精神科Q&A

 【1258】パニック障害の私が開設したチャット部屋での集団精神療法


Q:  私は40代女性です。パニックと鬱、広場恐怖症による、ひきこもりです。20年になります。

ネットでは先生のサイトを基に色々と勉強させて頂いて居ます。
今まで20年もの間、まったくの医師任せで無駄な人生を送ってしまいました。
というのは、パニック障害という名前が無かった頃の時ですから、私に十分な量の薬も与えられず、ただ単に恐怖の中で生活をして、あっという間に20年が過ぎてしまいました。
去年あたりから自分の考えがまとまり、チャット部屋を開設しました。

それにより、思ったより多くの人がこの病気で苦しんでいる事をはじめて知り、自らの経験も交え皆さんと共に色々な話しをさせてもらっています。
また、一人で家に居る人が多く、笑う事を忘れていた人も多く、わざわざ笑いのネタを提供して、みんなで笑う。
一時でも病気の苦しみを忘れる事が出来たら良いなって思ってやっていました。
生活の質の向上にも繋がれば良いと思いました。
午前、午後2時間ずつという無理のない時間帯でやってます。
10人から20人の男女、うち主婦がやはりおおいですが、この部屋があって助かった、とても楽しみにしているとの事です。

しかし、今年になって、このままの自分ではいけないと思い
先生のサイトを基に精神医学、病気の種類と特徴や論文集(医師向け)なども読み、少しずつ学び、今では、この部屋に居ると安心するとか、為になる情報があって良いなどの感想を頂いてます。

中でも、先生の患者からの質問Q&Aはとても役だっています。
私自身も、パニックと鬱、広場恐怖でひきこもりですが、薬の量が少ないのに認知行動療法を医師にすすめられ、やった所が、出先で発作を起こし外出困難になってしまいましたが、今は薬を増量してもらい、やっと気が楽になって散歩も行けるようになりました。

自律訓練法も取り入れてやっています。
私自身も部屋をやって、みんなと話すことは楽しいですし(私がメインボイス)、以前の病状からは遙かに良くなっています。

部屋に来ていた人が社会復帰されたのはとても嬉しかったです。
このような集団精神療法を私のような、ど素人が独学でやっていて良いものかどうかをお答え頂ければ幸いに思います。


林: 【0199】に似たご質問といえるでしょう。回答は基本的に【0199】と同じです。つまり、患者さん同士の集団精神療法(あるいはそれに類するものと言うべきかもしれませんが)には、プラス面もマイナス面もあるということです。
【0199】で私は次のように回答しました(2002年のことです):

「ただし注意しなければならないのは、そこには何らかの指導者が必要だということです。医者か、少なくとも一定の医学的知識を持った指導者が必要です。指導者なしですと、話合いが見当違いの方向に進んでしまい、結果的にはマイナスの方が大きくなることになりかねません。」

この主旨からすれば、

このような集団精神療法を私のような、ど素人が独学でやっていて良いものかどうか

この問いに対する答えは厳密には「良くない」ということになるかもしれません。しかし、同じ【0199】に、

「ただ、この問題はまだまだ新しいものであり、なんとも言えないところもあります。指導者がいるべきだ、というのも、もしかすると医療者の側からの論理にすぎないのなのかもしれません。」

ともお書きしたように、必ずしも「良くない」とは言い切れないところです。そしてまた【0199】からのコピーですが、

「といっても、マイナスがゼロということは考えられませんので、それを十分承知しておくことは大切です。」

この点には十分ご注意ください。

【1258】のメールで、特に気になる点は以下です:

部屋に来ていた人が社会復帰されたのはとても嬉しかったです。

これは明らかにプラスの面です。
けれども、マイナスの面、すなわち、あなたの部屋に参加した結果、逆に悪くなった方についての情報は、あなたには入りにくいという点が非常に重要です。すなわち、あなたにはプラスの面しか見えず、マイナス面が無視あるいは軽視されるおそれがあるということです。
これはもちろん医師の治療にもいえることです。たとえばある一人の医師の外来患者の経過をみた場合、良くなっている患者はその医師の治療を受け続ける傾向があり、悪くなった患者はその医師から離れる傾向があるのは当然ですので、その医師の視点だけから見れば、ほとんどの患者が良くなっているように思われるでしょう。これは明らかに患者の一部だけをみて都合よく判断しているにすぎません。だからこそ医学では、ひとりの医師や一つの病院だけのデータだけから治療効果を判断することはせず、より客観的・包括的なデータに基づいて、治療のプラス・マイナスを慎重に判断しているのです。それは多くの医学論文という形で公表されています。

【1258】の質問者自身が、ご自分の開かれたチャット部屋によって改善していることは確かかもしれません。しかし、その部屋への参加者にとってプラスが大きいか、マイナスが大きいか、仮にプラスが大きいとしても、中には必ずマイナスだけを被る人もいらっしゃるはずです。この点に十分ご留意されること、そして必要時には医師の診察を勧めること、これらが重要だと思います。


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