精神科Q&A

  【1147】私は本当にうつ病と身体表現性障害なのでしょうか


Q:私は26歳の女性です。
私は10年前の16歳の時に腰椎椎間板ヘルニアの手術を受けたのですが、術後も芳しくなく、だましだまし生活を続けてきました。年に数日動けなくなるようなこともあったのですが、無事に就職もし、楽しく仕事もしておりました。
それが、2年前のある日突然、朝起きた瞬間から腰の激痛で動けなくなり、かかりつけの整形外科に行きました。しかし、レントゲンやMRI検査をしても、悪いところが見つからず、原因不明と言われてしまいました。そして、「一応痛み止め出しておくから」と言われ、処方されたのがデパス錠でした。(その時はデパス錠が本当に痛み止めだと思って飲んでいました)

その後、1ヶ月経っても全く症状は変わらなかったため、いつまでも欠勤することは会社にも迷惑がかかると思い、泣く泣く退社することにしました。
その後は他の整形や内科、泌尿科、婦人科といろいろ回ってみたのですが、やはり原因不明で、そして最後にたどり着いたのが心療内科だったのです。
そこでの診断は、「うつ病と身体表現性障害」と言うものでした。
初めの頃の症状は
・腰痛で歩けない。
・日々が不安で死にたくなる。
・意味もなく涙があふれてきて、夜寝られない。
・何かにとりつかれたように肩が凝る。
・1ヶ月のうち20日以上は頭痛がする。
・わめき散らしたくなる、叫びたくなる。
・何もやる気が出ない。動けないので引きこもる。
というものでした。

今の心療内科にかかってから約1年経ちましたが、未だに完治はしておらず、今の症状としては
・杖がないとたっていられない。
・杖を持って少し歩いていると突然腰痛が襲ってきて歩けなくなってしまう。
・人と接するのが億劫で一日中パソコンに向かってボーっとしている。
・外出しようとすると吐き気が止まらなくなる。
・働きたいのに働けないという気持ちが強く、日々悶々としている。
・常にイライラしているらしい(母がそう言っている。自覚はない)
・何もやる気がでず、引きこもり状態である。
と言う感じです。

私の昔の性格は周りから見れば「真面目で明るく楽しい子」というイメージだったと思います。しかし、私は普段からそれを演じているのが辛く、例えば、友人同士集まったときにシーンとする空気が怖くて無理におちゃらけてみたり、笑わせてみたりする性格で、その後にものすごく後悔するタイプでした。
最近では、それすら出来なくなってしまい、友達にはうつ病だと言っていないこともあって、みんな「暗くなった」と言って去っていってしまい、悩みを相談するような友達もいません。大げさではなく一人もいないのです。

だからと言って、食欲もありますし、テレビなども楽しくみています。
仕事でも特に悩んでいたことはありませんでした。
しいて言えば、常に「腰に爆弾を抱えている」と思って15年間生活していたということです。突然動けなくなることが年に数回はあったので日々腰のことが頭にあったことは間違いありません。
お医者様が言うには、それがうつの原因ではないかと言うことでした。
日々、いつ襲ってくるか解らない腰痛におびえていたことがきっかけとなったのではということです。

ただ、私は本当にうつ病、身体表現性障害なんでしょうか。
1年間薬を飲んでも普通に歩けるようになっていない点などから、実は原因不明なんじゃないかとまた不安になっています。
私がなる病気は常に原因不明といわれる事が多かったためです。
例えば、朝起きたら方耳が全く聞こえなくなっていたのですが、耳鼻科に行くと、それもまた原因不明でした。心療内科の先生にその旨を伝えると、「それもストレスだよ」とおっしゃっていました。その通りなのか、放っておくと2週間ほどで聞こえるようになりました。それから数回聞こえなくなることがありましたが、放っておくとなおります。
ただ、涙がとまらない、夜眠れないなどといった症状はなくなりました。
でもたまに、このままの状態が続くなら、死んでしまいたいとか消えてしまいたいと思うことはあります。
他にも健康なのに働いていない人を見ると、自分に対してとてつもない怒りを覚え、働きたくても働けない人間がいるのにと激昂してしまいます・・・。
また、母は私が常にイライラしているため、話しかけるのにドキドキすると言っています。自分が母にそんな思いをさせていたと知って、ものすごくショックで、一時口もきけなくなってしまいました。

今飲んでいる薬は
・デプロメール錠25mg(朝・昼・晩)
・リボトリール錠0.5(朝・昼・晩・寝る前)
・ルーラン錠4(寝る前)
・ワイパックス(不安時)
です。



林: うつ病では、体に色々な症状が出ることがあります。【1014】などをご参照ください。
ですから、あなたの腰痛に関しては、うつ病の身体症状という解釈も可能です。その一方で、診断基準に基づけば、身体表現性障害ということもできるでしょう。この両者をことさらに区別することは、研究上はともかく、臨床的には、つまりご本人であるあなたにとっては、あまり大きな意味はないと思います。

1年間薬を飲んでも普通に歩けるようになっていない点などから、実は原因不明なんじゃないかとまた不安になっています。

そういう心配はされなくていいと思います。経過と症状からみて、身体表現性障害(あるいは、うつ病に伴う身体症状)といえます。つまり、精神的な原因による身体症状であるということです。

精神的な原因で身体症状が出ることを、精神症状が身体化するといいます。人によって、とても身体化しやすい場合があるものです。この【1147】のケースでは、今は腰痛で困っておられますが、以前突発性難聴もあったようですので、非常に身体化しやすい方であるといえるでしょう。

治療としては、薬物療法が有効です。身体症状に抗うつ薬が効くのは、【0643】のような鮮やかな例もあります。

また、カウンセリングの効果も期待できます。
ひとつの考え方として、身体化しやすいのは、精神症状を精神症状として表現しにくい性格がある、つまり悩んでいるのに悩んでいると表現しにくい性格の人が多いという説があります。これをアレキシチミアalexithymiaといいます。
この説には賛否両論がありますが、少なくとも身体化しやすい人の一部にはあてはまるという印象はあります。
その観点からこの【1147】を見ますと、

私の昔の性格は周りから見れば「真面目で明るく楽しい子」というイメージだったと思います。しかし、私は普段からそれを演じているのが辛く、例えば、友人同士集まったときにシーンとする空気が怖くて無理におちゃらけてみたり、笑わせてみたりする性格で、その後にものすごく後悔するタイプでした。

この記述からは、アレキシチミアの傾向がありそうだと思えないこともありません。
もっとも、この判断はどちらかというと深読みしすぎでしょう。しかし可能性として、薬物療法に加えて、カウンセリングを考慮していいケースだと思います。


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