精神科Q&A

 【1197】幸せな幻覚妄想


Q: 20代前半の娘のことでご相談します。私は50代の母親です。

3年前に統合失調症と診断され、その時は外来治療で症状はおさまり、定期的に通院と服薬(セロクエル600mg)を続けていましたが、2ヶ月前に再発しました。
再発してから1ヶ月間の薬は次のようなものです。

セロクエル700mgに増量
           ↓ 
セロクエル700mg/1日
セレネース4.5mg/1日
アキネトン3mg/1日
サイレース(2)×2錠  レボトミン(25)×2錠(就寝前)
                  ↓                        
セレネース9mgに増量
ピレチア75mg/日追加
              ↓     
セレネース12mgに増量
セロクエルは減量
           ↓
ジプレキサ(10)開始
セロクエルは中止
           ↓
ジプレキサ(10)×2錠に増量

セロクエルもセレネースもジプレキサも全く効果がなく、
「彼と待ち合わせをしているから会いに行く」と出かけようとし、医師から外出を控えるように言われると、「彼が家まで迎えに来てくれる」「○月○日に結婚が決まっている」など、幻聴・妄想が続いたため入院となりました。

入院後、リスパダール3mgをのみ始め、今は10mgまで増えていますが、
それでも症状に変化はありません。
(セレネースは効果がない上に、夜眠れない、姿勢が前かがみ等の副作用が出て、
リスパダール開始前後に中止となりました。ジプレキサは中止)

入院してからは、「彼も一緒に入院している」「今から見舞いに来てくれる」
「今日外泊許可が出たので、一緒に出かける」なども言うようになりました。

3年前の時は薬が良く効いたのに、今回はどうしてきかないのか、これが治療抵抗性のケースという事なのでしょうか。

医師からは、今回は完全に症状が取りきれないかもしれない、幻聴は本人にとって不快なものが多いのに、娘の場合は好きな人の声が聞こえて、しかも本人にとっては嬉しいこと、幸せになることを言ってくれるので、避けるどころか自分から聞いてしまう、側にいる人の声よりも幻聴の方を優先して聞いてしまう為に、より薬が効きにくい、と説明を受けています。

また、電気けいれん療法は、うつ病や激しい興奮状態の統合失調症には効果があるが、娘のような症状には効果があまり期待できないと言われました。
新薬のエビリファイについても、もっと軽症の人向きと言われ、先が見えずに、途方にくれております。

今回の再発では、会話が支離滅裂になるわけでもなく、知らない人が聞けば、妄想の話も現実のことと思ってしまうくらい落ち着いていて、働く意欲もありますが、幻聴がどうしても取れないのです。

それとも、今のリスパダールをもっと続けて服用すれば、今後幻聴や妄想は、今より取れてくるのでしょうか。

今現在も、手が震えたり、夜になると落ち着かず眠れないなど、薬の副作用と思われる症状が出ていますが、(副作用止めの注射を打ってもらって、やっと眠れるようです)このような状態の時に、他の薬の選択や治療法はないのでしょうか。

先生のご意見をお聞かせいただければと思い、ご相談するものです。
長くなりましたが、どうぞよろしくお願いします。


林: まず診断は統合失調症で間違いないでしょう。そしてこれまでの治療も適切であったと判断できます。しかし残念ながら、適切な治療を続けてきたのにもかかわらず、十分な効果が現れていないと認めざるを得ないでしょう。

医師からは、今回は完全に症状が取りきれないかもしれない、幻聴は本人にとって不快なものが多いのに、娘の場合は好きな人の声が聞こえて、しかも本人にとっては嬉しいこと、幸せになることを言ってくれるので、避けるどころか自分から聞いてしまう、側にいる人の声よりも幻聴の方を優先して聞いてしまう為に、より薬が効きにくい、と説明を受けています。

主治医のこの説明は一理あります。一理ありますというのは、確かにこのような説もあるということです。つまり、被害的な、本人にとって苦しい幻覚妄想よりも、誇大的な、本人にとって好ましい幻覚妄想のほうが、病気としては重く、そして治りにくいという説です。症例の観察や文献を通して、この点について考察した医学論文もあります。

但し、この説は証明されているわけではなく、また実際証明はきわめて困難なものです。「そういう説もある」という段階にとどめて理解しておくべきでしょう。

この観点から【1197】を見ますと、一方では統合失調症として重い症状で、治療抵抗性であるという見方も出来ますが、他方では、統合失調症の経過にはしばしば波がありますので、今の時期を過ぎればまた回復してくるという見込みを立てることも出来ます。どちらの見方がより正しいか、現時点では誰にも判断できないと思います。

もちろん過度に楽観的になることは禁物ですが、かといって悲観的になる必要はなく、今後も現実をしっかり直視して治療を続けていくことが第一と思います。


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