精神科Q&A

 【1295】統合失調症と思われる友人からのメールによるストーカー行為


Q:  友人Yさん(30代、男性)のことでご相談です。Yさんから半年以上にわたり、私(30代、 女性)は毎日メールを受信しているのですが、その内容から、どうやら彼が統合失調症ではないかと思われるのです。 

Yさんは学生時代の仲間の一人で、大学卒業後も年に数回メールのやりとりをしたり、 2〜3年に一度は仲間で集まったりと、細々ながら交遊が続いていました。昨年の2月、仲間数人と一緒に会った際には特に変わった様子はなかったのですが…。 

昨年5月に、私の携帯電話に「急ぎの用があるから今日中に電話ください」といった 内容の留守電メッセージが立て続けに入っていました。普段メールすら滅多にしない仲なので、よほど緊急な用事かと思い電話をしてみたところ、どうも話がおかしいのです。その時の彼の話を要約すると、「実は今度、結婚するかもしれない。でも、しないかもしれない。相手は同僚の女性だが、周りの他の同僚達がみな、自分たち二人の仲を引き裂こうと、あらゆる汚い手段を使って妨害する。相手の女性のご両親に自分の悪い噂を伝えられ、ご両親がそれを信じてしまっているらしい。ついては自分が安全な人間であることを彼女のご両親に説明して欲しい…」 
といった感じでした。 
私は何か変だなと思いつつ、メールで恋愛相談の相手のようなことをしましたが、一週間後くらいに、Yさんが職場で私の姿を見たとメールしてきました。私はYさんの職場がどこかすら知りません。これはいよいよおかしいな、と思うようになりました。 
職場でも妙な言動をしたのでしょう、その後すぐにYさんは会社から長期休暇を言い渡されたらしく、結局そのまま退職したそうです。仕事をやめ、実家に戻ったと連絡がありました。 

しばらく連絡もなく、たまにメールがきても内容は普通だったので、私はてっきり、 Yさんのご両親が彼を病院に連れて行き、薬を飲み始めて症状が落ち着いてきたのかと思って少し安心していました。 
ところが昨年11月に突然、「結婚、宜しくお願いします」という留守電メッセージが 入ったのです。言うまでもありませんが、私はYさんの恋人ではなく、過去に交際して いたこともありません。どうやらYさんの妄想の世界で、私が婚約者になってしまったらしいのです。気味が悪くなった私は、それ以来一度もYさんに電話もメールもしていません。しかしYさんからは一方的にメールが送られ続けています。 

私はまず、共通の友人たちに相談し、その後、Yさんの親御さんとメールで連絡を取り 合うようになりました。ご両親も、Yさんが統合失調症ではないかと考えていらっしゃいましたが、Yさん本人に病識がなく、病院に行くことを勧めても全く耳をかさない、とのことでした。 

Yさんからのメールは、今も毎日受信しています。内容は、結婚に関することをはじめ、私からの連絡が欲しいこと、頭に装置が付けられていて、それによりマインドコントロールされていること、私や他の人の声が聞こえること、その装置を除去したいこと、妄想の世界で稼いでいるつもりらしく、その儲けを自分の口座に振り込んで欲しいこと…などです。 

最初は1日一件か、多くても数件のメール受信でしたが、2ヶ月ほど前から急激に増え、毎日数十件になっています。最多で1日に650件という日もありました。病気でなければ、明らかにストーカー行為になると思います。あまりに受信回数が増えたので、携帯は電話もメールも着信拒否にしました。その結果、今はパソコンにメール送信されています。 

このような状況をYさんの親御さんに訴えても、「息子が迷惑をかけて申し訳ない。空気のきれいな田舎に引っ越す予定だから、そうすれば病気も良くなるのでは…」といった返信で、まるで話になりません。精神医療に対する不信感も強いようです。さらには「婚約者ではないこと、毎日のメールに迷惑していることを、息子に直接はっきり伝えて欲しい。その上で警察に訴えてくれて構わない」とのことです。 

私が直接、Yさんにメールすることは可能ですが、それによりYさんの病状が悪化するのではないか、その結果どんな行動を起こすのかわからない、という心配があります。 
Yさんの親御さんの言うとおりに、私が直接メールをすべきなのか、今までどおりメールを受信するだけで無視し続けるのがいいのか、公的機関に相談すべきなのか、どのように対処するのがベストでしょうか? 

友人としてYさんの病状が心配ですし、私自身も本当に困惑しています。 
長くなってしまいましたが、ご意見を宜しくお願いいたします。 


林: これはストーカー行為です。そして、Yさんは統合失調症です。まずこの二つの現実をあなたが認識することが必要です。

病気でなければ、明らかにストーカー行為になると思います。

とあなたは書いておられます。この一文からは、「病気による行動であれば、それはストーカー行為とはいえない」とあなたが考えておられることが読み取れます。
 私はそのお考えには賛同できません。
 迷惑しているけれど、相手が病気だから、許容する。それも迷惑しているあなたのレベルで許容する。これは一見すると病気の人に対する寛大な姿勢とも取れますが、実際には一種の逆差別(【0934】をご参照ください)にあたると言えます。
 病気の人から受ける迷惑な行為に対して、無理に寛大な姿勢を取り続けても、それはどこかで限界が来ますし、それに、「こういう病気の人は迷惑である」という意識が逆に強まり固定されるおそれが強いと思います。
 もっとも、最後の最後までこの寛大な姿勢を貫き通すのであれば、それはそれで敬服に値すると思います。けれども、たとえばこの【1295】のケースでみても、そのようなことは不可能でしょう。

 けれども、この迷惑行為が病気の症状であることもまた事実ですので、病気の症状でない場合と同じに扱うのも不合理です。しかし、その扱いは、迷惑を受けている当事者のレベルで何とか考えなければいけないということはありません。迷惑は迷惑として主張すべきです。それを受けて、当事者以外の人、このケースであれば警察なり司法なりが考えるべきことでしょう。
 先ほど私は「あなたのレベルで許容する」ことに賛同できないといったのはその意味です。迷惑行為を、たとえその相手が病気であったとしても、迷惑を受けている当事者のレベルで許容するのは賛同できません(【0934】もご参照ください)。当事者でなく、社会のレベルで(すなわち司法など)、どこまで許容するか、どう扱うかを決定するべきです。それがひいては病気の本人にとっても、同じ病気に罹患している他の多くの人にとっても、プラスになると私は考えます。

 そこでこの【1295】のケースですが、治療を開始していただけるのであれば、その効果が出てくるまでの間、しばらくはあなたが我慢するという対応法も考えられなくはなく、むしろそれが最善かもしれません。けれども、この統合失調症の方のご家族が、

空気のきれいな田舎に引っ越す予定だから、そうすれば病気も良くなるのでは…」といった返信で、

これではあなたのおっしゃるとおり、まるで話になりません。このままでは症状はさらに悪化するのは目に見えています。あなた自身がもっと重大な被害を受ける可能性も否定できません。したがいまして、

「婚約者ではないこと、毎日のメールに迷惑していることを、息子に直接はっきり伝えて欲しい。その上で警察に訴えてくれて構わない」とのことです。 

と言われるまでもなく、警察に訴えるのが唯一の方法ということにならざるを得ないでしょう。



精神科Q&Aに戻る

ホームページに戻る