精神科Q&A
【0643】抗うつ剤と仲良く付き合っていける決心ができました(【0600】の続き)
Q:
私は38歳の女性、【0600】慢性疼痛の再発予防のためには一生抗うつ薬を飲むべきでしょうかの質問者です。掲載していただいてありがとうございました。
質問をしてから、掲載いただくまでのタイムラグの間に、すでに抗うつ剤をこの先ずっと常用する覚悟はできていたのですが、先生からのセカンドオピニオンが、主治医と同じだったこと、また日本語で診断の理解を後押ししていただいたことで、より気持ちが楽になりました。ありがとうございました。
その後の経過をここに書かせていただきます。
パロキセチン20ミリを2週間飲んで、まだ効果が出ない、といっていた前回の相談時、主治医はわたしに、
「これからは、この病気をあなた自身がコントロールすることができるようにしましょう。薬物療法とは一生のおつきあいになるのだから、あなたが薬の種類、用量と飲み方のプログラムをきめてごらんなさい。最新薬のRIMAを試してみるのもよし、SNRIにシフトしてみるのもよし、パロキセチンにこのままステイして、自分の判断で増量するのもよし、抗うつ薬をどんな風に有効に使って、自分の体を治療していくか、自分で決めていいわよ。」といわれました。
私はいろいろ考えて、日本でも商品名パキシルで広く使われていて、効果がはっきりしているパロキセチンを続ける事に決め、用量を30ミリに増やして自分の体の様子を見ました。
30ミリで、足がすくむような感じや気分の悪さはかなり改善されましたが、まだ焦燥感や口の中の痺れなどがとれなかったので、さらに10日後に、40ミリに増量しました。
40ミリに増量すると、わずか3日ほどで、全身に残っていた痛みやしびれ、緊張感などがふっとはけでなぞったように鮮やかに消えて、体調が目に見えてよくなりました。
その後も40ミリをしばらく続けたところ、再発からトータルわずか7週間で、またテニスをしたり、家族で旅行したり、普通に家事をしたりできる日常生活に戻ることができました。
早期に再発に気がついて、積極的に治療をしたので、今回の回復は本当に鮮やかでした。
うつ病は治ります、と林先生はサイトの随所に明記されていらっしゃいますが、私も本当に実感しています。
治療には自分にあった抗うつ薬を十分な量飲むことが欠かせないけれど、薬さえ適薬、適量が見つかれば、相当悲惨な状態からも、鮮やかな回復が見られるのが、この病気なのだ、と思いました。
私の場合、はっきりと効果のあるお薬がみつかっているので、この病気は一生つきあうにしても、様々な病気と比べてもずっとつきあいやすい病気だ、と自信を持ってプラスに考えることができました。
また私の場合、パロキセチンは副作用で少し太るので、ダイエットのために否応なしに運動の習慣ができました。
おかしな言い方ですが、この薬と付き合っていることで、一病息災で何もないときより健康でいることもできるのではないか、とそんな方向からもポジティブに考えています。
再発から4ヶ月すぎた現在も維持療法のために、30ミリに用量を落として飲み続けています。
今回パロキセチンの副作用で、夢を見て不眠になってしまうので軽い睡眠薬も飲んでいます。
体調は悪くないのですが、外国での生活ということもあるので、当面はこのまま30ミリを続け、帰国して落ち着いてからゆっくりと減薬する予定をたて、主治医もそれに賛成してくれました。
体調がよいので、よく飲み忘れます。
それも、自然な形で休肝日が取れた、と思って深刻に考えないことにしました。
薬については今、私はこう考えています。
前回の治療時、1週間に20ミリ、などかなりの低用量でも数ヶ月健康だったので、体調をみながら維持療法をするときも、低用量をできるだけ維持して運動などで体調をよくする努力をしてみよう。
そして低用量で維持療法をする代わりに、再発の兆候に気がついたら、速やかに40ミリに増量してすぐにまた健康体に戻す努力をしよう、自分の体を大切にして体調に敏感になろう、と薬や病気との付き合い方もわかってきました。
主治医も、私の考えたこのやり方を、それでかまわない、と支持してくれました。
ところで、私は日本にいるとき、整形外科にずいぶん通いましたが、日本のドクターでは、ほとんど不定愁訴として相手にされず、本当に苦しい毎日を過ごしていました。
抗うつ薬が有効で、痛みが治った、と日本のドクターにいったところ、それみたことか、という具合で、
「だから精神的なものだっていっただろ。気の持ちようなんだよ。」と言われたのですが、
患者として私の実感はそうではなかったのです。
いくら、痛みは精神的なものから来る、前向きになりなさい、といわれ、リハビリの運動をしても、気を紛らわすような趣味に打ち込んでも、痛みは確かにそこにあって動かず、叱咤激励されるたびにますますひどくなり、気の持ちようでは治りませんでした。
精神的なストレスから来るうつ病が、気の持ちようでは治らず、抗うつ薬が必要なのと同じように、抗うつ薬で治療できる慢性疼痛障害も、抗うつ薬が利くからといって精神的なものではなく、痛みは確かに体に存在していて、薬でなければ治らないと思います。
整形外科のドクターに、心気症だよ、と相手にされなかったので、日本でも実は精神科に行ったのですが、私の場合、なまじはっきりとレントゲンに写る異常があったがために、脳の異常による慢性疼痛とは診断されませんでした。
そのため抗うつ薬は出ず、抗不安薬や睡眠薬や筋弛緩剤、痛み止めなどが出ていて、余計にぐったりするだけでまったく効果はありませんでした。
日本には全身を診てくれるホームドクターであるGPの制度がなく、いきなり専門医に行くために、たとえば整形外科のドクターは抗うつ薬の使い方に詳しくないし、精神科のドクターは椎間板ヘルニアなど知ったことではない、など、慢性疼痛障害の患者さんは、日本では適切な治療を受けられずに、なかなか治らないことで自分を責めて苦しんでいるケースは多いのではないかと思います。
林先生のサイトは、アクセスも多く、医療関係者も閲覧されているので、コンテンツにやQ&Aに載せていただければ、少しでもそういう事情が改善されるのではないかと期待しています。
いつか先生にお時間があるときに、慢性疼痛障害が、抗うつ薬で治療できる、精神科の治療対象になる病気であること、だからといって、決して気の持ちようでは治らないので、周囲の人は患者を責めてはいけないこと、などを科学的にアピールしていただけないでしょうか。
僭越なお願いですが、もしできましたら、よろしくお願いいたします。
林: その後の経過をご報告いただきありがとうございました。今後あなたの病状が安定し、さらに改善されることを願っております。あなたがこのメールに書かれた今後の方針はすべて正しいと思います。
慢性疼痛障害が、抗うつ薬で治療できる、精神科の治療対象になる病気であること、だからといって、決して気の持ちようでは治らないので、周囲の人は患者を責めてはいけないこと、などを科学的にアピールしていただけないでしょうか。
私が何かを書くより、あなたの経験をこうして掲載させていただくことが、はるかに強いアピールになると思います。ご経験やお考えをこれだけ丁寧にお書きいただければ、私の解説などは不要だと思います。ご質問のメール、そしてその後の報告のメールをいただいたことにあらためてお礼申し上げます。