精神科Q&A

 【1467】友人がうつ病と診断されたと言っているが、うつ病には見えない


Q: 去年うつ病と診断を受けた友人A(30代・女)についてご相談いたします。
現在Aは(同じ県内の実家からかなり離れた市で)独り暮らしです。勤務先が用意してくれた家に住んでいるので家賃はゼロ。休職中ですが、傷病手当が発生しているため収入もある程度はあります。
Aの訴えるうつ病症状は以下のようなものです
・家事や洗濯など日常生活を送るのもしんどい
・何も出来ない自分はダメな人間だと悲観する
・対人恐怖症である(職場の人に「変わり者」と言われたから、と言っている)
・担当医から「子供の頃、母親との関係性が良くなかったからではないか」と言われた
(Aの両親は小学生の頃に離婚。母親がAと弟を養育。Aが成人してから母親が出来ちゃった再婚)

Aの母親は「自分がちゃんと愛情を注がなかったせいかもしれない」と、Aに対して負い目を感じ、Aに対してどのように向き合っていいのかわからないと言っています。
私は、Aはうつ病ではないのではないかと疑念を抱いております。
その疑念の理由としては
・ロックバンドのコンサートに出かける (しかもきっちりとお洒落をして。”追っかけ”行為もする。)
・他の友人宅へ押しかけ、生活を侵害する。 (何日も泊り込む、または泊まりたいとせがむ)
・自分で作成した洋服や小物(Aは裁縫が趣味)を、頼んでもいないのに何度もプレゼントする。断っても「作品が出来ました」と写真付きメールを送ってくる
・店を経営する友人の所へは「(小物を)店に置いてお客さんに販売をしてくれ」と持ってくる。はっきりと断っても2〜3日するとまた同じ事の繰り返し。
・電話をかけてきては一方的に喋り続ける
・夜中に電話をかけてきて「終電を逃したから車で迎えに来て欲しい」とせがむ。
 親に迎えに来てもらうように進言すると「親にはナイショで出かけたらそれは出来な  い」と反論される。
・買い物欲が尋常ではない
・サラ金にまで手を出している(返済は母親が肩代わりしているらしい)
と、上記のような行動、言動がうつ病を発症している人間とはどうしても思えないのです。

Aに対して「仕事がしたくないだけでは?」「擬態うつ病なのでは?」と疑いを持ってしまいます。 またAの担当医は入院を勧めているようですが「病院には針と糸が持ち込めないから」と入院を拒んでいます。
Aに対してはっきりとした物言い(注意、叱責)が出来る人間はわたしの他にいません。そのせいもあってか、最近までAはわたしのことを避けていたようです(多分怒られると思ったのでしょう)他の友人たちからAの近況を相談され発覚した事です。
わたしも含め、周囲の人間も困り果てています。
なのでみんなで話し合い、Aに対して距離をとるようにしています。


林: これは二つの可能性があります。

(1) 第一は、擬態うつ病です。メールの最初に書かれているような症状を、Aさんが今も訴えていて、かつ、メールの後半のような行動を取っているのであれば、擬態うつ病という判断になります。
 そう判断できる理由は、Q&Aにお書きした通りですので細かいことは省略しますが、ひとつのポイントは、この人が多くの擬態うつ病の人と同様、うつ病を理由に、あたかも特権階級のような生活をし、周囲にも自分を特別扱いするよう求めていることです。うつ病という(ニセの)病名に安住しているとも言えるでしょう。(それが擬態うつ病の中のある一群の特徴だということです。すべての擬態うつ病がそうであるというわけではありません)
 その結果、周囲の人々が大きな迷惑をこうむっているのはこのメールから明らかですし、この人が自分をうつ病と思うことは、本人にとって何の利にもならず、マイナスばかりです。ごく一時的には特権階級の生活を享受できるかもしれません。しかしそんなものが長続きするはずはありません。この【1467】の質問者の方も最後に言っておられます。

なのでみんなで話し合い、Aに対して距離をとるようにしています。

(2) しかし、第二の可能性があります。それは、Aさんが躁うつ病だということです。メールの冒頭に書かれているAさんの訴える症状が、今はなくなっていて、メールの後半に書かれているような行動をとっているのだとすれば、最初の状態が躁うつ病のうつ病相、今の状態が躁うつ病の躁病相ということになります。だとすれば、(1)はいわば濡れ衣であり、質問者をはじめとする友人達が単に距離をとるようにしているのは、Aさんに対して気の毒ということになるでしょう。むしろ、入院できるような工夫をしてさしあげることが勧められます。

(1),(2)のどちらであるか、メールだけからは判断できません。ポイントは上にお書きしたとおり、今の時点でうつの訴えがあるのかどうかということです。それから、もともとAさんがどのような人であったかということも重要な情報です。今のAさんの行動が、もともとのAさんのそれとはかけ離れたものであるとすれば、躁うつ病の可能性の方が高くなります。
 それから実はもう一つ、躁うつ病の躁うつ混合状態の可能性もあるのですが、これは通常はメールから判断することはきわめて困難です。



その後の経過(2009.11.5.)


精神科Q&Aに戻る

ホームページに戻る