければまことに幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。 


林: 難しいケースだと思います。摂食障害と診断できる時期があったことは確かでしょう。境界性パーソナリティ障害(境界性人格障害)については、質問者の方がよく洞察しておられるとおりで、その傾向は見え隠れしますが、そう診断できるほどではなさそうです。また、

覚えているのは小学生の時、自分が汚いと思う物にふれた後や、何となく手足がもやもやしたように感じられるとき、片手でもう片方の手をぱんぱんとはたく仕草をするようになりました。清めの儀式のようなつもりだったと思います。最初大っぴらにしていたのが、変だと指摘されてからは、人前では傍目には手を揉んでいる様に見えるくらいの動作で行うようになりました。始めた当時は意味があったかもしれませんが、次第に馬鹿馬鹿しいと思うようになりました。何度となく止めようと思うのですが、しないではいられません。次第に一人でいるときもごく軽く手を払う程度になり、日常生活に大して影響が出なくなったので、かえって止められなくなったのかもしれません。これは今に至るまでずっと続いています。

これは症状としては強迫にあたりますが、強迫性障害と診断できるほどではなさそうです。摂食障害では、境界性パーソナリティ障害や強迫性障害を合併することは少なからずあり、この【1583】のケースのように、そのように診断はできないまでも、傾向は認められることはしばしばあるものですので、その意味では珍しいケースではありません。そして、摂食障害でも境界性パーソナリティ障害でも、一過性に精神病症状が見られることはあり得るのですが、

 また同時期に、誰かに監視されているような気がして、自宅に盗聴器や監視カメラが仕掛けられていると強固に思いこんでいたことがあります。

これは一過性とはいえ統合失調症を強く疑わせる症状であることは否定できません。しかし、とは言っても一過性であることは間違いありませんので、やはり統合失調症と診断はできません。

さらに、現在の症状、すなわち、

・自分の能力が年々低下していくように感じる。記憶力や集中力が低下し、話や文章などもうまくまとめられない。また、自分の人格が低下しているように感じる。(上記の、よく知らない人に対する嫉妬など。)・何もかも虚しいと感じることが多い。これは高校くらいから今に至るまでずっとです。

これらは境界性パーソナリティ障害の色彩がある症状とも解釈できます。(「年々低下する」というのはパーソナリティ障害的ではありませんが、自己不全感という意味では境界性パーソナリティの色彩があります)。しかしこれは微妙なところで、直接診察しなければ何とも言えません。

というわけで、判断は困難なのですが、ひとつ重要なことは、これらの症状があっても、この【1583】の質問者は、大きな問題なく社会適応しておられるということです。このことは、どんな障害の診断も否定する根拠になります。その意味では心配ないということも出来ますが、他方、今はどの診断にもあてはまらないが、これから問題が顕わになってくる可能性も否定できません。

そこで冒頭に記したとおり、「難しいケース」という結論になります。今どうすべきかも難しいのですが、自分の状態によく注意しつつ(それには周囲の人の意見も聞くことが必須です)、何か問題が生じてきたら精神科を受診するというのが現実的な対応だと思います。気にしすぎてもかえってマイナス、かといって全く気にしないと知らず知らずのうちに症状が出るおそれがあるという、難しいケースです。


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