精神科Q&A

 【1272】主治医から「仕事をしたくないだけなのではないか」と言われている夫は擬態うつ病なのでしょうか


Q:  相談したいのは、私の主人(30代)のことです。
主人は、現在うつ病で、5年以上通院していますが、ほとんど改善が見られません。

今まで、何度か就職しましたが人間関係がうまくいかなかったり、体調を崩したり・・で、ここ何年も無職状態です。
普段は、午前中は外に出て図書館や、本屋などに行き午後からは家で過ごしています。
昼食後は異様な眠気に襲われるそうで、1時間ほど昼寝をしています。

私から見た彼の症状は
1)人との会話の後に、ものすごく悩む
 (悪いことを言わなかったか、気を悪くしていないかなど)
2)私に対していつも悪いと思っている為、常に顔色を伺ってしまう
3)『死にたい・・』とつぶやく。
4)やる気がない・・何事も続かない
5)心の中が、海の底にいるように冷たいと言う・・などです。

一番ひどかったのは先月親戚の結婚式に出席したとき、知らない人の中にいることで、極度の緊張になったのか、体中から汗が噴出し、服がベトベトになるほど汗だくになり、吐き気もひどく、席にいる事がほとんど無い状態でした。
鬱の症状というのは、こんなにもひどいものなのだと思っていたのですが・・。

先日、診察日だったので先生に

私:『前回、先生に{症状が長すぎる!働きなさい}と言われた翌日、主人から{すごい恐怖感に襲われて怖い}というメールがきました。最近こういう事がなかったので、また症状が悪くなったのでしょうか?』

と聞いたところ先生は

先生:『彼はいつもそう。{仕事をしろ、だとか、いつまでそういう生活するのか}など言うとすぐに体に出る。だから、もう私は何も助言しないことにした。彼は、うつ病ではないのではないかと思う。ただ、仕事をしたくないだけなのではないか?』

と、いわれてしまいました。

私としては、主人がうつ病だと信じてきたのですが、色々調べてみると『擬態うつ病』という言葉に行き当たり、もしかして・・?と思うようにもなりどうすればいいのか分からなくなってしまいました。
主人は本当はうつ病ではないのでしょうか?
もし『擬態うつ病』だとしたら、もう一生この病気と付き合わなければならないのでしょうか。
本人の気持ちしだいなのでしょうか。
どうか、ご助言をいただけたら・・と思います。よろしくお願いいたします。 


林: 
{仕事をしろ、だとか、いつまでそういう生活するのか}など言うとすぐに体に出る。

これが事実だとすると、確かに表面的には「仕事から逃げようとしている」という解釈も可能ですが、うつ病でもこのように反応のような形で症状が悪化することがありますので、これだけをもってうつ病でないとか、うつ病ではなさそうとかいうことは出来ません。

うつ病かどうかの判断のためには、症状や経過についての他の情報が必要です。
あなたが1)から5)までにお書きになっている症状だけをみれば、うつ病であるともみえます。けれども、擬態うつ病であっても、このように症状そのものを書きあげれば、それはうつ病と同じようになりますので(だからこそ「擬態」といえるのです)、これだけでは判断できません。仕事以外のときの症状はどうかなど、まだまだ多くの症状が必要です。(うつ病と擬態うつ病の見分け方は擬態うつ病をお読みください)。

というわけで、このメールでは情報不足なのですが、それでもメールに書かれている内容だけからあえて判断すれば、この【1272】のケースは、擬態うつ病ではなく、うつ病の可能性のほうが高いと思います。仕事以外の状況での症状の出方からの判断です。

では治るはずのうつ病が、なぜ5年以上の通院でほとんど改善がみられていないのか。

第一に考えられるのは、抗うつ薬による治療が不適切であることです。うつ病の相談室の68ページからにお書きしたように、うつ病が長引く最大の理由は、抗うつ薬の量が少なすぎることです。この【1272】には薬についての記載が全くありませんので、判断のしようがありませんが、処方内容のチェックがまず必要でしょう。

擬態うつ病は、2000年に私がその本を書いたときから、さらに増え続けていると思います。擬態うつ病という概念は、本物のうつ病の方々が適切に評価され、適切な治療や対応を受けるためにも、またうつ病でない方々が不適切な治療(と称するもの)を受けないためにも、認識が必要なものであるいう私の考えは、当時も今も変わりません。
けれども、個々のケースについて、うつ病か否かを判断するにあたっては慎重な態度が必要です。
メールによる相談では、常に情報の一部しかない状態で何らかの回答を出さなければなりませんので(それを否定するとメールによる相談そのものが成立しません)、メールに書かれている内容だけに基づく回答にならざるを得ず、そうしますとメールに書かれている内容自体は事実でも、いわば「架空のケース」についての回答ということになります。(精神科Q&Aをお読みになる場合は、これに十分ご注意ください。特にすべての質問者の方々にこのことを強くお伝えしたいと思います)。
このことは【1272】も例外ではありません。しかし、

{仕事をしろ、だとか、いつまでそういう生活するのか}など言うとすぐに体に出る。

このことだけをもとに、

彼は、うつ病ではないのではないかと思う。ただ、仕事をしたくないだけなのではないか?

と先生が判断されているのだとすれば、それは全く不条理なことです。もしそうなら、別の先生の治療を受けたほうがいいでしょう。


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