精神科Q&A
【1238】息子を同居させたところ、本人は良くなったのですが今度は息子が妄想を信じるようになってしまいました(【1207】のその後)
Q: 【1207】被害妄想が悪化の一途をたどっている義妹では回答をいただけて本当にありがとうございました。本を読み義妹と一緒に通っている先生に話をうかがい、不安の中何とかしなければという思いだけで、焦ってもおりました。
あのあと主人と話し合い、薬を飲ませることに重点を置き、先生にも相談しまして・・・
義妹の息子と同居させることが出来ました。
義妹はひとりで暮らすことの不安(敵の組織との戦い、経済的な心配、寂しさ、など)をかなり口に出していましたし。
主人と2人で息子(甥)に何度も会い、母親(義妹)の病気の現状、将来的なことなど、説明をしました。
主治医の先生にも直接甥に話しをしていただき、甥も事の重大性を理解してくれたようでした。
甥は母親に内緒で父親(義妹とは別居はしていても離婚はしていません)とも相談し、自分が母親と同居し、薬を飲ませるということに決まりました。
無事に引越しを済ませ、甥はマメに私たち夫婦に、義妹の状態を知らせてきてくれました。
「組織のことはよくわからないけど、俺が居るんだから心配要らないよ」
「でも先生の言うように電波攻撃をブロックする薬はきちんと飲もうね」
10年ぶりの母子の同居はすぐには、しっくりこないようで・・・義妹からも甥からも別々に、いい事も不満も、報告されていました。
こんな感じでうまく行きかけたように見えました。
概ね良い方向に向いてきたかなと思っていた矢先に・・・
甥が私たちとの連絡を絶ちました。
電話にも出ず、メールに返事もありません。
心配して義妹に連絡すると・・・・
引っ越してから電波攻撃はない。
息子が居てくれるからかもしれない。
約束だから薬は飲んでるけど・・・もう電波攻撃がないからそろそろ薬は止めようかしら、お金もないし。
甥から連絡して欲しいと頼んだら、やっと電話がありました。
開口一番喧嘩腰で。
「おかあさんの言ってた事は本当だった。最近俺は後を付けられている。あんたたちこそ、どんな魂胆で俺たち親子に関わるんだ!」
「金輪際俺たちに関わるな!」
とりつくしまもなく、聞く耳も持たず、言うだけ言って一方的に切りました。
義妹は反対にのん気で・・・
息子が自分の怖い体験を信じてくれた。
もしまた電波攻撃とかが始まっても、ふたりで戦える。
同居できて安心した。
お兄さんたち夫婦(わたしたちのことです)のことは、敵の組織の仲間じゃないかと誤解しているみたいだけど・・・
わたしがきちんと話して、誤解を解くから大丈夫。
だからこれからも、援助してね。(お金も少し助けています)
という感じです。
甥は結局私たちとは絶縁です。
出向いても義妹から聞いて、家にいません。
誰かに何かを吹き込まれたのか・・・あたしたちの何を誤解したのか。
義妹には、先生とも約束したんだから、お薬はまだ飲もうよって話したら、わかったとは言ってくれました。
林先生、義妹はリスパダール0.5ミリ×2包/日が効いて、電波攻撃がなくなったのでしょうか。
甥は、まるで義妹の症状が伝染してしまったかのような感じです。このタイミングで甥も統合失調症を発症したんでしょうか。
主治医の先生に説明しましたら、様子を見るしかないですと言われました。
主人は、甥の変貌ぶりに、怒っています。
義妹と同じ病気なのかもと私が言っても、信じられないそうです。
あたしにも、何がなんだか、わかりません。
幸い義妹は落ち着いています。
でもこの状態で甥と同居し続けることが、果たして大丈夫なのか・・・
アドバイスいただけると嬉しいです。
長くなりました。申し訳ありません。よろしくお願いいたします。
林: 大変なご苦労の結果、甥御さんと同居していただくという最善と思われる手段を取ることが出来、またそれが功を奏して義妹さんの病状が改善された矢先に、このようなことが起きてしまい、非常に困惑されていること、お察し申し上げます。
結論を先に申し上げますと、
でもこの状態で甥と同居し続けることが、果たして大丈夫なのか・・・
甥御さんと義妹さんの同居を解消すべきと思います。
その理由は、甥御さんは感応精神病(二人組精神病)による症状が出ている可能性が強いからです。
感応精神病とは、家族など非常に密接な関係にある二人のうちの一人が、統合失調症の罹患などにより妄想を持ったとき、もう一人もそれと同じような妄想を持ってしまうというものです。【0738】でも解説しました。【0738】は一卵性双生児の例ですが、そこにお書きしたようにこれはむしろ例外で、この【1238】のように、親子などの場合のほうが普通です。(普通といっても非常に稀なものではありますが)
甥は、まるで義妹の症状が伝染してしまったかのような感じです。
まさにその通りです。但し「心理的に伝染した」と言うべきでしょう。
感応精神病への対処は、これも【0738】にお書きしたとおり、その二人を物理的に引き離すことです。【1238】では、せっかく苦労されて同居されたという経緯からすると忸怩たるものがあるのはよくわかりますが、このような状態になった以上やむを得ないと考えるしかないでしょう。
感応精神病では、多くの場合、二人を引き離せばそれだけで症状は良くなります。もっとも、元々精神症状があったほうの方、ここでは義妹さんですが、その方は服薬を続けなければならないことは言うまでもありません。
甥御さんのほうは、しばらく様子を観察し、それでも妄想が続くようであれば、
このタイミングで甥も統合失調症を発症したんでしょうか。
そうおっしゃるのは、まさかこのタイミングで、という意味だと思われますが、やはりそう考えざるを得ません。甥御さんにも統合失調症が発症した可能性を考えて、服薬が必要ということになります。
今になってお二人を引き離すこと、また引き離したあとに義妹さんに、さらに場合によっては甥御さんに服薬していただくことは容易でないことはよくわかります。しかしとにかくそれが最善の方法であることをご理解のうえ、方針をお立てください。