精神科Q&A
【1053】肺癌の手術後、夜になると異常な言動が出るようになりました
Q: 69歳の男性の親族です。
某日、肺癌の手術を行いました。その後、夜間(0:00以降)になると、大声で怒鳴り出したり、徘徊したりの毎日です。
静止しようとする看護師に、殴りかかったり、点滴の針を引き抜いたり……
現在では、精神安定剤・睡眠補助剤も効果がなく、病院としても困っているようです。(家族の者も皆、介護に疲れて体調を崩しています。)
どうしたらいいのでしょうか。
林: これは典型的な術後せん妄です。せん妄については、【0847】、【0192】などをご参照ください。高齢者の方の手術、特に比較的大きな手術後には、せん妄が起こりやすいものです。特にこの【1053】のように、夜間だけ症状が出るというのが典型的です。
せん妄は、原因が取り除かれれば、あとは日数がたてば自然におさまります。
術後せん妄では、手術による身体(脳を含む)への影響が原因ですから、いくら激しい症状であっても、数日、長くても1,2週間でおさまるのが普通です。
ただしそのためには、体の状態が良好に保たれていることが条件です。
この場合の「状態」とは、体液のバランス、栄養、その他、非常に多くの因子を含みます。これは主治医の先生におまかせする以外ないところです。
それから、せん妄がおさまるまでの間、危険がない状態を保つことも必要な対応です。具体的には、【1053】では、暴力などの行為があるようですので、自身が怪我をしないための注意、さらには周囲に危害を加えないための注意が必要です。
そのためにはベッドに拘束することもやむを得ないでしょう。
いかなる場合も拘束を嫌い、拘束することは医療に反するようなことを言う人もいますが、それは現実を理解していない人の言うきれいごとにすぎません。この【1053】のようなケースではどうしても考慮しなければならない対応法で、おそらく最善の方法のひとつでしょう。
また、薬物療法も必要です。
せん妄に対する薬物療法は、鎮静により危険を最小限にするという意味と、せん妄そのものを治療するという意味の両方があります。
ただし、せん妄の際の薬の使い方はなかなか難しく、【0192】のように、薬がかえって症状を悪化させることもあります。
この【1053】では、
現在では、精神安定剤・睡眠補助剤も効果がなく、
と書かれていますが、はたして本当に薬物治療では対応しきれない症状なのか、適切な薬物療法が行われていないのかは不明です。しかし入院中の投薬内容の詳細までご家族が把握することは無理ですし非現実的なので、これも主治医の先生におまかせする以外ないでしょう。(私の経験から申し上げますと、術後せん妄が起きた場合、残念ながら主治医の外科の先生だけでは、精神症状の専門家ではないこともあって、薬物療法はなかなか難しいことが多いようです。併診という形で精神科医が診療するのが望まれるところです)
なお、せん妄は、薬を使わなくても、環境を良くすることで鮮やかに改善することもあります。たとえば、病院では激しいせん妄状態でも、住み慣れた家に帰ると途端に良くなることがあります。また、夜間のみに症状が出る場合は、夜も電灯を消さずに明るさを保つことに効果がある場合もあります。