精神科Q&A

【1285】診断が自己臭症から統合失調症に変わり入院を勧められた18歳の息子


Q:  息子は15歳の夏休み明けから時々高校を休むようになり、まもなく「高校に行けない」と言い出しました。高校に行くことができない理由は、「自分の体臭が気になる」、「自分の話をしているようだ」とのことでした。
 高校に簡単に説明の上休ませ、Wメンタルクリニックに通院・薬の服用(レキソタン、ルボックス、約2ヶ月)をしました。その時の診断は自己臭恐怖症とのことでしたが、「神経症水準よりももっと重いものを考えている。また、年齢的にも若いので、統合失調症になる可能性も考えている」と診断書には書かれていました。

その後は、家庭では朝が遅い程度で特に暗いこともなく、母ともよく話し、特に父を避けることもなく、妹とは楽しげにしており、ギター教室、ピアノ教室、通信制高校でも学んでいました。
 高校卒業を半年後に控えた年の8月になり、将来のこと等を相談する中で、息子が「病気かもしれない」と言ったことから、M医院に受診したところ専門のK医院の紹介を受けて受診・通院をして約10ヶ月経過いたしますが、経過が思わしくなく入院を勧められました。

前回受診した際、医師から、「薬の効果が出にくいようだ」、「入院して主治医の下できちんと薬の服用と観察をした方がよい」といわれ、打つ手がなさそうに「通常であればこのくらいの期間治療すれば効果が表れるはずなんだが」という趣旨のことを言われ、入院について考えてくるように言われました。
どうも治療方針に自信が無いように感じられたことや、10ヶ月経過しているにもかかわらず、この1ヶ月は毎週通院してその都度薬が変わることなどから、「統合失調症」の診断(明確に言われていません)に疑問を持つと同時に、今後、入院も含めてどうしたらよいかと困惑しています。
また、息子は入院が6人部屋のこともあり、いやがっています。
アドバイスをお願いいたします。

これまでの治療履歴は以下の通りです。
X年11月 Wメンタルクリニック受診 
         レキソタル(1)3T、ルボックス(25)3T、食後3回
X+1年3月 上記の受診終了
X+3年8月 K医院受診 リスパダール1mg 朝夕1錠 7日分 
   9月    〃      〃       〃   21日分
   9月    〃   インプロメン1mg 朝夕1錠 5日分
               コントミン12.5mg  〃   〃
               アキネトン1mg    〃   〃
               ベゲタミン-B    夜1錠   〃
               ロラメット1.0    〃    〃
   9月   〃     インプロメン1mg  朝夕1錠 16日分
               コントミン12.5mg  〃   〃
               アキネトン1mg    〃   〃
               ピレチア      夜1錠   〃
               ロラメット1.0    〃    〃
  10月   〃     インプロメン1mg  朝夕1錠 28日分
               コントミン12.5mg   〃   〃
               アキネトン1mg     〃   〃
               プレゼニド12mg  夜1錠   〃
   11月   〃    インプロメン1mg  朝夕1錠 28日分
               コントミン12.5mg   〃   〃
               アキネトン1mg     〃   〃
   12月  〃    前回同様の薬を処方
X+4年1月 K医院受診      〃 
   2月   〃        〃
   3月    〃        〃
   3月   〃        〃
   4月   〃    インプロメン1mg  朝夕1錠 28日分
               コントミン12.5mg   〃   〃
               アキネトン1mg     〃   〃
               プレゼニド12mg  夜1錠   〃
   4月   〃    ルーラン 4mg  朝夕1錠  10日分
               アキネトン1mg   〃     〃
               ベゲタミン−B   夜1錠    〃
               リスパダール内容液1mg 夜1回 〃
   5月   〃    ビーゼットシー2mg  朝夕1錠  14日分
               ルーラン 4mg      〃    〃  
               アキネトン1mg      〃    〃
               ベゲタミン−B     夜1錠    〃
               ロヒプノール1mg  夜1錠   14日分
   5月   〃    ルジオミール10mg  朝夕1錠  7日分
               セロクエル25mg     〃    〃  
               テトラミド30mg   夜1錠    〃
               ロヒプノール1mg    〃    〃
   5月  〃    前回同様の薬を処方   
   5月   〃    ルジオミール25mg  朝夕1錠  7日分
               セロクエル25mg     〃    〃  
               ロヒプノール1mg    夜1錠   〃
               アモキサンカプセル10mg 朝1錠  〃
   6月   〃    ルジオミール25mg  朝夕1錠  7日分
               セロクエル25mg     〃    〃  
               ロヒプノール1mg    夜1錠   〃
   6月   〃    ルジオミール25mg  朝夕1錠  14日分
               セロクエル25mg     〃    〃  
               ロヒプノール1mg    夜1錠   〃
               エビリファイ6mg    朝1錠   〃

◎ これまでの経過説明
 X+3年8月に1週間分のリスパダール(1r、朝夕2回)を処方され経過は順調でしたが、9月に3週間分処方されて服用し続けたところ、ら明るさがなくなり、食も細ってきました。表情等も神経質になり、また、妄想が激しいと訴えましたが、内容は言いませんでした。
 そして、明日は父の誕生日なのでケーキでも買って鮨でも食べようかといっても「いらない、食べて」との反応で、何か心配があるのかと尋ねると、「昔いじめた同級生のことが心配だ」、「糖尿病ではないか」と心配していました。薬の副作用ではないかと言って、薬を飲むにも空腹だと効きすぎて体に良くないから食べるように進めても、ほんの少し食べる程度でした。
 翌日の夕方になって、体に毒なので食べるように進めたところ、気が変わったのか普通の食事程度を食べました。
 続く2日間も食が細く、うつろな表情で、いじめた子のことはもういいが、今度は糖尿病と妄想があるといっていました。
 その翌日になり、本人が買い物に鍵をもたずに出かけ、家に入れなくなりました。12時頃に母が連絡を受け、父が14時半頃に帰宅したところ、「糖尿病で死ぬのではないか、咽がすごく渇く、動機も激しい」とのことでした。父が、K医院に電話をして対応を相談したところ、薬の副作用であろうとのことで、外来で診察を受けることを進められた。息子に電話の内容を説明したが不安そうなので、近くのかかりつけの内科に連れて行き、服用している薬を知らせた上で症状を話し、診察を受けたところ、血糖値が105、血圧最低80〜最高140で脈が速いといわれ、薬の副作用かもしれないが、念のため血液検査をしてもらいました。
 数日後に近所の内科に行き血液検査の結果を聞いたところ、血液の検査結果に異常はなかったが、心電図と1日中の心臓の動きを調べる検査を受けるようにとのことで検査をうけました。
 次の日に診察を受け、薬がインプロメン、コントミン、アキネトンの処方に変わり、病院の帰りにレストランで、しばらくぶりのまともな量の定食を食べ、幾分落ち着いた様子になりました。薬の処方は翌年4月まで同じでした。
 その夜は控えめに食べて薬を飲んで就寝し、翌日は昼過ぎまで寝ていました。夜に顔を合わせると、幾分焦燥感が取れて楽になった様子で、本人も深く眠れるようだと話していました。翌日も昼過ぎまで寝ており、様子を聞くと妄想はあるが少なくなり、押えられるとのことでした。
 翌日午後1時近くまで寝ていたが、家族でお彼岸のお墓参りに行き、息子が線香をつけてくれるなどいつものお墓参りでした。眠る薬が強そうなので夜の服用をやめるように話しましたが、やはり処方どおり薬を服用して休みました。
 翌日は9時頃には目を覚まし、横になってはいたが起きていました。
 翌日以降は、サポート校の登校、一人で特に問題もなく心理テストを受けに通院、共通1次試験の受験手続きの願書を提出、12月に大学への出願、AO入試の受験をするなど、比較的平穏に過ごしていました。

 8月末の治療開始から9月中の1ヶ月を見ると、リスパダールは副作用が強く、その後、インプロメン、コントミンに変えたところ、表情は安定して、この間、ギターやピアノ、通信制高校にも通えました。ただ、薬は規則正しく服用せず(約半分服用)、昼夜逆転があり、著しく改善したとは感じられませんでした。
 その様な状況が続きましたが、その間、12月に大学のAO入試を自分で受け合格し、自分なりに気持ちも落ち着いているような状況がX+4年2月頃まで続きました。

 3月になり高校卒業式、4月の大学入学式とガイダンスと行事が続きましたが、ガイダンスの4日目当たりから大学に行けなくなり、そのことを医師に話したところ、4月23日から夜寝る前にリスパダール(1r、液体)が加わり、26日ごろから暗い印象になりました。4月26日〜28日頃は口数も少なく、声をかけても低い声で少し応えるような状況です。大学が始まって以来、「自分は不幸だ」と言っていたこともありますが、薬をリスパダールに換えてからさらに低迷しているようです。
5月に受診して昨年9月のリスパダールの副作用のことを話したところ、処方が変わりベゲタミン、ピーゼットシー、ルーラン、アキネトン、ロヒプノールが処方されました。

 5月半ばに処方された薬はルジオミール錠10mg、セロクエル25mg錠、テトラミド錠30mg、ロヒプノール錠11mg(睡眠薬)です。
 ベゲタミン、ピーゼットシーの効能はよくわかりませんが、ロヒプノールはよく眠れるようです。
 意欲は低く、今まで休んだことがあまりなかったピアノ、ギターも休みました。

 翌週の処方も前週と同じでしたが幾分明るくなった感じがします。ギターは通い、家でも楽器を弾くことがたまにあるようになりました。

 翌週になり、アモキサンの効果はあまり無かったようで、前週と変わった様子はあまり無く、低調な感じが続いています。6月の受診の際に医師から「アモキサンは効かなかったようですね。よく寝られますか。いらいらはしませんか。」といわれ、息子は「よく寝られます。いらいらはしません。」、父から「全体として落ち込んだ感じである」旨伝えたところ、「セロクエルの量を増やしましょう。これでも少ない量なので、必ず飲むように」との指示がありました。

 次に受診した際、医師から、「薬の効果が出にくいようだ」、「入院して主治医の下できちんと薬の服用と観察をした方がよい」といわれ、打つ手がなさそうに「通常であればこのくらいの期間治療すれば効果が表れるはずなんだが」という趣旨のことを言われ、入院について考えてくるように言われました。
                                  

林: 約4年間の治療にもかかわらず経過が思わしくなく、ご心配のこととお察し申し上げます。
結論としては、今とるべき方法は、入院だと思います。
診断は統合失調症でしょう。最初に診ていただいた先生の、

その時の診断は自己臭恐怖症とのことでしたが、「神経症水準よりももっと重いものを考えている。また、年齢的にも若いので、統合失調症になる可能性も考えている」と診断書には書かれていました。

この判断は正しかったと思います。
自己臭症は、統合失調症 患者・家族を支えた実例集 のケース28にやや詳しくお書きしたように、統合失調症にかなり類似点のある疾患です。そして、自己臭症から統合失調症になる(というより、統合失調症の初発症状が自己臭症である、といった方が正確かもしれません) ことはしばしばあります。【0774】がその一例です。
そしてこの【1285】のケースでは、これまでの治療が特に不適切であったとは判断できません。ということは、治療困難なケースということになります。統合失調症の最初の症状は、通常まず確実におさまるものですが、この【1285】のように、統合失調症か否かはっきりしないようなケースでは、しばしば治療が難航します。

打つ手がなさそうに「通常であればこのくらいの期間治療すれば効果が表れるはずなんだが」という趣旨のことを言われ、

打つ手がなさそうに と感じられたのは、質問者の主観にすぎないと思います。確かに治療は難航していますが、このまま外来治療を続けていたのではなかなか効果が期待できないということにすぎないでしょう。ですから、

「薬の効果が出にくいようだ」、「入院して主治医の下できちんと薬の服用と観察をした方がよい」といわれ、

私もこの見解に賛成です。入院をお勧めします。

なお、このように治療が長引いた場合、ご本人やご家族は病院をかえることをお考えになることも多いのですが、この【1285】のようなケースでは、病院をかえることはお勧めできません。決して治療が不適切なために長引いているわけではないからです。治療が困難であるという現実を認識され、今の病院での治療を続けることをお勧めします。


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