精神科Q&A
【1281】会社や家庭が原因でないうつと治療について
Q: 24歳(女・独身)、IT系の会社員をしております。
うつ病の診察室での自己診断では「中程度の抑うつ傾向」でした。
以下、あまり上手い説明ではありませんが、状態を記載します。
1.症状
憂鬱な気分や自殺願望が、去年の夏頃から続いています。
仕事帰りに歩きながら特別なきっかけもなく泣いてしまったり、直前まで楽しみにしていたはずの予定をキャンセルしてしまったり、かと思えば色々な人に連絡をとって会う約束をしたりと,落ち着きがありません。
夜は深夜2時ぐらいまで眠気がやってきません。
小さい頃からの趣味だった絵も、ここ1年程まともに描く事ができなくなりました。途中でやめてしまいます。
趣味で繋がっていた友人達ともあまり連絡をとらなくなりました。
周囲の人がどんどん上達して行き楽しそうにしているのを見ては劣等感 や焦燥感をおぼえ、悪循環に陥っています。
ネット上でコミュニケーションをしたり、実際に集まって絵を描いたり お酒を飲んだりしていたのですが(自分で取り仕切ったこともあります)、それも億劫になっています。
通勤の時にホームから飛び込んで死ぬ事を考えたり、仕事中に自宅のベランダから飛び降りる事を考えます。
自分には価値がない、仕事をする能力もなく、何事も中途半端で、最後までものごとをやりとげられず、周囲の役にも立っていないといったことを、2日とあけずに考えます。
休日に一人で家で過ごしていると、何かしなければならない、けれど何もできないといった不安感がまとわりつきます。
かといって、積極的に出かけることは時々しかありません。
映画やショッピングなど目的を持って出かけても、途中で億劫になって帰って来てしまうこともあります。
また、性欲も減退しているように思います。少なくとも月経前は高揚していた気分もここ数ヶ月はなく、 たまに自慰行為にはしっても、直後に「恋人もいない、醜い自分が自慰行為に耽っている」ということを客観的に考えては嫌悪感を抱き、落ち込んでしまいます。
身体の症状は特別気になるようなことはないように思えますが、胃が頻繁に痛むのと、 午後6時頃になると疲れてしまって残業ができなくなりつつある所がいつもと異なるといえば異なります。
もう少し残ってやって行かなければと頭では考えながら、その場にいられないように感じるのです。
単に体力がないだけのようにも思います。
2.経験、過去
昔から落ち込みやすいタイプだったという自覚はあります。また、自分を恥ずかしいと思う気持ちが強い傾向にあります。
容姿が人より劣ること、運動があまりできないことから周囲にいじめられ(悪口や仲間外れといったものですが)、小学校 5,6年の頃はいつもうつむいて外を歩いていました。
この経験から、今でも周囲の異性が(時に同性も)自分を心の中では軽蔑しているのだろうと感じてしまいがちです。そうして敬遠してしまうことにより自然と縁遠くなり、同年代の周囲の女性と比べて恋愛経験、人生経験に乏しいことが劣等感となり、同性・異性問わず長く私的な会話をするとはらはらしてしまいます。
恋愛の話題になって、相手から敬遠されるのではと危惧するためです。
二十歳前後の頃は、失恋から腕に自傷行為をしたり、過激なダイエットをしたり、反動で過食に走ったりといったことがありました。
体重の変動は43〜60キロまで変化しました。(身長は 163cmです)
3.質問
(1)私はうつ病か、あるいは他の名前の付く病気なのでしょう か。それとも、性格的に打たれ弱く忍耐力がないか、ストレスが溜まっているだけなのでしょうか。
症状としては自分でもここ数ヶ月で酷くなっている気がしています。 以前は「生理前の症状だ」と片付けられたのですが、月経前後も関係なくなり、お洒落をしたり、そのために買い物に行く事もためらうようになって います。
ただ、ネット上や本、知人の話(うつ病と診断され治療を受けている知合いが数人おります)などの情報に、あまり状況があてはまらないように思います。
まず、生活のメインとなっている仕事や家族関係などに大きな問題はありません。
「行きたくない」という気持ちはありますが、現在残業もそれほどなく、課せられている仕事もこなすべき量と感じられていますし、休みが取れないといったことも殆どありません。
時折注意や叱咤を受けますが、まだ入って数年の人間であればよくあることだと思える範囲です。
強いて言えば、「お客様」の会社で仕事をしているため、常に評価を意識して緊張しているのと、それを頻繁に上司から言われる事、周りの八割以上が異性であることがストレスかもしれません。
家族から嫌な目に遭わされたという記憶もなく、ごくごく普通の家庭だと思っています。
苦痛を感じる時間帯は夕方から夜中が多く、うつ病の記述でよくある 「朝が酷く夜に向かってよくなる」という傾向にはあてはまりません。
食欲は日中はあまりありませんが、夜は一日の疲れやストレスからか、食べ過ぎたりお酒を大量に飲んだりしてしまうことがあります。
時折立ちくらみがしたり頭痛がしたりすることはありますが、眼精疲労や肩こりなどの影響で起こることは今までもままありましたし、胃の痛み以外は通常通りのような気がしています。
(2)うつ病など、何らかの精神的な病気である場合、一人で仕事をしながら治療を続けて治すことは可能でしょうか。
今まで先生のQ&A上の情報、知人の状況、人づてに聞いた話などから、治療の際にはパートナーや親兄弟などのサポートがあることが多いように感じています。
私は現在一人で暮らしておりますが、実家に身を寄せて療養する、といった形にするのは困難な状態です。実現させるとしても、一年程時間が必要になります。
私の方がお金を渡すほど実家の経済状態があまり良くないのと、精神の病に理解がないのが主な原因です。
また、田舎であるため、頻繁に通院し治療を受けられる病院を見つけるのが難しいということもあります。
上記の経済状態と、返済しなければならないお金のことがあり、できればこのまま一人で働き続けながら、(もし病気である場合)治療をしたいのですが、自分一人でどうにかするのは難しいものなのでしょうか。
まとまりなく書き連ねましたが、質問は以上2点になります。
今まであまり、これといって身体的な病気にも罹らずに来たため、病院というもの自体に抵抗を感じてしまっています。
上で両親がうつ病などに理解のない人であると書きましたが、おそらく 私もまだきちんと理解していないのだと思います。
自分が病気で、それで仕事やプライベートで持っている役割を放棄してしまうようになったら、もう恥ずかしくて立ち直れないような気がし身動きがとれません。
踏ん切りをつける為にも、一言ご回答頂ければ幸いです。
ご多忙中とは存じますが、どうぞよろしくお願い致します。
林: あなたはうつ病の可能性が高いと思います。治療が必要です。
ただ、ネット上や本、知人の話(うつ病と診断され治療を受けている知合いが数人おります)などの情報に、あまり状況があてはまらないように思います。
上記、「うつ病と診断され治療を受けている知合いが数人おります」
とのことですが、知合いの中に数人もうつ病の人がいらっしゃるということは、うつ病の発症率からいって、まず考えられないことです。「うつ病と診断され治療を受けている人」ならいらっしゃるかもしれません。しかしその中の何人かは、うつ病ではなく擬態うつ病と考えるのが妥当です。本物のうつ病はそこまで多い病気ではないからです。
まず、生活のメインとなっている仕事や家族関係などに大きな問題はありません。
それはむしろあなたの症状が本物のうつ病である可能性を高めるものです。擬態うつ病の55ページにお書きした通りです。簡潔にいいますと、このご質問のタイトルの「会社や家庭が原因でないうつ」は、むしろうつ病の可能性が高く、逆に「会社や家庭が原因であるうつ」は、擬態うつ病の可能性が高いと言えます。
あなたが挙げられているその他の点も、特にうつ病を否定する根拠とはなりえないものです。
したがって、あなたがご自分の症状がうつ病にあてはまらないように感じておられる理由は、あなた自身がお書きになっておられるとおり、あなたのうつ病への理解が不十分なためだと思います。うつ病と擬態うつ病を混同しておられると思われます。
(2)うつ病など、何らかの精神的な病気である場合、一人で仕事をしながら治療を続けて治すことは可能でしょうか。
可能です。但しサポートがあったほうがいいことは確かです。
しかしそういうことをお考えになる前に、まず受診して治療を開始することが第一です。行動を起こす前に、悪い結果を予測して、結局そのまま時が過ぎてしまうのは、うつ病でしばしば見られるパターンです。当然ながら、それにより病気は悪化していきます。
まず治療を開始してください。うつ病は、治ります。