精神科Q&A
【1109】うつ病治療中の重大な決断はやはりさけるべきなのでしょうか
Q: 30代後半女性です。
【0506】判断力の低下も、うつ病の症状でしょうか
【0604】うつ病の回復に家族の理解が得られません
【0706】うつ病はよくなってきたのですがアルコールの量が増えています
でお世話になりました。
適切なアドバイスをいただき、治療も効果が出て、前は一桁の足し算すら出来なかった集中力のなさや浴びるほど飲んでいたアルコールの量も減り多少好不調の波はありますが回復傾向にあるといえます。
10ヶ月前、薬をしばらく飲み忘れていたところ、抗うつ剤は効果が現れるまでに一ヶ月はかかるのでということで安定剤レスミット5毎食後1錠、頓服としてセパゾンを20回分(2週間分)睡眠薬としてラボナを1錠頂いておりました。
その1月後、パートの割には責任が重くなってきて不眠の症状がきつくなってきました。
そこでレスミットとセパゾンは従来どおり、寝る前にエリミン5を1錠、デゾラム1を3錠、 ベンザリン5を1錠いただき眠れるようにはなりました。
その時点ではやはり集中力、判断力の低下、いらつきなどの症状はありました。
でも一桁の計算すら出来なかったころに比べると少しは集中力も判断力も回復し、いらいらしていても仕事が忙しすぎるからだと回りには思われていました。 (というのはファミレスのホールとキッチンを兼務し更にマネージャー代行などほぼ社員並みに働いていたからです)
もともと昔から仕事はどんな業種でも出来るほうでしたので働くことは好きです。
でも不調の波が来たときには責任の重さに不眠などの症状が出ておりました。
さらに1ヶ月後、勤務していた店舗が閉店となり近隣店舗に異動することになりました。
今まで深夜勤務できたが生活のリズムを正しく変えようと昼間フルタイムで働くことにしました。 幸い新しい店舗では快く受入れてくださり昼に動いて太陽の光を浴び、夜に寝るという規則正しい生活を心がけていました。
相変わらず、ホールにキッチン兼務にマネージャー代行と責任の重さはあまり変わりませんでしたが・・・。
3ヶ月前に疲労が蓄積したのかと思われますがまた眠ることが出来なくなり、ふらつきなどの症状が出たらすぐに増やす睡眠薬をやめてくださいという指示のもと(車で通勤していたものですから)エリミンのかわりにフルニトラゼパム2を2錠、デゾラム1を3錠、ベンザリン5を2錠寝る前に飲むようになりました。
先月になって私のうつのことを知っている店長は変わりなく上司でいるのですがその下の社員が異動となり20代の女性がやってきました。
いわゆる「マニュアル女」という感じで人の話をよく聞きながら長所を伸ばしていこうという店長のおもいとは裏腹にとにかく怒鳴りまくって次から次へと指示ではなく命令にきこえる指示を出しまくり、アルバイトの学生たちと衝突し店内が異様な、いる事すら辛く重くてとても殺伐とした雰囲気となりました。
アルバイトの子達は私に「(女性社員を)ぶっ殺したいほどうっとおしい」と訴え私自身も命令に聞こえる指示におびえるようになりました。
店長をして、「あんな○○(私のこと)さんを見たことがない」と言わしめたくらいです。
そして3週間くらい過ぎたあたりから不調の波が来て薬を飲んでもなかなか効かなくなり、朝の3時4時前に目が覚めてしまい眠ることが出来なくなってきました。
次の日が仕事でない日は薬がなくても眠たくなってたまに夜中に目は覚めたりしますが、きちんと朝まで眠れるのです。
原因は女性社員の言動とアルバイトの言葉を聞き過ぎて自分の中で処理が出来なくなってしまったこと以外にないと断言できます。
その数日後に仕事でいつもならありえないミスを連発し店長に呼び出され、叱責はなかったのですが(病気のことを知っていたからかもしれませんが)私はみっともないぐらい泣きじゃくりながら現状に耐えられないことを訴えました。ミスをして店長に申し訳ないのと自分で消化しきれない現状にSOSを出したのです。
「ミーティングを続けて必ず現状は解決するから」という言葉を店長からいただきましたがすぐに解決するわけではないことくらいはわかりますし相変わらずアルバイトの子達は 私に不満を訴えるという現状が続きました。
このころは全く薬が効かず勝手に薬を増やしフルニトラゼパムは2錠のままでしたがデゾラム6錠、ベンザリン4錠、残っていたラボナ4錠もしくはエリミン4錠を飲みましたが 結局次の日仕事がある日は2,3時間の睡眠がやっとで睡眠不足のまま仕事を続けていました。
数日後、あまりの不調さに主治医に相談に行き(その日は仕事は休みなので薬なしで眠れました) 明日の仕事がまたミスをするのではないか、ほとんど眠れない日が続いていると相談しました。
薬の減量時の大変さを前々からいってもらっているので自分でも薬は増やされることはないなあとはわかっていましたが、できるだけ聞き流すようにすること、できるだけトラブルに立ち入らないようにとアドバイスを受けました。
翌日もやはり3時前に目が覚めました。もうどうやっても眠れないので洗濯をしたり自分と子供のお弁当を作ったりして朝を待って出勤しました。
そして店長にはかなり不眠が続いており症状が不調であるのでまた先週のようなミスを一度でも犯したら迷惑を掛けてしまうだけなので仕事をあがるように指示してほしいと今の症状の辛さと共に便箋2枚にわたって切々と書き綴ったものを渡しました。
何とか忙しかったものの先週よりは忙しくなく何とかミスもなく予定の仕事終了時間を終えすぐに仕事を終えて着替えて車に乗り込み帰りました。
そして事故を起こしてしまいました。
気がついたら下りの直線で電柱に衝突して車左前方を大破させてしまっていたのです。私は意識はしっかりしていたものの車の破損状況があまりにもひどく救急車で運ばれました。 いわゆる不眠からくる寝不足による居眠り運転です。ほんの電柱2本前まではちゃんと覚えていました。そこから、衝突してエアバックが開き事故を起こしたことに気がつくまでほんの数秒間の記憶が全くありません。
幸い軽いムチウチと衝突の衝撃によるシートベルトの胸部圧迫による擦り傷程度で済みました。 もしこれが左側の電柱ではなく右側対向車線にはみ出していたら対向車がなかったとしてもガードレールの向こうは谷になっておりますのでこうやって生きていなかったかもしれません。
通勤中の事故ですので労災はおりますし今は神様がくれた休養と思い怪我の回復に努めております。
しかし怪我が治ったときまたあの職場へ行かないといけないと思うと不安で不安で仕方なく主治医のところに行き事故の事を報告し怪我が治ってもこの不安材料を抱えたまま仕事復帰は出来ない怖くてたまらないと訴えました。
今は休業中ですので眠れるのですが復帰のことを考えると怖くて仕方ないんです。
こんなままで仕事に行ってまた同じことになったら・・・
うつのときに重大な決断をしてはならないのは充分にわかっています。でもここまで不安材料を抱え命の危険まで感じたのにもかかわらず主治医は転職するということを考えるのはやめましょうといいます。
今は普通にいられますし家事などにも影響はありません。車の運転にも恐怖を感じません。
でも仕事の復帰を考えた瞬間に手が震え、心臓がバクバクとなり恐怖心でいっぱいになります。
こんな状態でも転職という決断は避けるべきなのでしょうか?
林: まず休む。今は休業中とのことですので、とにかく今は休む。転職するとかしないとかは考えず休み、うつ病がもっと回復したら、その時点ではじめて転職について検討する。これが最善です。
ただし、これは一般論です。
なぜこのような一般論があるのでしょうか。それは、うつ病の時は、判断力も低下していることが多いからです。(奇しくもあなたの最初のご質問が【0506】判断力の低下も、うつ病の症状でしょうか でした)
判断力が低下している時に、転職などの重大な決定をしてしまうと、治ってから後悔することが多い、それが、この一般論の背景にあります。
もうひとつ、特に転職に関しては、「うつ病になったのは仕事のストレスが原因、したがって仕事を変えれば治るはず」という誤った考えを、うつ病の時には持ちやすいということもあります。いま「誤った考え」と言いましたが、多くの方がこの誤った考えを持っておられます。仕事のストレスは、確かにうつ病の発症に関係はしていても、はっきりと原因とまでいえることはなかなかないものです。ですから、仕事の要因だけを取り除いても、それだけではうつ病は治らないのが普通です。逆に、それだけで治るようですと、元々うつ病ではなく擬態うつ病であった可能性の方が高いといえます。
この【1109】のケースに戻ります。
このケースは、上の一般論があてはまらない点があります。
それは、いったん回復傾向になってから、仕事のストレス(それも、普通は無いようなストレス)で再発したという点です。
このような経過では、仕事とうつ病の因果関係がかなり強いといえます。
だとすると、たとえよくなって復職しても、職場の状況が変わらない限り、また再発するおそれは強いと考えられます。したがって、転職を考えてもいいということになります。
もうひとつ、そもそもあなたにとって、この仕事がどこまで大切なものかということも考える必要があります。パートであるとのことですが、あなた自身はどのようにお考えなのでしょうか。もちろんパートであっても非常に重要ということもあるとは思いますが、実際はどうなのか。それによっても判断は違ってきます。それほど大切ではないとお考えであれば、うつ病を早く治すために辞めるという選択肢が当然あるでしょう。
以上のように、このケースでは転職を考えてもいいと思います。
もっとも、最善の方法は冒頭にお書きしたように、まずは転職のことは棚上げにして、休んで回復を目指すことではあります。転職を考えるのはそのあとでもいいでしょう。ただし、その職場に籍がある限り、どうしても気になって回復の妨げになるようであれば、今の時点で退職を考えてもいいと思います。