精神科Q&A

【0600】慢性疼痛の再発予防のためには抗うつ薬を一生飲むべきでしょうか


Q: 現在アメリカでうつ病と慢性疼痛の治療を受けている38歳の女性です。
使用している薬は、パロキセチンですが、主治医から、この薬は私の場合、維持療法のために、低用量に落としても、一生飲むべきだ、と指導されています。

病気の経過をお話します。

6年ほど前に、ある事故で頚椎から胸椎にかけて捻挫し、その後遺症で、頚椎5,6番が軽いヘルニアになって、側湾してしまい、顎関節も損傷してしまいました。かなりの大怪我なので、痛みやしびれはなかなかとれず、つらい何年かをすごしていましたが、整形外科では通いつめてもあまり相手にされず大騒ぎする患者として精神的に苦しい毎日を過ごしておりました。

その痛みの中で、3年前に主人の海外赴任についてこちらに来たところ、なれない海外生活のストレスからますますひどくなり、満足に日常生活が送れなくなり、こちらのドクターに診断を仰ぎました。

その結果、慢性痛症候群、といわれ、怪我の痛みを、脳内の化学物質の変調で脳が覚えてしまっている状態、痛みや痺れなどは怪我そのものより、脳の異常から来る、ひとことで言えばあなたはうつ病です、といわれて治療が始まりました。

治療はパロキセチン20ミリグラムから始められ、日本にいたころ飲んでいた抗不安剤や、筋弛緩剤、睡眠薬の類は、ドクターの指導でどんどん整理され、最終的にパロキセチンのみを40ミリグラムに増量したところで、薄皮をはぐように痛みや痺れは取れていき、精神的にも、苦しみから解放され、1年ほどの治療で、快適な日常生活が戻ってきて、好きだったテニスを始めて試合に出られるほどになりました。

その後パロキセチンは40ミリグラムから、30,25,20,10と非常に少しずつ減量して、6ヶ月ほど前に完全に一度断つことが出来ました。その後5ヶ月間、まったく薬はなしに、健康な毎日を過ごしていました。治療を始めてから2年半ほどのことでした。

体調もよく、まったく病気を忘れておりましたが、一ヶ月ほど前に、ほんの些細な心理的ストレスで早朝覚醒が始まり、また足がしびれる、足から力が抜ける、気分がすぐれない、首が思い、などの軽い痛み、しびれやうつ病症状が始まり、再発したらしい、との診断でまたパロキセチンを20ミリから治療をはじめています。

それから2週間ほどたちましたが、まだ効果がでないので、30ミリグラムに増量して様子を見ていくか、まだトライしていないSNRIを試してみて、私に合えばそれにシフトしていってもいい、といわれています。

ところで、こちらのドクターの判断では、

(1) 私はうつ病のきっかけになった、頚椎や顎関節の異常が完全になくなったわけではなく、いまだに抱えていること。

(2) 長い間、うつ病と診断されず、必要な治療を受けずに、相当ひどい状態になってから治療をはじめたことで、脳がなんらかの器質的変化を起こしてしまっていることも考えられなくはないこと。

(3) また再発の可能性は否定できないこと。

(4) 薬剤が体にあっていて、飲んでいるメリットが大きいこと。

などから、
また今度、よくなってからも、10ミリグラムから20ミリグラムほどの低用量ですむものなら、抗うつ剤は一生続ける覚悟でいたらどうか、 大怪我の後遺症なのだから、自分の病気を受け入れて、ずっと薬をのむメリットを、再発のデメリットとはかりにかけて、プラスに考えてみなさい、と指導されました。

満足に歩けないほどの苦しみから、わずかな期間で健康体にしてくれた主治医ですので、信頼しています。

意見を聞いて、一生飲んでもいいか、とも思っているのですが、特にパロキセチンは薬価も高く、減薬が難しいという情報もあり、また、まだ新しいSSRIやSNRIを飲み続けることには一抹の不安もあります。コミュニケーションが英語なので、日本語でセカンドオピニオンがほしい、という気持ちもあります。

抗うつ剤を低用量、一生飲み続ける人は、私のほかにもいるのでしょうか。
そしてそれは、本当に効果があることなのでしょうか。
害は本当にないのでしょうか。

林先生が私の主治医なら、やはり同じようにご指導なさいますか?


: 私なら、同じように指導すると思います。ただしそれは、「一生のみ続けることで害がない」という意味ではありません。害は、あるかもしれません。ないかもしれません。害があった場合のデメリットと、飲み続けることのメリットをご自分でよくお考えになって、どうするかをお決めください。

といっても、その判断が難しいからこそ質問のメールを出されたという事情はよくわかります。けれども、おそらくどんな医師が見ても、アドバイスとして言えることは、あなたのメールに書かれている主治医の先生のアドバイスにすでに言い尽くされていると思います。メールの中の(1)から(4)は、すべて全くその通りです。

抗うつ剤を低用量、一生飲み続ける人は、私のほかにもいるのでしょうか。

たくさんいらっしゃいます。

そしてそれは、本当に効果があることなのでしょうか。

効果があることは証明されています。
 ただし、ここでいう「低用量」がどの程度かは問題ではあります。再発防止のためには、治療の時の量と同じ量が必要であるというデータが多いです。治療量が低用量なら、再発防止も低用量でいいことは確かです。治療量より少ない量で本当に効果があるかどうかは、実はよくわかっていません。もっとも、それは全体としてはわかっていないということで、ひとりひとりの患者さんでいえば、治療量より少ない量で効果がある方もいらっしゃると思います。

害は本当にないのでしょうか。

それはわかりません。あるかもしれませんし、ないかもしれません。あなたが危惧されているように、SSRIやSNRIはまだ新しい薬ですので、長期服用が本当に安全かどうかは、まだ誰にもわからないのです。

林先生が私の主治医なら、やはり同じようにご指導なさいますか?

回答の最初に言ったとおり、結論としては同じような方針をとると思います。

 

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