精神科Q&A
【1482】統合失調症の妻の症状が、統合失調症らしくない
Q: 私(60歳)の妻(56歳)の相談です。妻は統合失調症の治療を受けているのですが、現在、次のような状態(症状)にあります。統合失調症を発症した場合において、予後(後遺症)の中にこのような状態になるのでしょうか。この病気の経過は、さまざまと聞いていますが、後述します妻の状態も、統合失調症の経過のひとつなのでしょうか、
発症から現在までの状態を書きますので、よろしくお願いいたします。
X年10月頃、実際は友人が自殺などしていないのに、自分のせいで友人が自殺してしまったと、身体を震わし妄想を起し錯乱状態となったため、近くにある大学病院の神経科・精神科に相談した所、そのような状態になるのは、必ずしも精神病とは限らないので(脳炎、高熱、等でもそのようになる)うちに来る前に、内科医に診てもらってから来てくれと言われ、又、当病院は、原則、紹介状無しでは診ないと言うことなので、近所の掛かりつけの内科医に連れて行ったところ、医師は、妻は、なにごとかの心配し過ぎで、精神的に不安定になり、睡眠をとってない為(寝てない為)こんな状態になっているようなので、睡眠薬をあげるから、これを飲まして、とにかく寝さしなさいと言うことで、飲ました所、すやすやと眠り(8時間程度)、目が覚めると、いつもの妻の状態に戻ったので、やれやれと思いそれ以後、何も治療せずに、過ごしていました。(当時、私は、精神病についての知識がまったくありませんでした。)
しかし、X+2年2月同居していた私の母の死をきかっけに(妻は、私の母を信頼し周りの人もびっくりするぐらい嫁、姑の仲が良かった)、じょじょに、社会活動(契約行為、買い物)日常の家事、(炊事、洗濯、金銭の管理)が満足にできなくなり、X+5年4月に「何しんどい、何しんどい」と耳元で聞こえると幻聴を訴え、かつ、水、お茶を何度も飲み、2,3分毎にトイレに行き、何度も犬を連れて散歩に行く等の異常行動を繰り返し、混乱状態になりました。
この時は、前述した内科医は廃業していたので、別の掛かりつけの内科医(精神病も診察する)に見てもらったところ、統合失調症(精神分裂症)に間違いないとの事で、下記の薬を投薬してもらいました。
抗精神病薬(セレネース)、精神安定剤(セニラン 2)、アキネトン、1日3回、各1錠
服薬後、幻聴(何しんどい、何しんどいと聞こえる)と異常行動は治まり、1年間その内科医に通院したのですが、一向に社会生活、日常の家事が改善しないので、内科医と相談し、X+6年4月紹介状を書いてもらい大学病院の精神科に転院し現在に至っているのです(月に1度の通院)。大学病院の精神科の診断も掛かりつけの内科医と同じ診断で投薬も抗精神薬(セレネース)、精神安定剤(ホリゾン)、アキネトン、1日3回、各1錠とほぼ同じでありました。現在は、セレネースをリスパダールに変更しています。この間、幻聴、常同行動は、無いのですが、社会活動、日常の家事が、さらにできなくなり、X+7年7月下旬、極度の不安からか、幻聴が一日中発生し、かつ、常同行動(頻繁にトイレに行く)を起こし、妄想を起こし「まだ生きてる、もうあかん、まだ生きてる、もうあかん」と叫び錯乱状態となりました。
これがきかっけにさらに悪化し、現在は、幻聴、錯乱状態は治まっていますが、時々、不安になると幻聴が発生し、常同行動(頻繁にトイレに行く)を起します。又、日常生活は、身の回りの事が全くできなくなり、トイレ、食事以外は、ずっと私の傍から離れない状態が続いています。(目に焦点が無く、何かをずっと考えている状態で家の中でも私から離れない。)私から見ると、妻の脳は、今の瞬間の情報(見る、聞く、感じる、思考する等)の処理が出来ていないように思え、パターン通りの行動しか出来ないように思います。よく書かれている休息期の状態とは違い、認知症の患者と似た状態です。(時間の感覚は無し、同じ事を何度も聞く、言う、不安が発生すると、落ち着きがなくなる。一人で留守番が出来ないし、トイレと簡単な物事以外、単独で行動が出来ない、食べて寝るだけ、その他、認知症と似た状態)つまり、常時介護に近い状態なので、私が、家事を含め何もかもやっている状態です。後遺症の中には、ほとんど、認知症と同じ状態(症状)になってしまう例もあるのでしょうか、又、改善は望めないのでしょうか、もちろん、このことについては、主治医に話しましたが、主治医は、統合失調症に間違い無いと云うような簡単な答しか返ってきません。
(この病院の精神科は、1時間に10人の患者を診察するほど忙しい病院で、患者1人に長い時間、相談、質問を聞く余裕が無い状態なので、素人に説明しても判らないと思っているのか、医師は、病状に関しての詳しい説明は、してくれません。)
もうひとつの疑問は、あまり、妻のような認知症と似た状態になる詳しい説明、解説が書かれた、情報(書籍、インターネットのサイト等)がほとんど無いと云う事です、妻の状態(症状)は、特異な例なのでしょうか、それとも、このような状態になるのは、珍しく無いのでしょうか。
又、この先、妻は、どのような経過を辿るのでしょうか、よろしくお願い致します。
補足ですが、認知症の症状に似ていますが、若年性認知症の可能性は、他の病院を含め、検査(脳のレントゲン)を2回していますので無いと考えられます。
林: 奥様の診断は統合失調症だとして矛盾はありません。
よく書かれている休息期の状態とは違い、認知症の患者と似た状態です。(時間の感覚は無し、同じ事を何度も聞く、言う、不安が発生すると、落ち着きがなくなる。一人で留守番が出来ないし、トイレと簡単な物事以外、単独で行動が出来ない、食べて寝るだけ、その他、認知症と似た状態)
上記は、統合失調症でまだ病状が改善していないときにはよく見られる症状です。認知症でこのような症状がないとは言えませんが、これだけを見てもむしろ統合失調症らしい症状ですし、これまでの経過から見れば、統合失調症とみるのがごく自然です。
それから、上記の最後に「その他、認知症と似た状態」と書かれていますが、このような書き方では残念ながら何も判断できません。具体的な症状の記載が必要です。そもそもあなたは統合失調症のかなり典型的な症状を認知症と誤認しておられるようですので、そのあなたの判断による「認知症と似た状態」は、「認知症とは似ても似つかない状態」である可能性も強いと言えます。
妻のような認知症と似た状態になる詳しい説明、解説が書かれた、情報(書籍、インターネットのサイト等)がほとんど無いと云う事です。
そんなはずはありません。あなたの読み方の問題だと思います。
妻の状態(症状)は、特異な例なのでしょうか、それとも、このような状態になるのは、珍しく無いのでしょうか。
ごく普通の統合失調症の経過です。
又、この先、妻は、どのような経過を辿るのでしょうか、
経過はさまざまです。統合失調症の本をお読みになることをお勧めします。
経過に限らず、このメールに書かれている内容はすべて、統合失調症の本をよくお読みになればすべて出ています。いずれにせよ診断は統合失調症に間違いありませんので、基本的には今の治療で問題ありません。けれども、一定期間治療を受けておられるのにもかかわらず、症状が安定していませんので、薬物療法の見直しや、場合によってはいったん入院するという手段も考慮する必要があるでしょう。
なお、
若年性認知症の可能性は、他の病院を含め、検査(脳のレントゲン)を2回していますので無いと考えられます。
脳のレントゲンをいくら撮っても、認知症でないという診断はできません。CTやMRIでも同じことです。
(奥様の症状からは、そもそも認知症を考える必要はないので、この回答は余計なことですが)それからもう一つ。奥様はすでに医師から統合失調症と診断されており、メールの内容から見てもその診断に矛盾はないので、これは余計なことになりますが、事実を回答するという精神科Q&Aの方針に従ってつけ加えますと、統合失調症以外に、うつ病の可能性もあると思います。うつ病でもこのケースのように不安・焦燥が強いことは十分にあり得ますし、幻聴(特に、このケースのような、単純で、かつ、うつの気分に一致した内容の幻聴)があっても矛盾はありません。このようなうつ病を精神病性うつ病と呼ぶこともあります。治療としては、現在の抗精神病薬による方法も一つですが、抗うつ薬に切り替える方法や、両者を併用することも考えられます。また、不安・焦燥が強い状態が持続するようでしたら、電気けいれん療法も考慮していいと思います。(これは、診断が統合失調症であっても同様です)。