精神科Q&A
【1172】5年のひきこもりの末、電車に飛び込み自殺をした弟
Q: 弟(30歳)は、先日走っている電車に飛び込み自殺をしました。幸いとても運が良く線路の真ん中に体があったために擦り傷こそはありますが命に別状はなく、現在は大学病院の集中治療室に入院しています。
あと10センチでも体がずれていたら?と考えると本当に恐くなります。
そこで私自身、このサイトにたどり着き今回メールを送らせてもらいました。
私の弟はひきこもりが5年くらい続いています。
現在、弟は実家に住んでいて私は別居中なのですが、私の知っている限りの中で弟の今までの経歴は次の通りです。
弟は幼稚園時代の、ある日に騒いでいた事が原因で当時の担任の先生に酷く注意をされ体罰も受けそれが原因で友人と会話するのが恐くなり、それ以来中学卒業までの11年間、全く友達と会話もせずに義務教育を終わってしまいました。そのような状態なのでクラスメイトからはバカにされ学校も休みがちになり出席日数も足りなく高校進学も出来ませんでした。
しかし、弟も『このままではいけない』と思ったらしく大学資格検定試験に合格し、22歳で都内の私立大学に入学しました。
しかし、その後に親が体調不良になったことから家庭の経済状況が苦しくなり、授業料も払えなくなり最終的に自己破産をして弟は大学を中退することになりました。
その後、25歳位から弟は部屋にひきこもるようになりました。
その時弟は(これは私が最近知ったのですが)父親に『精神科の病院に行きたい』と言ったみたいなのですが、その時父親には『お金がないから無理。自分の力で治せ。』と言った事があったみたいです。
その何日か後に弟は自宅で首を吊って自殺未遂をしました。
その後の症状としては両親に話しかけられたり質問をされても無気力のような感じで何も答えず、兄である私には質問をすればYESの時には首を縦に振り、NOの時には首を横に振る程度で自分からは声を出して物事を主張する事が一切なくなりました。
生活面ではお風呂にも入らず不潔な状態で、食欲は生きている最低限度の食事をする程度でした。
そして時期が経過し(約4年半)自宅では弟に対して何も行動をしなく放っている状態が続いたので昨年の11月頃から私が弟に対して行動をしました。具体的に言うと近くの大学総合病院に連れて行ったり、東洋医学の病院に行ったりした程度ですが。
東洋医学の病院に行った時に言われたことは『歩きなさい。運動しなさい』と言われ漢方薬をもらいました。
その後、1か月位して私が弟に『体の調子はどうか?』と尋ねたところ『何も改善がない』と答えたので、次は大学総合病院の精神科に連れていきました。
そして、その後に再度私が弟に『体の調子はどうか?』と尋ねたところ『何も改善しない』と答えてはいたのですが母親が『顔色は以前に比べ良くなっている気がする。食事も前に比べて進んでいる』 と言っていたので、通院は続けさせようとしていました。
しかし、私は仕事があり弟を送って行くことが出来なかったのです。そのような中で、私が仕事場から母親に電話をしたところ弟は『病院に行きたくない』と言っているようでした。
そこで、かなり強引に病院に行かせようと考え実家の方で救急車を呼び病院に行かせようとしました。
結果的に弟はその場で救急車には乗らず母親と2人で病院に行きました。
その日は何もなく終了しましたが、今思えば弟に本当に悪いことをしたと感じていま
す。
その夜、弟は珍しく母親に『今日の夕飯は好きな焼き肉が食べたい』と言ったらしく、母親も治ってきたと喜び楽しく夕飯を作っていました。
そして2日後、私が仕事最中に携帯電話が親から鳴り『いつも部屋にいるはずの弟がいなくなった』との連絡があり夕方になり警察に捜査願いを出したところ、実は昼間に鉄道に飛び込んだ自殺未遂があり本人かどうか確認して欲しい。と言われ確認したところ弟だったのです。
今は何も言えませんが本当にショックでした。ニュース等では毎日のように人間の死を伝えていますが人間の一人一人に人生があり思い出があり兄弟や親もいます。たまたま本当に偶然に弟は生きていたので、私は現在、世の中すべてのものに感謝しています。
また弟が自殺の行為にまで至らせた自分は本当に情けないと思います。
そこで、今回メールをさせていただいたのですが、このような場合にどのような治療法があるのか?また周りの人間の対応はどのように行動すればいいのか?また、正しい方法は何なのか?
私自身や家族はうつに対して全くの素人なのでアドバイスをいただきたくメールしました。弟のためなら何でもしたいと思います。良い方法があれば教えてください。
林: 鉄道への飛び込み自殺で命が助かったのは、本当に稀な幸運と言うほかはなく、運命に感謝しつつ、弟さんのためにこれから最善の方策をとりたい。私もそのように強く思います。
また弟が自殺の行為にまで至らせた自分は本当に情けないと思います。
そのようにご自分を責める必要はないでしょう。この【1172】は難しいケースだと思います。
けれども、一つだけ、根本的な問題を指摘したいと思います。
それは、なぜ主治医の意見を聞かないのかということです。
メールの文面からは、ここ何ヶ月かは病院に通院しているようですが、主治医の話が出てこないのは奇異に思われます。今回も、私などに聞くよりも、主治医の意見をまずお聞きするべきではないでしょうか。それとも主治医にはお聞きになったうえで、さらにこうしてメールを書いておられるのでしょうか。そうであればいいのですが、どうも文面からはそのようには読み取れません。その理由の一つは、
私自身や家族はうつに対して全くの素人なのでアドバイスをいただきたくメールしました。
この一文です。
この一文からは、弟さんの病気について、これまで主治医から説明をお聞きになっていないことが窺われます。なぜなら、この【1172】の題の、「5年のひきこもりの末、電車に飛び込み自殺・・・」から、真っ先に推定される病気は、うつではなく統合失調症だからです。
若い年齢でのひきこもりが、統合失調症の徴候であることがしばしばあるということは、統合失調症 患者・家族を支えた実例集 の32ページからのcase 1 「ひきこもりでしょうか」にも、また、【0405】などにも記しました。
もちろん、ひきこもりというだけで統合失調症と診断することは出来ませんが、この【1172】のような経過は、少なくともうつ病の可能性は低く、最初に考慮すべき病名は統合失調症です。
このような場合にどのような治療法があるのか?また周りの人間の対応はどのように行動すればいいのか?また、正しい方法は何なのか?
弟さんのために何とかなさりたいという気持ちはよくわかります。しかし、「精神科で治療を受けていて、自殺を試みた」という人の、自殺の原因も診断名も様々です。ご質問のような「治療法」「周りの人間の対応」「正しい方法」は、それによって違ってきます。つまり、弟さんについての診断や治療経過を主治医にお聞きにならない限り、決して答えは得られないということです。
あなたが弟さんのことを心から思っておられることはよくわかります。しかし、「心から思っている」だけでは、正しい方法には決して到達できません。弟さんの自殺に動転されているのかもしれませんが、このようなことを主治医以外の人間に聞くのは間違っています。もちろん私に聞くのも間違っていると思います。すべて主治医の先生にお聞きください。