精神科Q&A
【1420】見知らぬ人から悪口を言われたと感じることが小学生の時からある
Q: 22歳、女です。大学を卒業したばかりです。
時々自分が怖くなる時があり、悩んでいるのですが、両親にも知人にも相談しづらいのでもしよければアドバイスをいただけるとうれしいです。
私は小学校5年〜高校2年頃まで、道ですれ違う人に笑われたり悪口を言われたと感じることが多く、いつも人混みではうつむくようにして歩いていました。うつむきながら歩いていると、すれ違っていく人達がみんな私を見下ろしたり顔をのぞきこもうとしながら通り過ぎていく気がしていました。
また、私の後ろを歩いている人達が会話しながら笑うと、自分のことを笑っているんだという気がしました。
思いこみかな、と感じる時もあれば、今のは絶対私のことを笑っていた、と感じる時もありました。
実際、私の歩き方を見て笑ったり、真似をしている人もいました。
ところが、親から「気にしすぎ」、「ちゃんと姿勢をよくして前を見て歩きなさい」と言われ、思い切ってまっすぐ前を見て歩くようにしました(できるようになるまで何ヶ月かかかりました。視線はなるべく遠くを見るようにしていています。)
すると、すれ違う人達は確かに私の方なんて見ていない、ということに気づきました。
それからはすれ違いざまに何か言われると感じることも徐々に少なくなっていきました。
ただ、変わらなかったことは、大学に入ってからも近くで会話をしている人達が私を悪く言っていると思うことがしょっちゅうあったり、最近口をきかなくなった友達が、偶然学校内で会うと私をじっと睨みつけたり周りにいる友達と私のことを話してクスクス笑うということがありました。
知人には「被害妄想だよ」と言われましたが、その人はその場にいたわけではないし、自分では睨まれたりしたことにとても傷ついていました。
今でも買い物に行くと、店員さんが私が品物を選んでいる様子を変な目で見ているような気がして、その場にいられなくなってしまったり、レジにいる店員さんが私の方を見てクスクス笑いながら何かを話している気がして、その店には行きづらくなってしまったりしています。
さらに気になっていることがあります。
私は去年の末からアレルギーの関係で、ある病院に通院しており、今年の始めに短期間入院していました。
その時、担当してくださった女性の医師の方になんとなく好感を持ち、それからとても内心親しみを感じるようになりました。
大学で友達付き合いがうまくいっていなかったこともあり、家族以外で関わりのある女性がその主治医の方だけだったので余計思い入れが強くなってしまっていました。
入院が決まってから入院当日までは診察がなかったので3週間ほど主治医とは一度も会わずにいました。
それでほぼ毎日その主治医の事をパソコンでつけている日記に書いていました。(ブログなどではなくメールに打った文章を保存しています。)
そのうち、パソコンに書いている日記の内容が誰かになんらかの方法で誰かに盗み読みされ、主治医本人の目にとまってしまうのではないかととても不安になり、そんなことはありえないと自分に言い聞かせても、このままでは日記の内容が漏れてしまうと直感し、パソコンに保存してある文章を全部自分の携帯に転送して携帯のメールに日記を書いて保存するようにしていました。携帯なら誰にも情報を盗み出されないと思っていたのですが、今度は主治医が私が思っていることや携帯に書いた文章をそのまま読み取ってしまうのではないかという不安に変わりました。入院した日も主治医と面会するまで、もしメールの内容を読まれていたらどうしよう、と主治医の態度が不安でした。
実際に面会すると、その時は不安は消えました。
ですが、今も携帯に日記を書いていて、まだ読み取られないかという心配は続いています。
その主治医はもう転勤してしまい、今は新しい担当医に替わりました。
主治医が転勤してしまうことは前から知っていたのですが、いざ転勤してしまってから、そのうち主治医が自分から連絡をとってきてくれるのではないか、どこかで運命的に再会できるのでは、と信じずにはいられなくなってしまいました。日に日に確信が強くなってきてしまい、毎週通院のたびに今の担当医が主治医から手紙か何かを預かってきてくれていないかと考えては実際何も起こらずそのたびにとてもがっかりしています。
始めは、ありえないことだけど自分への気休めのために先生と再会できる場面を空想してみようと思う程度のことでした。ところが一度空想してしまうとますますエスカレートして、本当に近い将来、先生と親友のような関係になれると思わずにはいられなくなり、ありえないと思い直そうとするととてもつらくなって死にたくなってしまいます。なんで連絡をくれないんだ、と主治医を責めたくなってくる気持ちも現れます。
朝目が覚めた直後などは「私は何を考えてるんだろう」と冷静になっていることもあります。ただ意識がはっきりしてくるとやっぱり元に戻っていて、将来主治医と再会できるという根拠のない確信にすがって生きている感じです。
もちろん先生には一度も自分から連絡先を聞いたり、会話で治療以外の話題を出したこともありません。
小学校6年生頃から、自分に都合のいいように考え、始めはありえないとわかっていた願望もそのうち実現できると思いこんでしまい、まったく意味のない行動を真剣にとってしまうということはありました。ただ、その願望が消えるとその間だけは頭の中が空白になったようになって、やがてまた別の願望が生まれると同じ行動を繰り返していたように思います。そのせいで実際に中学時代から勉強をほとんどしなくなってしまったり、やるべきこともやらなくなり、大学を卒業した今も就職が決まっていません。今は新たになりたい職業をみつけてそれを目指しているのですが、それはその仕事の勤務地から、例の主治医ともしかしたら関わりがもてるかもしれない、という期待から決心したものです。
こんな動機で目指しても成功するのかとても不安です。でも今はそれしか見えていない状態です。こんな自分がわからなくなって怖くなる時があります。
昔は、私は空想が好きなんだぐらいに思っていたのですが、最近になって度を越しているのではと思いながらも、現実だけを見ては生きていけなくなってきている気がします。
単に自分への自信のなさから怠けているだけなのか、私はどこかおかしいのかをはっきりさせたいと思っているのですが、一度精神科などへかかってみたほうがよいのでしょうか?
林: ひとつの可能性は、統合失調症です。小学生の頃からの被害妄想の傾向、それから、
パソコンに書いている日記の内容が誰かになんらかの方法で誰かに盗み読みされ、主治医本人の目にとまってしまうのではないかととても不安になり、
・・・
今度は主治医が私が思っていることや携帯に書いた文章をそのまま読み取ってしまうのではないかという不安に変わりました。
上記も、統合失調症の症状として矛盾はありません。また、最近の、
ところが一度空想してしまうとますますエスカレートして、本当に近い将来、先生と親友のような関係になれると思わずにはいられなくなり、ありえないと思い直そうとするととてもつらくなって死にたくなってしまいます。
この「空想」は、【1193】や【1194】のような妄想に発展しかねないものです。
そして、この【1420】のケースのような、子ども時代の被害妄想(あるいは、被害妄想的傾向と言うべきかもしれません)が、統合失調症の発症に関連するというデータもあります。【1190】とその回答の中の参考文献をご参照ください。
というわけで、この【1420】のケースは、統合失調症の可能性があるのですが、ここに一つの大きな問題があります。
それは、症状が統合失調症のはじまりに一致していることは確かですが、その「はじまり」のまま、何年も経過しているということです。
実は、このようなケースが、将来統合失調症に発展するのか、それともこのまま「はじまり」の状態でずっと経過するのか、はっきりしたことはわかっていません。
少なくとも今の段階でこの【1420】の方の症状が、統合失調症の診断基準を満たさないことは確かでしょう。ということは、まだ統合失調症とは診断できないということです。診断基準でいうと、「特定不能の精神病性障害」ということになるでしょう。
このような場合、どうするのが最善か、つまり、治療が必要かどうか、必要だとしたらどのような治療が適切かなどが、まだわかっていません。(このあたりの問題も【1190】の回答に記してあります)
というわけで、
私はどこかおかしいのかをはっきりさせたいと思っているのですが、一度精神科などへかかってみたほうがよいのでしょうか?
これに対する答えはイエスですが、実際には精神科にかかっても、「どこかおかしいのか」という問いに対しては、明確な答えは得られないかもしれません。
けれども、実際に診察を受ければ、このメールの内容以外の症状が明らかになり、統合失調症の診断がつくかもしれません。また、診断がつかなくても、ここまで説明してきたとおり、今後統合失調症に発展する可能性は否定できませんので、いずれにせよ受診はすべきでしょう。そして、これも【1190】で回答した内容ですが、信頼できる先生を見つけて、その先生に長期にわたってかかる。薬をいつ飲むか、そもそも飲むか飲まないかも、その先生と相談しながら決める。これが現時点では最善だと私は考えます。
それから、実はもう一つ重要な問題があります。それは、
私は去年の末からアレルギーの関係で、ある病院に通院しており、今年の始めに短期間入院していました。
この「アレルギーの関係」とは、具体的に何かということです。そしてどういう治療を受けているかということです。
もしそれが、たとえばSLEのような膠原病であれば、そして治療薬としてステロイドが使われているのであれば、今の精神症状の原因として、膠原病も考えられますし、ステロイドの副作用も考えられます。したがって上記の統合失調症に関する回答は、こうした可能性がないことが確認されたことを前提としたものであるとご理解ください。