精神科Q&A
【1207】被害妄想が悪化の一途をたどっている義妹
Q:
義妹は51才、10年ほど前に当時20才の長男と14才の長女を夫の元に置いて家を出ました。 理由は自分勝手な夫に嫌気が差したそうです。そして、仕事で知り合った15才年上の彼(妻子がいらっしゃいます)を頼り半同棲のように暮らしていたそうです。
その彼が生活費もくれなくなり、出て行ってから、義妹の妄想らしきものが始まりました。
出て行った彼が、義妹がいない間に部屋に侵入し悪戯をしている。盗聴や監視もしているので怖いと私たち夫婦に相談がありました。
彼女は主人の妹です。
確かに未練がましくストーカーする輩もないとは言えず、半信半疑のまま義妹の言い分を聞き、主人は彼と電話で話しました。
主人が話した限りは、別れた後一度も会っていないし電話もしていない、反対に部屋に侵入しているとか、意味不明の電話が四六時中かかり困っているとのことでした。
結局立ち会って、鍵を取替え、余分にもうひとつ付けました。
ひと月もしないうちに、やっぱり部屋の中に誰かが入っている、鍵屋も彼とグルだと言い出しました。
このあたりでなにか精神的な病気に違いないと、調べて林先生のページにたどり着きました。
アパートの下の部屋のご夫婦が彼とグルだ、隣の部屋の住人もだ、向かいの一戸建ての家族もみんなで自分を監視している。
大きな得体の知れない犯罪組織だそうです。
組織の仲間の彼と暮らしているときに、自分では気づかないまま秘密を知ってしまったに違いない。
階下から『電波攻撃』がひどくて、眠れない、頭が痺れて痛い。
警察に相談に言っても相手にしてもらえなかったのは、組織が警察にも入り込んでいるから。
そこで私が、私自身が更年期障害で睡眠障害だから、心療内科に行きたいの。
一人で行くのは嫌だから、一緒に行って欲しい。
いつか組織と戦うときに、医者に被害を相談していた事実があったほうがいいわよ。
と義妹を納得させ、心療内科と精神科の看板のある小さな病院に連れて行きました。
事前に主人と2人で家族相談させていただいて、先生には連れてくるまでの事情をお話しました。
先生は上手に話してくださいました。
電波攻撃からまずあなたの神経を守りましょう。
この薬はあなたの神経を強くしてくれますから、とにかく継続して飲んでみましょうと。
リスパダールの水薬、ミリ数は分かりませんが一包か飲めれば二包。
寝る前に一日1回。
先生が義妹に聞こえないように私に、全然量は足りませんがとにかく飲ませることから始めますとおっしゃいました。
でも結局私たちは電話でしか関われず(二週間に一度通院時には会いますが)薬は飲んだり飲まなかったりのようでした。
義妹の近くに一人暮らししている彼女の息子に現状を伝えても、十年前に男と出て行った母親に冷たく、行き来はしていても親身にはなりません。
父親と同居している娘はまったくのニートで話になりませんし・・・
話が長くなりましたがご相談したかったのは以下のことです。
義妹の被害妄想は、エスカレートしています。
彼女の中で拡大している『組織』の電波被害に対して、仕返しをしようと考えているようなのです。
階下のお宅に振動がうるさいとか、電化製品の電磁波を何とかして欲しいと、苦情を言っているようです。
階下のご夫婦は大家さんの親戚らしく、古い建物なのでご迷惑かけないように気をつけますと言ってくれたらしいのですが。
ありもしない電波攻撃が止むはずもなく、今後が心配なのです。
命がけで戦うしかないとか、何もかもゼロにしたいとか言い出し始めました。
その点を除けば普通に仕事をして、一人で暮らしています。
病人扱いせず、義妹の話を否定はせず、やってきましたが・・・
今は主人も組織に引き込まれたんじゃないかと疑っています。
私のことは信じてくれているようです。
電話は時間を問わずかかりますか、なんとかなだめています。
ひとりで立ち向かって玉砕したら、次は子供たちも心配でしょうと。
とにかくひとりで答えを出さずに相談しましょうって。
誰かを傷つけたり、自分を傷つけたりする前に何とかしないとと、気持ちは焦りますが、義妹から片道三時間の所に住み、認知症の父親と同居している身では一緒に通院が限界です。
前回は風邪気味を理由に病院には来ませんでした。
薬は届けましたが、飲んでも飲まなくても、組織がやってるんだから!と怒り出す始末です。
100人に一人もいるこの病気。
近くで対処できる者がいない場合、何か重大なことが起こってしまったらどうしたらいいんでしょうか。
息子なり戸籍上の夫なりを説得する自信はありません。
義妹の兄である主人でさえ、関わりたくない感じ、逃げ腰のように見えます。
最悪は我が家で引き取るしかないと主人は言いますが・・・
成人している息子娘、戸籍上とはいえ夫がいる義妹を、うちが引き取るのもどうなんでしょうか。
今現在病気の認識はありませんから、本人も納得するはずもありませんし。
騙してでも無理やりにでも入院させようと、息子に提案するつもりですが。
息子が承諾しない場合、遠く離れた私たち夫婦が、出来るはずもないのです。
こういう場合は、どうするのが得策でしょうか。
よろしくお願いいたします。
林: 義妹さんが統合失調症であることは間違いないと思います。とすれば、救う方法は精神科の受診と治療しかありません。治療は外来で出来ればそれが理想ですが、この【1207】のように病識がほぼ完全に失われていて、しかも他人への攻撃性が認められる場合は、入院治療を選択すべきでしょう。
最悪は我が家で引き取るしかないと主人は言いますが・・・
成人している息子娘、戸籍上とはいえ夫がいる義妹を、うちが引き取るのもどうなんでしょうか。
引き取って何とかされようという、ご主人の姿勢は敬意を表されるべきものですが、ご主人は引き取ってからどうされるおつもりなのでしょうか。
義妹の兄である主人でさえ、関わりたくない感じ、逃げ腰のように見えます。
このような姿勢で、その一方で引き取ろうという意図を示されているというのがよくわかりません。その意図は口だけなのか。まさかそうではないと思いますが、逃げ腰の姿勢で引き取っても何もならないでしょう。治療を開始しなければ希望はないからです。
これまであなたのおとりになった対処は、どれもきわめて適切だったと思います。すなわち、
そこで私が、私自身が更年期障害で睡眠障害だから、心療内科に行きたいの。
一人で行くのは嫌だから、一緒に行って欲しい。
いつか組織と戦うときに、医者に被害を相談していた事実があったほうがいいわよ。
と義妹を納得させ、心療内科と精神科の看板のある小さな病院に連れて行きました。
実にうまく受診に持っていかれたと思います。これで第一のハードルは越えました。
先生は上手に話してくださいました。
電波攻撃からまずあなたの神経を守りましょう。
この薬はあなたの神経を強くしてくれますから、とにかく継続して飲んでみましょうと。
先生が義妹に聞こえないように私に、全然量は足りませんがとにかく飲ませることから始めますとおっしゃいました。
良い先生にかかることができ、回復への希望が見えて来ました。しかし
でも結局私たちは電話でしか関われず(二週間に一度通院時には会いますが)薬は飲んだり飲まなかったりのようでした。
薬を続けさせることは出来なかった。見えてきた希望は遠のきました。あなた自身が遠くに住んでおられる以上、これは限界というしかないでしょう。
私のことは信じてくれているようです。
電話は時間を問わずかかりますか、なんとかなだめています。
ひとりで立ち向かって玉砕したら、次は子供たちも心配でしょうと。
とにかくひとりで答えを出さずに相談しましょうって。
電話での対応としてはきわめて適切です。
あなたは義妹さんのためにできる限りのことを、そして可能な範囲では最も適切なことをされてきたと判断できます。
しかし、この電話対応は一時しのぎのものでしかないことは否定できません。
誰かを傷つけたり、自分を傷つけたりする前に何とかしないと
その通りです。そういう危険性がある状態です。
騙してでも無理やりにでも入院させよう
ここまで来ると、それしかないでしょう。
息子が承諾しない場合、遠く離れた私たち夫婦が、出来るはずもないのです。
いいえ、遠く離れたご家族の力を借りて、入院に持っていくことは可能です。
悪化した統合失調症の方が独居していて、手の出しようがない。そういうケースはままあるものです。医療側からすると、そのような場合、たとえ遠方在住でも、ご家族の方の協力があれば、全く協力がないケースに比べれば、治療開始ははるかにスムースにできるものです。具体的には、ご家族同伴で受診され、医療保護入院とする、という方法です。
この【1207】のケースでは、義妹さんは離婚して単身となっている成人ですので、医療保護入院のための「保護者」は現在は存在しないという形です。しかしメール記載のような経緯であれば、家庭裁判所での手続きを受ければ、ご兄弟(つまり質問者のご主人)が保護者に選任されることはまず確実です。
こういう場合は、どうするのが得策でしょうか。
前に受診された先生ないしは保健所に相談し、医療保護入院に向けて動くのが最善です。