精神科Q&A
【1134】当初は憂うつ感が強かったのですが、今はイライラするばかりです。うつ病でしょうか、躁うつ病でしょうか。
Q: 35歳独身男性です。
最近の病状に対する主治医の処方及び見解について疑問点があり、先生の御所見をお伺いできれば幸いです。
その前に現在に至った経緯を概略ではありますが説明させていただきます。
X年度 当時の職場の上司と考え方が合わず徹底的に怒鳴られ説教されること多し(上司曰く「他意はない」とのこと)。
そのせいか一日憂うつ感を抱える、自己評価の低下などを自覚する。
X+1年度 転勤で別の部署に代わる。
新組織の立ち上げで苦労し、上司から面前で罵倒される、説教されること多し。前の年からの憂うつ感が抜けないため産業医に相談した所、精神科受診を薦められ、地元の医療センター神経科を受診する(9月)。受診の結果は「軽いうつ」。
当時の標準的な処方
トレドミン25mg 朝×1
ワイパックス0.5mg 朝×1
ユリノーム25mg 朝×1(高尿酸血症予防のため)
デジレル25mg 就寝前×1
サイレース1mg 就寝前×1
この状態でX+2年一杯まで受診し、「寛解した」として様子見となりました。
X+3年度 組織替えで上司が交代し、人間関係が上手くいかなくなったことをきっかけにして再発。
同時に頭痛を併発したため再度同じ医療機関を受診。処方は基本的に前回から変更はなし。ただし、冬以降気分の落ち込みが激しくなったためトレドミン及びワイパックス25mgを毎食後1錠ずつに変更。
3月主治医が交替。
交代時に病名を確認したところ「気分障害」との説明を受ける。
X+4年度 4月はレジデントが担当し、「薬の軽減時期」が来たとしてサイレースを止め、代わりにアナフラニール25mg×1を夕食後に飲むよう処方される。
5月から現在の主治医が担当するが、5月に毎食後のトレドミン25mgを夕食後1錠に変更。考え方は薬の軽減が必要とのこと。
と、ここまでは気分が沈む、自信がない、自殺を考え、死に場所や方法を考えるという状況にありましたが、変化が生じます。
まず発生したのが「気分のイライラ」。
何かあるとすぐイライラし、テレビや同居している両親に向かって暴言を吐く、気に入らないと壁などを蹴飛ばすといった症状が発生しました。
この点について主治医に相談したところ、8月から次の処方に変わりました。
ワイパックス0.5mg×3(毎食後)
リーマス100mg×3(同上)
トレドミン25mg×1(夕食後)
アナフラニール25mg×1(夕食後)
ユリノーム25mg×1(朝食後)
しかし、イライラは収まらず、しかも睡眠不足ないし不規則な睡眠状態となりました。具体的にはテレビのスイッチを入れたまま寝入ってしまい、2時ぐらいに尿意を覚えて起床、再度就寝しても4時過ぎには目が覚める。
もしくはベッドで就寝したとしても途中で目が覚めて起床、3時過ぎに再就寝する状態が続きました。
8月の処方結果が必ずしも良くないことを主治医に伝えたところ、今度(9月)は次の処方に変わりました。
ワイパックス0.5mg×3(毎食後)
リーマス100mg×3(同上)
トレドミン25mg×1(夕食後)
セタプラン5mg×1(同上)
レボトミン5mg×1(同上)
ユリノーム25mg×1(朝食後)
しかし、この処方を以てしてもイライラが収まるところかますます悪化し、トゲトゲしい発言から家族との衝突が絶えない状況になってしまいました。しかも睡眠に対して十分な満足感が得られていない状況に変わりもありません。
主治医曰く「うつから躁に入った」とのこと。
これらの状況を踏まえ、次の定例診断で次のことを主治医に話しました。
・イライラが収まらない。お陰で家族とのケンカは絶えない。家族からは薬の服用を止めるように言われている。
しかし、家族自体に精神疾患への理解はないと自分は考えており、双方の相違が衝突を煽っている。逆に憂うつ感は比較的収まっている。睡眠が不十分な状況にも変化はない。
・初回受診から4年になるが、気分が改善された兆候もない。うつがイライラに変わっただけ。
・そんな気分を抱えて生きていくのにはもう耐えられる状況ではない。
憂うつさに耐えかねるのもイライラから来る暴言で回りに及ぼす迷惑も結局は自分の存在価値を無にすることに繋がる。従って自殺も選択肢に入れざるを得ない。
・とにかくどの程度で元の状態に復帰することが可能か。
これらに対する主治医の回答は次のようなものでした。
・「うつ病」ではなく「躁うつ病」。
・「うつ病のうつ」と「躁うつ病の躁」が混合状態になっている。
・ 現在は薬のマッチングを見ている状態であり。時間はかかる。
・ 年齢的に「焦る」所にあり、それがイライラに拍車をかけている。
これらの発言を踏まえ、出された処方(10月)は次のようなものでした。
ワイパックス0.5mg×3(毎食後)
リーマス100mg×3(同上)
ウインタミン細粒10%(同上)
トレミン散10%(同上)
コントール散1%(同上)
ユリノーム25mg×1(朝食後)
トレドミン25mg×1(夕食後)
セダプランコーワ5mg(夕食後)
リーマス100mg×1(就寝時)
ロドピン細粒10%(同上)
ブロバリン1包(同上)
デパス細粒1%(同上)
・・・・結果として種類は増え、効果はどうなるか未知数です。
ちなみに全て外来で対応してもらっており、入院経験はありません。
ここまで長々と書いて参りましたが、先生にお尋ねしたいのは次の点です。
1. 現状はうつ病と考えれば良いのか。もしくは躁うつ病なのか。あるいはこれらの病気ではなく人格障害系を疑った方が良いのか。
2. 10月の処方は適正と考えれば良いのか。毎月のように処方が目まぐるしく変わるため主治医に対して不信感を持たざるを得ない要素が増えている。
3. この種のうつ病(躁うつ病)に電気けいれん療法は効果があるのか。前の主治医に相談したときは「そこまでやる必要はない」という見解でしたが、劇的な回復が見込めるなら賭ける余地はあると考えています。
4. 薬物療法だけで回復の目処はあるのか。4年間受診を続けていますが、状況が好転していないので精神医療そのものに不信を抱くようになっています。これなら自殺を選ぶのも無理はないような気もしています。
林:
1. 現状はうつ病と考えれば良いのか。もしくは躁うつ病なのか。あるいはこれらの病気ではなく人格障害系を疑った方が良いのか。
わかりません。しかし、主治医の診断を尊重すべきでしょう。
気分が沈む、自信がない、自殺を考え、死に場所や方法を考える
というあなたの症状からは、うつ病のようでもありますが、上司からの説教などとの時間的関係がかなりはっきりしている点からは、病的というよりも正常な反応の範囲であるようでもあります。しかしここまではどちらかというとうつ病のようですが、問題はその後です。
何かあるとすぐイライラし、テレビや同居している両親に向かって暴言を吐く、気に入らないと壁などを蹴飛ばすといった症状が発生しました。
この症状をはじめとするイライラの記載は、もしここに書かれているとおりだとすると、躁状態とは思えません。むしろうつ病に伴うイライラ、あるいは抗うつ薬の副作用としてのイライラに近いように見えます。けれども精神科医が躁状態と診断しているということは、このメールの記載からは読み取れない何らかの症状があなたにあったのかもしれません。だとすると、メールの情報からだけではうつ病か躁うつ病かの判断は無理ということになります。
2. 10月の処方は適正と考えれば良いのか。毎月のように処方が目まぐるしく変わるため主治医に対して不信感を持たざるを得ない要素が増えている。
10月の処方は奇妙であると言わざるを得ません。理由はいくつもあります。抗精神病薬がウイタミン、ロドピンと2種類出させている意味がわかりません。抗不安薬も、コントール、デパス、ワイパックスと3種類出されていますが、その意味もわかりません。躁状態が続いていると判断しているのにもかかわらず抗うつ薬のトレドミンが、それも25mgという中途半端な量が出されていることの意味もわかりません。それからリチウムの血中濃度は測定されているのでしょうか。9月から10月にかけて300mgから400mgに増やされていますが、血中濃度が測定されてないとすれば、この処方変更には根拠がありません。(なお、「10%細粒」などと記されている薬に関しては、量が不明ですので適正かどうかわかりません)
3. この種のうつ病(躁うつ病)に電気けいれん療法は効果があるのか。前の主治医に相談したときは「そこまでやる必要はない」という見解でしたが、劇的な回復が見込めるなら賭ける余地はあると考えています。
電気けいれん療法の効果は期待できないことはありませんが、まず適切な薬物療法を受けることが先決だと思います。今あなたか受けておられるような薬物療法では、治るものも治らないでしょう。
4. 薬物療法だけで回復の目処はあるのか。4年間受診を続けていますが、状況が好転していないので精神医療そのものに不信を抱くようになっています。これなら自殺を選ぶのも無理はないような気もしています。
繰り返しになりますが、適切な薬物療法を受ければ回復は十分期待できます。今のままでは難しいでしょう。