精神科Q&A

【1479】私は男関係に悩んでいるだけなのでしょうか


Q:  林先生の「境界性パーソナリティ障害 患者・家族を支えた実例集」を拝見し、ここにたどり着いた者です。
私が心療内科に通い出したのは5年ほど前ですが、それ以前から自分でも分からない症状が多く、自分が何者か確かめるため通い出した次第です。
 初めは中学生の時の過呼吸かもしれません。それ以前の小学生から「多重人格」とあだ名を付けられるほど、ころころと性格が変わり、また物心付いた時には、すぐに手を挙げ言っていることが八つ当たりやバカにしているとしか思えない親を信用出来なくなっており、自分が子供を育てる時はああしようこうしようと具体的に準備(幼稚園の頃から)してきました。しかし、中学生時に家族や学校で心の負担が大きくなった私が、過呼吸で倒れる事を繰り返すようになり(それは薬で25才くらいに治まりました)、深く考えすぎて一時的に拒食症になりと(当時医者にかかりましたが、わがまま言うなと怒られ医者不信になりました)、少々問題はありましたが、周りに対する不信感以外は特になく、逆にそれを知らない周りは私を信用して生活してきました。その後高校に進学し、学校を辞めるとか、適切なのは文系なのに成績の悪い理系に無理矢理進み、志望も支離滅裂なことを繰り返しました。そして親に盗聴されているからと家に帰るのが苦痛で、彼氏の家に上がり込みセックス三昧し(そうすることで親から捨てられたという気持ちが少し満たされたからです)、別れた後にレイプで回され妊娠中絶しました。その後、文系の大学に現役で辛うじて受かり、自宅から通えるのに一人暮らしをし(親と居ると殺されると思ったからです)、ストーカーやDVに何度かあいました。でも、彼氏が居ても大学の友達の半分くらいとはカジュアルセックスしたと思います。なぜかというと、どうしても彼氏のことが信用出来ないからです。必ず私をゴミのように捨てる、だから私は貞操義務はないし、その虚しさを穴埋めして当然という理由です。でも、私の浮気がばれたことはなく、たいてい私が相手を試した時に相手の浮気や暴力が出てくるといった具合でした。当時の私は傷とあざだらけでしたが、信用出来ない親には一言も相談しませんでした。中絶は高校時代のをあわせて3回しました。どれもかなりのショック体験です。もともと子供を育てることが夢だったので、毎回記憶が無くなったり幻覚を見たり妄想でわめいたりましていました。それでもやめられませんでした。
 大学院に入り、かなり調子がおかしくなっていた私は旅行先で知り合った誠実そうな僧侶と付き合うことになりましたが、彼は私の態度が気に入らないと、今まで親に内緒にしてきたことを全て手紙にして実家に送りつけました。それまで自傷行為といえば中学生時代から首を吊ることしかしてこなかった私ですが、それでショックを受け、そのころから通っていた心療内科でもらってきた薬を(貯めていました)200錠ほどのみ、ハサミで腕を切りまくりました。その時も私は二股をしていて、別の彼氏によって発見、救急車で運ばれました。それをきっかけに僧侶とは別れ、もう一人の彼一人に絞りましたが、浮気癖は全然治りません。でも、理由があるからです。彼は必ず私を捨てるから、私は何をしてもいいはずなんです。彼は今浮気してるかもしれないし、近い将来する可能性もあります。
 ここ6年ほどはひとりでいると、自傷行為や自殺行為がとまりません。摂食障害で過食嘔吐を繰り返しています。電車に乗れなかったり対人恐怖で部屋からでられない日が続いたり、かと思えばデパートの物産展にも行きます(異常なほど買い物をします)。記憶もたまに断片的にしか覚えてないこともあります。20才くらいから毛をあり得ないほどむしったり、首を絞めてストレスを解消していましたが、今は医師に病的と言われる状態です。セカンドオピニオンやカウンセリングにも連れて行かれましたが、医師やカウンセラーに対してあなたは信用出来ないとはっきり言い、一回で辞めて、今は一人の先生に5年ほどついています。最近かなり良くなったのですが、また病的な症状が出てきました。最初の診断では、病気が多すぎて特定出来ないと言われ、次はボーダーと言われ、診断書には不安障害と書かれました。私は何者なんでしょうか?男関係に悩んでるだけでしょうか?というか、治るんでしょうか?


林: 精神科の他の疾患と同様、パーソナリティ障害(人格障害)も、その人全体をみて診断するもので、したがって、ひとつひとつの症状のチェックからは本当は診断することは出来ません。けれども現実には、特に診断を説明する場合には、ひとつひとつの症状について順に行なっていく以外の方法は(メールなどの場合は特に)難しいものです。そして診断基準も、そのような形を取っています。

今回、この【1479】の質問者の方は 境界性パーソナリティ障害 患者・家族を支えた実例集 をお読みになっているとのことですので、メールに書かれている症状を、この本の内容に照らして(ページも示します)説明してみます。結論としては、一つ一つの症状と、全体像からみて、診断は境界性パーソナリティ障害にまず間違いないでしょう。以下、メールからの抜粋と、本の該当ページとケースを示していきます。

彼氏の家に上がり込みセックス三昧し

これはp.32、自己破壊的行動にあたります。(ケース6「セックス依存」)

ストーカーやDVに何度かあいました。でも、彼氏が居ても大学の友達の半分くらいはカジュアルセックスしたと思います。なぜかというと、どうしても彼氏のことが信用出来ないからです。必ず私をゴミのように捨てる、だから私には貞操義務はないし、その虚しさを穴埋めして当然という理由です。

自分は必ず捨てられる。これはp.20、見捨てられ不安としがみつきです。(ケース1、「見捨てないで」)

中絶は高校時代のをあわせて3回しました。どれもかなりのショック体験です。もともと子供を育てることが夢だったので、毎回記憶が無くなったり幻覚を見たり妄想でわめいたりましていました。

p.53、一過性の「精神病」です。(ケース12「幻覚と、奇妙な体験」など)

中学生時に家族や学校で心の負担が大きくなった私が、過呼吸で倒れる事を繰り返すようになり(それは薬で25才くらいに治まりました)、深く考えすぎて一時的に拒食症になりと(当時医者にかかりましたが、わがまま言うなと怒られ医者不信になりました)、少々問題はありましたが、周りに対する不信感以外は特になく、

拒食や過食は、境界性パーソナリティ障害に合併しやすい症状です。
また、他者に対する基本的信頼間が持てないことは、この障害の中核症状とする考え方もあります。

それまで自傷行為といえば中学生時代から首を吊ることしかしてこなかった私ですが、それでショックを受け、そのころから通っていた心療内科でもらってきた薬を(貯めていました)200錠ほどのみ、ハサミで腕を切りまくりました。その時も私は二股をしていて、別の彼氏によって発見、救急車で運ばれました。

p.24、自殺リピーターです。(ケース2「リストカット」、ケース3「過量服薬」)

彼は必ず私を捨てるから、私は何をしてもいいはずなんです。

p.20、見捨てられ不安としがみつきです。(ケース1、「見捨てないで」)

ここ6年ほどはひとりでいると、自傷行為や自殺行為がとまりません。摂食障害で過食嘔吐を繰り返しています。電車に乗れなかったり対人恐怖で部屋からでられない日が続いたり、かと思えばデパートの物産展にも行きます(異常なほど買い物をします)。記憶もたまに断片的にしか覚えてないこともあります。20才くらいから毛をあり得ないほどむしったり、首を絞めてストレスを解消していましたが、

p.32、自己破壊的行動、及びp.24、自殺リピーターです。

今は一人の先生に5年ほどついています。最近かなり良くなったのですが、また病的な症状が出てきました。

境界性パーソナリティ障害は、治療が難しいと言われていますが、p.71からの三章 治療 の中で繰り返し強調したように、回復しない場合の多くは、そもそも治療を続けないことが原因です。そして治療を続けられないのは、境界性パーソナリティ障害の根底にある人間不信が主治医にも向けられるためです。その結果、次々に医者を変えることになり、結局は何の治療にもならないで終わることがしばしばあります。ですから、p.76 境界性パーソナリティ障害の治療 にお書きしたように、治療を続けることが最重要なのです。
 この意味で、この【1479】の方は、一人の先生の治療を5年ほど受けておられるとのことですので、回復への期待は大いに持てると思います。ぜひこれからもこの先生を受け続けてください。これまでの症状は境界性パーソナリティ障害としてかなり典型的ですが、根気よく通院することによって、良い方向に向かうものと思います。


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