精神科Q&A
【1541】皆と同じようにipodの手術を受けたい (続き)
【1541】のメール内容が妄想的であることは回答の通りです。しかし回答をお読みになるまでもなかったかもしれません。【1541】の質問者は、ipodをめぐって悩んでいる。自分以外の人は手術によってうまくやっていると思っている。このような内容だけで、質問内容からこれは妄想であると多くの方はお考えになったことと思います。
けれども、【1541】のケースを統合失調症であると推定するもう一つ重要な根拠があります。
それは、この内容を精神科医である私に質問しているという事実そのものです。
彼女はなぜこの内容を、精神科医に質問されているのでしょうか。
この矛盾に、注意深い読者はさらにお気づきになられたと思います。すなわち、
最近よく思うのですが耳にイャホンやヘッドホンをつけてなくっても音が直接聞こえる新しいバージョンのipodが出ていてみんなはそれを使っているので平気なのではないでしょうか? そしてその新しいバージョンは直接頭脳に音楽が聞こえてくる仕組みでもちろん手術で頭の中に埋め込まなくてはいけないでしょう。
このように確信しているとすれば、質問は精神科医でなく、脳の手術をする脳外科医にするのが自然でしょう。さらには、
そしてあたらしい最新の直接聞こえてくるタイプのバージョンのipodの手術を受けさせてもらえないでしょうか。万一お金が高くて足りない場合もこれからちょっとずつ貯金をしていくのでその具体的な情報が知りたいのです。
これについても同様で、この内容を精神科医に質問するのは奇異なことと感じられるでしょう。
もちろん可能性としては、脳の手術をする医師は精神科医だと誤って信じておられる(それはやや非常識ですが、病的な誤信とまではいえないかもしれません)ということも考えられますが、
どうかいいえをクリックしないままでそのお知らせを見せてもらえないでしょうか。
これに至っては、何科であれ、医師に質問する事項でないことは明らかで、ipodの販売元に問い合わせるのが自然でしょう。もちろんその問い合わせも並行して行なっておられるかもしれませんが、いずれにせよ医師に質問するのは奇異です。
なぜこのような奇異な質問がなされているのか。
それに対して万人が納得できる答えはありません。しかし、確実に言えることは、「統合失調症では、しばしばこのようなことがある」ということです。そしてこのようなことがあることの理由としては、「病識はないが、病感はある」というのが一つの説明です。つまりこの方は、ipodについての妄想を確信している、それが病気による確信であるとは思っていない、すなわち病識はない。けれども、心のどこかで自分の変調を感じており(それを病感と呼びます)、それが精神科医に救いを求めるという行動として表れている、という解釈です。(【0364】とその続きもご参照ください)
この解釈は、証明は不可能です。けれども、統合失調症の患者さんの言動(特に、精神科への受診行動)を観察すると、このように解釈するのが正しいと思える場合がしばしばあります。そして【1541】は全体としてそれに該当します。
ここからはさらなる推定になりますが、【1541】の質問者は、すでに精神科を受診しているという可能性、また、このメールに書かれていない幻聴などの症状も実はある可能性も否定できません。これもまた統合失調症の方ではよくあることですが、自発的には症状のごく一部しか語らず、よくお聴きすると他の症状があることが明らかになるというのは、臨床ではよく経験されます。
それからさらに付け加えますと、
その友達がイャホンをしていないのに音楽が常に流れているように楽しそうに笑ったりしているのを見ると憎くて裏切られた気持ちになってきます。
これは、他者の、本来は自分に関係のない表情を自分(の内面)に関係づけているという意味では、統合失調症にかなり典型的な症状であるといえます。
以上より、【1541】の質問者は統合失調症にほぼ間違いありません。もしまだ治療を始めていないのであれば、なるべく早く精神科を受診されることをお勧めします。