精神科Q&A

  【1325】うつ病が結果的に治らなければそれは性格のせいなのでしょうか


Q: 私は40代の男性です。3年ほど前から軽症うつと診断され、お薬を飲みながら時々お休みしつつ働いておりました。
今年の前半はとても忙しく、過労死するのではと思いながら働いていましたので仕事に区切りが付いた時点で、お休みを頂くことにしました。一ヶ月ほど休みましたところ活動時間帯と集中力が元に戻ってきましたので復職したのですが一週間でダウンし再度休職することになりました。

主治医の方と相談し仕事は徐々にする(会社は8時間労働なので無給でしばらく働く)ことに決め、それから一ヶ月、だいぶ回復して身の回りのことはできるようになりましたし電車にも乗れます。
 ところが、どういう訳か、仕事をしよう!という気力が湧いてきません。仕事のことを考えようとすると何かこう心にすっぽり穴が明いたような虚しい気持ちになります。
こういうことは今まで無く、病気のせいなのか、単に怠け癖がついたからなのか判らなくなっています。主治医の方は、結果的に休養して治れば病気のせい、治らなければ性格だとおっしゃるのですが、そういうものなのでしょうか。

[処方していただいているお薬]
ノリトレン 100mg/day
テトラミド 60mg/day
ジェイゾロフト 50mg/day
メイラックス 1mg/day


林:
ところが、どういう訳か、仕事をしよう!という気力が湧いてきません。

うつ病では、他の症状が回復しても、意欲の回復が遅れることはしばしばありますので、気力が湧いてこないのは、うつ病の回復期の一時期として矛盾はありませんが、この【1325】では、そもそもの症状の記載があまり具体的になされていませんので、はたして本当にうつ病なのか、それとも仕事のストレスで単にダウンしたのか、判断は困難です。
ただ一つ言えることは、

主治医の方は、結果的に休養して治れば病気のせい、治らなければ性格だとおっしゃるのですが、そういうものなのでしょうか。

この説明はでたらめです。
もしこの説明の通りであるとすれば、治療法がまずかったために治らない場合には、それも性格のせいということになり、明らかに矛盾です。
うつ病が期待どおりに治らない原因は、その他にも、休養の仕方がまずいとか、治療期間がまだ足りないとか、難治性うつ病であるなど、様々なことが考えられます。そういったものを無視して性格に原因を帰するのはあまりに安易です。
 うつ病は本来は治る病気ですので、治療にあたっている医師の側からすると、思うように治らないとこれは病気ではなくて性格だと言いたくなることはありがちで、そういう態度は戒めなければならないというのは、医師の姿勢のイロハに相当するものです。にもかかわらず「治らなければ性格だ」と説明するのは、治療する者としての基本から逸脱したものであると言えます。

と言えるのですが、しかしこの【1325】の主治医の先生が、「性格だ」とおっしゃった理由が、「休養したのに治らない」ことだけであったかどうかは、本当はわかりません。うつ病ではなく性格の問題であると判断する理由が実は他にあって、しかし本人への説明としては、簡潔にするため、「休養したのに治らないから」とされたのかもしれません。

ですから先ほど私が「この説明はでたらめ」と言ったのは、あくまで説明の内容そのものがでたらめだということであって、この【1325】のケースでは結果としては適切であったのかもしれません。そういうことは医師からの説明としてはよくあることです。「正確かつ簡潔」な説明が理想ではありますが、それは理想論にすぎないのであって、医学的に正確な説明をしようとすれば、それは複雑にならざるを得ません。簡潔な説明には、不正確な点や、時には虚偽とさえいえるものが含まれるのが常だというのが現実です。


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