精神科Q&A

 【1264】原因となった出来事を話さなくても治療できるのですか


Q:  36歳の女性(主婦)です。 
今年2月初めにつらい出来事があり、それ以来ずっと苦しんでいます。 
直後1ヶ月くらいから、心療内科へと思ったのですが、原因となった出来事を話すのがつらく (泣いたり、無口になったり、怒ったりしてしまうと予想されます)、 受診していません。 
その出来事と関係することはすべて、できる限り避けていますが、特殊な出来事ではないので、すぐに立ち直れる人が多いと思います。 

自分がうつ病なのか、いわゆるPTSDなのかもわかりません。 
こちらの自己診断法では、うつ病68点、PTSD50点でした。 

現在までの経過は以下のとおりです。 

@出来事直後から2週間後→ 寝たり起きたりで、家事ができず、母に泊まりこんでもらったり、夫に協力してもらったりした。 心が麻痺している感じで、夫や母を心配させないよう、なるべく普通に振舞う。 不安や心配でたまらないが、何とか平常心を保ち、無我夢中で日常に戻ろうとする。後で気づくほど大きなショックを受けたとは思っていない。 

A2週間から1ヶ月半後→ 心が麻痺し、凍り付いている感じ。 憂鬱で悲しいが、家族には見せず、家事も普通にこなす。 風邪や食欲不振が続き、体調がすぐれない日が続く。自分では「思い出すまい」と努力しているが、突然、出来事が思い出され、そのたびに胸がえぐられるような思いをする。 寝ようとすると思い出され、腹が立ったり悲しかったりして動揺し眠れない。 日常の生活の中で、唐突に思いだされ、泣いてしまって家事が中断する。 関係のあるものを徹底的に避ける。 何とか平常心を保とうと努力する。悪夢が多い。 

B1ヵ月半から4ヶ月後→ 小旅行をきっかけに、夫の前で泣くことができる。 自分の状態がおかしいと気づく。 記憶のよみがえりが頻繁である。(そのたびに悲しみを心に押し込めようとする) 生理、排卵のときに、特に心身の調子を崩す。ささいなことですぐ泣く。 自分の感情がコントロールできず、出来事を含め、何もかも悲しくなり異常な号泣をする。(ときどき) 家事などすべてが億劫になるが、気持ちをだましだまし何とかこなす。 明るく元気に振舞おうと努力する。 パソコンに依存してしまう日が増える。 
                
C4ヶ月以降現在→ 自分が思っていた以上にショックだったとある日気づく。(その日と翌日は誰とも話ができず、食事も摂れない) 母、夫に、今までのつらい状態を話し、理解してもらう。 今まで、ずいぶん無理してきたという自覚が生まれ、心身ともに疲労感が強い。 

@ABの時期以上の入眠困難。(以前、海外旅行用に出された入眠剤の残りを飲みはじめる)。 何もかも億劫になり、家事が普通にできない。 悲しみ、涙、記憶のよみがえりはだいぶ収まってきたが、今度は焦り、イライラ、怒りで自分をコントロールできない。夫に八つ当たりをし、暴言を吐いてしまう。 

長くなりましたが、だいたいこんな感じです。 
2月以降、友人との接触は避けています。外出は家族と一緒ならできます。 
一人で出かける場合は月1度あるかないかです。知人に会いたくない気持ちがずっとあります。 
就寝する気がなかなかせず、実際眠れない日も多く、深夜以降になるので、起床はいつも昼近いです。 
起きた直後が一番つらいということが少なく、そういう点ではうつ病ではないのかとも思います。 
夜から深夜にかけて、体がだるくなり、気持ちも乱れることが多いです。 

このような状態で、最近は、夫にも申し訳ない状態になっているので、早く何とか治したく、受診をと切に考えています。 母はこんな私を受け止めてサポートしてくれていますが、夫は、認めたくないようです。 

普段は優しい人ですが、自分の仕事のストレスも大きく、こんな私を受け止めきれないようです。 早く元に戻ってほしいという気持ちが伝わってくるので、それがまた私にはつらく、無理に明るく元気よく振る舞いがちです。 その反動が暴言となっているのではとも思います。 一方で、少しずつ回復してきているのではないかとも感じています。 

A:私は、うつ病の可能性が高いでしょうか?それとも別の何かでしょうか? 
B:受診する場合、原因となる出来事を話さなくてもいいでしょうか?原因を話さなくても治療できるのでしょうか? 
C:Bが不可能な場合、つらくても無理に原因を話して、受診した方がいいでしょうか? 


以上3点、ご回答をお願いいたします。  


林: Bから先にお答えします:

B:受診する場合、原因となる出来事を話さなくてもいいでしょうか?原因を話さなくても治療できるのでしょうか?

もちろんその出来事を話していただいたほうがいいことは確かですが、必ずしも話されなくても治療を始めることはできます。精神科の臨床ではそういうことはしばしばあります。私の経験でも、一年以上通院されてはじめて原因(と思われる出来事)を話された方も複数いらっしゃいますし、おそらくもっと長く通院されていても原因(と思われる出来事)をお話しになっていない方もいらっしゃるのだと思います。また、PTSDでは、原因(と思われる出来事)を話すことによる苦悩が耐え難いこともあるのは【0952】などにお書きした通りです。

ですから、Bへのお答えは、「原因を話さなくても治療はできます」ということになります。
けれども、最初にお書きしたように、話していただいたほうがいいことは確かです。そもそも、それが本当に原因なのかどうか、ご本人の判断が正しいとは限らないということもいえます。上に「原因(と思われる出来事)」という煩雑な表現をとった理由の一つはそこにあります。

C:Bが不可能な場合、つらくても無理に原因を話して、受診した方がいいでしょうか? 

Cに対するお答えは不要ということになると思いますが、念のためお答えするとすれば、「原因を話さなくても治療はできます」と繰り返すことになります。

A:私は、うつ病の可能性が高いでしょうか?それとも別の何かでしょうか?

症状だけからは、うつ病の可能性が高そうです。しかし厳密には、あなたが口に出せないという「原因(と思われる出来事)」の情報が、診断のためには必要です。とはいうものの、現代の診断基準によれば、特殊な例を除けば、原因にかかわらず一定の症状があればうつ病ということになりますので、原因(と思われる出来事)にかかわらず、診断に影響はないと言うべきかもしれません。

いずれにせよ、受診されることをお勧めします。「原因と思う出来事はあるが、それを話すことには抵抗がある」というケースは、精神科ではそれほど珍しいとは言えませんので、まずは症状だけお話になれば、治療開始は可能です。


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