精神科Q&A
【1428】薬を飲みすぎる母はうつ病? アルツハイマー病?
Q:
30代女性です。50代の母がうつ病になり、現在ジェイゾロフト50mg×朝食後1錠のみ服用しています。 父は20年前に他界し、母は女手一つで4人の子どもを育ててきました。そんな母は、2年前、会社のいざこざで仕事を辞めました。それと同時に経済的に苦しい生活(父の遺族年金のみ)となり、逼迫していたことと、更年期障害、私の結婚(遠方に嫁ぐ)など、母にとって不安定な時期でした。
半年前より有りもしないこと(例えば「息子(同居している私の弟)が警察に捕まった。」など)と近所に触れ回ったり、電話で「もう死にたい」と泣いて訴えてきたりして「精神的におかしい」と感じる出来事がありました。同居の弟によると、急に怒ったり泣いたりする、物忘れが激しい、言った事をすぐに忘れる、家事のやり方がわからずやれない、といったことがあり、心配になって、3ヶ月前、嫌がる母を無理やり病院へ連れて行きました。 最初は心療内科(クリニック)へ相談、そこで長谷川式をやり、簡単に問診をした後、「うつもしくは認知症が疑われる。」とMRI検査を勧められました。その日のうちに神経内科のA医師を紹介してもらい、MRIを実施。血液検査もしました。そこで若干の海馬の萎縮を指摘されました。その後、血液検査の結果が出た上で、「若年性アルツハイマー病」の診断がなされました。 2週間、慣らしのアリセプト3mgを飲んで、再度診察に行くと、A医師は今度は「画像を見直したが、やはりこれはストレスだね。アルツハイマーにしては脳の画像がきれいだから。」と言われ、今度はジェイゾロフト25mgに変わりました。 ジェイゾロフトが抗うつ薬と知り、うつなら治る可能性がある!と希望をもちました。2週間服薬した後、再度診察をしたところ、今度は「症状の改善がないな。やはり薬を元に戻しましょう」と今度はアリセプト5mgになりました。 これには母の体が馴染めず、嘔吐、下痢など消化器症状が出てしまい、母が泣きながら「この薬を飲むのはつらい」と訴えてきました。私自身も母の近況を報告すべく、短い診察で伝わるように書類を作っていったりしたのですが、A医師はその場の母の様子だけで判断されるようでしたので、思い切って最初の心療内科に(そちらが近医なのでとお願いして)紹介状を書いてもらいました。
心療内科のB医師は母の話と共に私の話や同居の弟からの話を聞いて、「現時点でアルツハイマーかうつかを診断するのは難しい。まずは抑うつ状態やパニック状態の軽減を目的に、うつの治療を始めましょう。薬の効果を見ながらゆっくり判断していきましょう」と言ってくださり、この医師を信じていこうと思っています。 最初はジェイゾロフト25mgから開始し、1ヶ月ほど経ったころから50mgに増やして様子を見ています。母にも「うつ病だって。きちんと治療をすれば治る可能性もあるんだって。」と説明すると、それまで通院を嫌がっていたのですが、前向きに治療する気持ちになってくれました。気分的にも明るくなり、電話でも笑い声が聞かれるようになり、ホッとしていました。 この頃、弟が仕事の都合(出向)で一時的に家を出て、1人暮らしをするようになりました。近所の方にも事情を説明し、声かけをしてもらったり配食をしてもらったりとサポートを得ながら現在生活をしています。私も食事を送ったり、仕送りをしたりしています。
しかし、このころから、母が服薬を間違い、飲みすぎるようになってきました。母には自覚がありません。飲みすぎても飲み忘れるよりいいんじゃない?とのん気なことを言っています。朝1つ飲むというのは出来ているのですが、どうも夜もう1錠飲んでいる日があるようで、2週間分の薬を10日ほどで飲みきってしまっています。薬局で分包にしてもらい、日付を入れてもらい、カレンダー付きデジタル時計で日付を確認しながら飲むようにさせても、間違ってしまいます。 この間違いが●うつによるやる気の問題や記憶の問題なのか●薬の飲みすぎによってぼんやりしてしまっているのか●早く治りたい気持ちの表れなのか●やはりアルツハイマーの可能性があるのかどう解釈してよいのか、悩んでいます。また、飲みすぎない工夫についてよい方法はないか、知りたいです。 お忙しい中、恐縮です。
林: 高齢者の場合、うつ病と認知症(アルツハイマー病など)の区別がつきにくいことは、【0832】などでご説明した通りです。この【1428】も、診断はまだどちらとも決め難い時期といえます。質問文の中のいくつかのポイントを挙げますと、
再度診察に行くと、A医師は今度は「画像を見直したが、やはりこれはストレスだね。アルツハイマーにしては脳の画像がきれいだから。」と言われ、
この説明は、アルツハイマー病についての医学常識を無視したものです。MRI画像で、はっきりした所見があった場合はアルツハイマー病と診断することも可能ですが、逆に所見がない場合(つまり、ここでいう「きれい」な場合)には、アルツハイマー病であるともないとも言い切れません。このようなケースでは、SPECTという検査で、脳の血流を調べると、診断がつくこともありますが、それも絶対につくとは言えません。
今度はジェイゾロフト25mgに変わりました。 ジェイゾロフトが抗うつ薬と知り、うつなら治る可能性がある!と希望をもちました。2週間服薬した後、再度診察をしたところ、今度は「症状の改善がないな。やはり薬を元に戻しましょう」と今度はアリセプト5mgになりました。
抗うつ薬(ジェィゾロフト)を2週間服用して症状が改善しないからといって、うつ病でないという判断の理由には決してなりません。
画像を見てアルツハイマー病でないと即診断したこととあわせ、このA医師の診断手法は非常識と言わざるを得ません。
一方、B医師の方針は現実的でしっかりしたものであり、したがって今の治療を続けるのが最善と言えます。
現在の問題はご質問にあるように、薬を飲みすぎてしまうことのようですが、これに対しては原因をあれこれ考えるより、とにかく飲みすぎないようにさせることが最優先です。
飲みすぎない工夫についてよい方法はないか、知りたいです。
そのような工夫を考えるというのは非現実的です。このケースでは薬はご家族が管理する以外にないでしょう。