精神科Q&A

【1506】うつ病から回復し、次のステップを考えています(【0543】のその後)


Q 41歳、女性です。 以前、 【0543】不安神経症と診断されていたのですが、今の症状はうつ病でしょうか でお世話になりました。まずは簡単な経過を説明します。
X年3月 初めてのパニック発作
X年7月 不安神経症と診断される
X年9月 うつ病と診断され、休職を勧められる
X年10月 休職に踏み切る
X+1年7月 会社の休職規定に伴い退職
X+2年9月 結婚に伴い、地方に転居
X+3年4月 精神科病院に入院
X+4年9月 病状好転により、発病以来初めて冷静な判断力を取り戻し、離婚
X+4年3月 試験的に退院。東京に戻り転職し、現在に至る

こうして振り返ってみると、こんなに時間が経過したのかと驚きます。状態がひどかった頃の記憶は殆どありません。自分にとっては入院中の医師との出会いが大きな転換点でした。「非定型うつ病」との診断で、どんな時に頻繁に発作が起きるのか?というところからカウンセリングが始まり、心の痛いところに触れられると決まって数時間後に調子が悪化するパターンの繰り返しでした。

入院中、非常に長い時間をかけて話をすることによって、自分の発病がX-6年の大きな離別に起因していることがわかりました。当時、約八年つきあっていた彼が親兄弟共に失踪するという出来事があり、本当に深い悲しみを味わいました。私は海外に住んでいたので、この出来事がきっかけで翌年帰国し、10年ぶりの日本の生活や仕事に慣れることで必死な数年間を送りました。それも一段落し、過去は過去と割り切って別の人生をやりなおし出来ていると思い込んでいたのですが・・・。いずれにせよ、これに気付いたことは非常に大きな収穫で、回復へのきっかけをつかむことができたのです。

退院後、意を決して社会復帰。仕事は甘くありませんでした。管理職でありながら体調の波で休むことも多く、こんな状態で仕事をする資格は無いと自責の念にかられ、ひどい疲れで土日は寝たきり。入院時の主治医から生活を送る上でのご指導を頂き、最近やっと回復した実感が持てるようになりました。現在はトリプタノールを一日100ミリ服用し眠剤を併用しています。発作は出なくなりました。主な症状と言えるものは不眠と、時折訪れる抑うつ感ですが、どんな人間でも落ち込むことはあるし落ち込んで泣くのは当たり前だと思うようにしています。

さて、本題ですが、以前ご相談した際に林先生から頂いた【0543】のアドバイス、すなわち、

*** 

私が本当にうつ病だとしたら、これからの生き方をじっくり考えていくことが、治癒につながるのでしょうか。

に対する答えは、はっきりと「ノー」です。治癒にはつながりません。悪化につながる可能性のほうが高いです。

 ただしそれは、「今」それを考えることが、悪化につながる可能性が高いということです。治ってからなら話は全く別です。

 というのは、うつ病には判断力の低下という症状もあるからです。生き方を考えるというようなことをすると、ますます悲観的になり、回復が遅れることにつながりやすいのです。

 うつ病の本を読むのも、生き方を考えるのも、よくなってからであれば、再発の予防に役立ちますが、今のあなたには、むしろ逆効果です。まずうつ病を治してください。うつ病についていろいろ考えるのは、そのあとです。


*** 

↑この部分、つまり『今後の生き方を考える』という部分は、今になってやっと本当に理解できたと思っております。生き方という表現は、二つのレベルがあると思います。まずは、現在も薬を服用し毎日が万全の状態ではないため、QOLの部分で病気とどう折り合いをつけて社会生活を送っていくか。次は、発病の理由となった過去の離別や悲哀とどう向き合っていくべきなのか。

上で触れたように、当時の彼と一家は蒸発に近い状態で居なくなりました。友人知人も彼の行方は全くわかりません。アメリカに住む東欧からの移民でしたので、もしかすると祖国に帰ったのかもしれません。調べる術はありません。現在どうしているのか?元気なのか?政情不安極まりない国から渡米し、明るい将来がすぐそこまで見えていたのに道半ばで諦めざるを得なかった(と推測しています)彼自身の気持ちを考えると、本当に心が痛みます。

入院時の主治医に言われたことは、「あなたは、この事を一生抱えて生きていくことでしょう」。この事は、私も認めざるを得ません。私の中で、この悲しみを忘れることは確かに無いだろうと思います。でも、そうだとしても、私には自分の人生があります。前向きに生きていきたいのです。やっとそう思えるようになりました。

現在は睡眠時間の確保に神経を遣い、長旅はしない、無理はしない、疲れたら休む。これらの対応はQOLに必要な具体策ということは当然理解しています。ただし、やっと前向きに生きようと思えるようになった今、仕事に影響が出ない範囲で旅行も楽しみたいですし、親にも顔を見せに行きたい、愛犬(自殺しないように、と思い四年前に飼いはじめ非常に可愛がっています)がのびのび走れる所にも連れていきたい。

体調の悪化を防ぐための予防策がハードルになり、次のステップに進めない気がしているのです。現状では、投薬を全体の寛解状態と認識していますが、完治を望むのは難しいことでしょうか?

長文で恐縮ですが、林先生のご意見をお伺いしたいと思います。もしご回答頂けましたら幸いです。


林: 経過のご連絡をいただきありがとうございました。約5年ぶりになりますが、このようにしてご連絡をいただけますと、私自身、回答を見直し反省することにもつながります。深く感謝申し上げます。

現在の症状については、あなたの洞察の通りだと思います。入院による主治医との時間をかけたお話し(これが入院精神療法にあたります)によって、あなたが本来お持ちになっていたいわば治癒力が活性化されたことがこのメールから読み取れます。そこに抗うつ薬(トリプタノール)の効果が重なり、いまの寛解状態が得られたのでしょう。

現状では、投薬を全体の寛解状態と認識していますが、

この文章、今ひとつ意味がわかりかねますが、「投薬により寛解状態が得られたと認識している」といった意味でしょうか。「全体」は「前提」の誤りとか? だとすれば、それ自体は間違いありませんが、薬だけの効果ではないでしょう。

完治を望むのは難しいことでしょうか?

あなたが「寛解」と「完治」をどのように使い分けられているのかわかりかねますが、「薬なしでも再発しない」ことを「完治」とおっしゃっているのでしょうか。だとすれば、その答えは、この【1506】に限らず、うつ病では常に同じです。それは、
「薬なしでも再発しないかもしれません。けれども、薬を飲んでいたほうが再発の確率は低くなります」
です。この【1506】では、これまでの経緯などを詳しく書いていただいています。ここまで書いていただけることはむしろ少ないかと思いますが、書く・書かない はともかく、どなたにもその人なりの複雑な事情や経緯があるものです。それを一般化することはどんな場合でも不可能です。ですから、うつ病と薬の関係は、上のかぎ括弧の文章の通りになります。

それはそれとして、この【1506】の質問者の方には、いま私から申し上げるべきことは一つだと思います。それは、

もう私から申し上げることはない

ということです。
すでに良き主治医にめぐりあわれ、うつ病はほぼ寛解し、ご自分の状態への洞察も充分であることが、メールから充分に読み取れます。これからは、ネットなどに助言を求める必要はないと思います。というより、それはかえってマイナスになるでしょう。メールの情報だけに頼るネットの相談とは、基盤がきわめて脆弱なものです。あなたはもうそんなものに頼るべきではありません。

体調の悪化を防ぐための予防策がハードルになり、次のステップに進めない気がしているのです。

そういう面もあるかもしれません。しかし、今のあなたにはそのハードルを乗り越える力があると思います。

さらに良くなられた時点で、またご連絡をいただければ嬉しく思います。


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