精神科Q&A
【1033】失った自信が戻らず、抗うつ薬の必要量も増えてきています
Q:
私は39歳の男性です。3つ年下の妻と5歳の一人息子がおります。
現在、うつ病の薬物治療を受けています。発病から1年と少しが経過しました。
以下、うまくまとめる事が出来ず超長文になりますが、まず時系列で経過を書かせていただきます。お読みになって頂けるよう願っています。
私は中堅製造業に勤めており、いちエンジニアとして比較的順風満帆な会社生活を送ってきました。自分自身の事を、割と有能な人間だと自負していたようにも思います。そんな私が自らの精神状態がおかしいと自覚し始めたのは、1年半程前に管理職に昇進して、その後一つのプロジェクトのリーダーに抜擢されてから1、2ヶ月が過ぎた頃(8ヶ月前)でした。
元々の気質(引込思案で内向的で上がり症)と、これまで部下を持った経験が無かった事もあり、チームのリーダーシップを取ることが出来ず、上からも下からもプレッシャーを受け、もがき苦しんでいました。次第に判断力も落ち、考えもまとまらなくなり、大ポカが増えてきました。チームの皆が、自分の事を悪く言っていると思うようになり、勝手にどんどん孤立し、その頃から会社で涙ぐむようになりました。早朝覚醒の自覚症状も出てきました。このため、会社の診療所に週一回派遣されているメンタルヘルス相談を、自分の意思で受診する事にしました。受診を決めてから、上司にその旨報告し、自分の精神状態が良くない事を打ち明けました。
初回の受診にて、恐らく昇進うつだろうと診断を受けました。主治医から、「カウンセリングを希望しますか」と問われましたが、私は泣きながら「わかりません。どうすれば良いでしょうか」と答えた記憶があります。その時点では、薬物治療とカウンセリングの違いすら分かっていませんでした。主治医はカウンセリングは行っておらず、会社にはカウンセラーは派遣されておらず、薬物治療のみ受ける事になりました。当初は、デプロメールが処方されました。量は忘れましたが、最初は少量で、2週間後に増量、といった感じで、3ヶ月位の間に主治医が最大量と言う量まで増やしたような記憶があります。その間、多少気分が持ち直す時があるような気がすると主治医に伝えていたため、デプロメールで治療し続けていました。ただ、今にして思えば、単に業務の負荷を減らしてもらって少し楽になっただけで、うつ病が良くなったのではありませんでした。睡眠障害については、当初レンドルミンが処方されました。
デプロメールを飲み続けている間、実際に状態が良くなっていっているのか、自分でも良く分かっていませんでした。気分はなかなか晴れず毎朝会社に行くのがつらく、そしてある朝、出勤前に子供がベッドの上でじゃれてついて来て、抱きあったままベッドに倒れこんだ時、プツっと堰を切ったように泣き崩れて、暫く泣き止む事が出来なくなりました。
妻は心配して、その日会社を休むよう言ってくれました。それ以来、有給休暇を使い数日休んで、もう大丈夫かなと思い出社すると、周りを憚らずまた泣き崩れるという事を繰り返し、その後2ヶ月は殆ど会社に行く事が出来ない状態でした。メンタルヘルスを受けるために、2週間に一度のペースで、会社の診療所だけには通い続けました。
デプロメールを十分な量と期間服用し、明確な改善が認められなかったため、別の薬を試してみましょうという方針になりました。まず、デプロメールを据え置いて、アモキサンを上乗せする処方に変更になりました。
アモキサンは、当初10mgを朝と夜の2回の処方でした。デプロメールは段階的に無くしていきました。アモキサンを服用してからは、自分でも今度ははっきりと効いているという実感がありました。会社にもなんとか復帰出来る状態になりました。
アモキサンを服用当初、脹脛のムズムズと手の震えなどに悩まされました。主治医にその苦痛を訴えた所、ピレチアが追加で処方されるようになり、程なくその症状は消失しました。副作用の頑固な便秘は、以後現在までに渡り悩みの種になっていますが、市販の下剤で何とかこらえて対処しています。
その後、アモキサンを25mg朝と夜に増量し、初夏から秋口にかけて、気分はとても良く安定していました。職場のほうは、私が休んでいる間に、私の何倍も有能なマネージャーが2名と主任がチームに増員され、5月に復職した後、以前の私の役割は方々に分散してもらっており、私はただ会社に行けば良いだけと言っても過言ではない位、配慮してもらっていました。
そうして調子の良かった昨年の夏頃は、暫く連絡を取っていなかった友人に急に連絡をとり始めたり、コンサートに行って楽しんだりも出来るようになっていました。
ただ、収入が減ったため、車を維持出来なくなり処分しましたが、その時は暫く大切な思い出を失った悲しみと、家族に不憫な思いをさせてしまっている事で、一時的に落ち込んだ時期も少しありました。車を処分したつらさを何らかの形で合理化するために、息子が幼稚園に通い始めたのを契機に、僅かながら学資保険に加入しようとしましたが、数社あたっていずれもうつ病を理由に断られました。その事に対し、執拗にクレームを付けていた時期もありました。今思えば、おかしな方向に躁転していたのかも知れません。
その後昨年の終わり頃まで、有給休暇を一日も取らず、早朝覚醒のため早朝に出社して、ちっぽけな雑務をやっつけて定時に帰るという、とても恵まれた生活を送りました。
睡眠障害はずっと続いており、睡眠薬は途中でロヒプノール2mgに変更になりましたが、現在も一向に改善していません。
そうこうしているうちに年末近くになると、さすがにこのままでは職場での立場が悪くなると思い始め、ある日積極的に仕事に取り組んでみようと決心し、上司にもその旨宣言しました。私が会社で殆ど仕事をしていないと言った事に対し、主治医から何気なく「それじゃあちょっと寂しくないですか?」と言われた事も、きっかけになっています。その一言を、自分が怠けているものと勝手に解釈してしまいました。自信が戻らない事に対し、主治医はアモキサンの増量を薦めてくれましたが、便秘がつらいのを理由に私は断ってしまいました。自信は無いけど良くなっているはずだ、と自分に言い聞かせ、土日も出社するなど、一気にペースを上げ過ぎ、結局また調子を崩し始めました。
家族を残して自殺を図るなどという考えは、絶対にしてはならない事だと論理的に抑制しているつもりでしたが、一方でとにかく早く楽になりたいと漠然と考えるようになり、目の前を行き交う車の列にふわりと飛び込んだら楽になるのかな、と気が付いたら考えていた事もありました。
主治医に再び不調になってきたと伝えると、頑張って仕事をするにはまだ早かったようだと言われ、アモキサンが(25+10)mg朝と夜に増量になりました。その際主治医は、これでもまだ増量の余地がある処方だと仰っていました。そして、薬物治療は恐らく2〜3年は続ける事になるだろうとも仰るようになりました。
私が勝手に焦って病状を悪くしてしまったため、一度上司同席での診察が持たれ、極端にペースを上げ過ぎないよう指導を受けました。私は、薬を増量する旨主治医から言い渡され、上司の同席を求められた時、絶望を感じて泣き出してしまいました。
しかし、アモキサンの増量により、気分はまた少し持ち直し始めました。その後昨年末までは、小康状態を保っていました。12月初旬には、取得していなかった夏休みの振り替えで休暇を取り、故郷に帰省しました。両親には、私のうつ病の事は一切伏せていますが、帰省中に調子を崩すことも無く、無事バレずに帰って来る事も出来ました。
ところが、年が明けてから、また調子が悪い日が増えて来ました。仕事の役割にまたリーダー的な要素が入ってきたせいかも知れません。また、私の病気の事は、一部の上司にのみ伝えてあり、チームのメンバーには建前上は伝えていないのですが、段々私がろくに仕事をしない事に対し、周囲の目が冷たくなってきたと感じてきました。ただの思い過ごしかも知れませんが、私としてはまた段々居心地の悪い状態になってきたのです。それ以降、また会社で悲しい気分になる事も増え、とにかく家族と離れている事が寂しく涙ぐんでしまう日が出てきました。ホームシックの様な感覚です。特に、休日明けに、悲しい気分になり会社で泣いてしまう事が多い状況でした。週末大いに楽しんだ場合は、その反動で会社にいる間寂しさがつのり、また週末を有意義に過ごせなかった場合には、そうなってしまった事を後悔し、といった感じで悪い方にばかり気が向いてしまいます。PCの壁紙で子供の顔を見ると、家族と一緒にいられない事が余計つらく思えて、涙ぐんだりしてしまうのです。
1月の受診の際、主治医からは、調子の波がまだ落ち着かないというのは、経過として長引き過ぎだと言われました。今度は迷わずアモキサンの増量を受け入れました。(25+25)mg朝と夜に変更です。主治医によると、少ない量で無理をして治療を続ける事は好ましくないとの事でした。そして、この量もまだ増量の余地を残しており、人によっては300mgまで処方する事もあるとの事でした。また、それでも効果が無い場合は、「補助療法」と言い別の薬を追加で被せる治療方法もある、とフローチャートのような物を見せて説明してくれました。
その後も、気分は一進一退と言った感じで、相変わらず仕事に対する自信や意欲は無く、日によっては会社で悲しい気分になり、泣いてしまう事もまだありました。
このため、2月中旬の受診の際に、更にアモキサンが増量され、(25x3)mg朝と夜
に服用になりました。そして、主治医からまとまった休息をとった方が良いと言われたのに対し、私は休むと周囲からどんな風に思われるかとか、収入がまた減るとか、そういった事ばかり気になり、踏ん切りがつかず有耶無耶な態度をとりました。また、希死念慮について問われ、私が答えられず涙を流したのを受けてか、次回受診の際には妻を同席させるよう指示されました。一般の精神科ならば家族を同席させる事は良くある事かも知れませんが、社内の診療所に家族を連れて行くのは極めて異例な事です。
アモキサンの増量に対しては、幸いにも副作用に体が大分慣れてきたためか、特につらくなる事はなく、気分も多少は上向いた気もしました。しかし、まだ時たま、ふっと悲しみの底なし沼に落込む事もありました。
一週間後、妻同席での受診で、主治医は家族の視点で普段私がどんな状態にあるか聞き、その上でやはり休んでみるべきだと強調されました。妻も同意見で、私は押し切られるような形で急遽2月末まで一週間休暇を取る事になりました。受診後まず上司に報告しましたが、上司は急な休職にも快く応じてくれました。そうして、その翌日から2月末まで一週間、自宅で療養しました。療養中は、本当に「何もしない」を実践しました。しかし、休みの前半はただ退屈に過ぎ、休むまでもないかなと思っていましたが、後半になってくると、休みが終わってしまう事が辛く圧し掛かってきて、会社に行きたくないと思うようになっていました。
しかし、どのみち薬が切れるので会社の診療所には行かなければならず、予定通り2月末に診療所には行きました。一週間休んだが、良くなった気がしないと主治医に伝え、アモキサンが更に増量されました。それまでの(25x3)mg朝と夜に加え、就寝前に追加で25mg服用になりました。
一週間振りに会社に行くと、やはりつらく、翌日からまた数日会社を休んでしまいました。しかし、就寝前にアモキサン25mgの追加で、数日たったある日を境に、気分は大分晴れるようになりました。一方で、これまで段階的にアモキサンの量が増えて来ても、副作用は殆ど重くならなかったのに、就寝前のアモキサン25mg追加で副作用は一気に重くなりました。特に顕著なのは、便秘が酷くなったのと口渇と、また脹脛のムズムズが出て来た点です。
このような経過で、年度末を迎えようとしている現在まで、直近の約3週間程度気分が安定した状態が続いていました。私としては、このまま完治まで持って行けそうな希望が、やっと持てるようになってきていました。
ただ、仕事の方はと言えば、発病して以来、実は会社には行くものの上司の配慮に甘えてしまって、私に課せられる仕事は特に無く、ただ席に座ってネットサーフィンをして暇を潰している日が殆どです。私としては、このままもう少し甘えさせてもらい、うつ病を完治したいと目論んでいました。
しかし、さすがに会社もそんなに甘くはありません。私が所属するチームは、私以外は多忙を極めていますが、隣に更に輪をかけて多忙なチームがあり、本日内示が出てこの2つのチームが一つに纏まる事になりました。私もこれから忙しくなりそうで、そう考え始めると、せっかく最近安定していた気分が一気に谷底まで落ち込みました。今はまだ、このチームでバリバリ仕事をこなす自信が、全く持てないのです。
このような経過で、発病から1年と少しが経過しました。
主治医は治療のかなり初期段階で、「抑うつ状態」ではなく「うつ病」と診断を下しています。昨年の4月頃、私が会社を休んでいた時は、入院させる必要があるかも知れないとさえ考えていたと、後日仰っていました。
昨年の夏頃はとても気分が良い状態が続いており、再発防止の為にカウンセリングを受けたいと、自ら主治医に申し出ていましたが、その時はまだ時期ではないでしょうと言われていました。カウンセリングとは、受けると楽になるものだと漠然と考えていました
が、主治医によると、結構へこんでしまう事を言われる事もあるので、もう少し元気になってからの方が良いとの事でした。しかし今は、カウンセリングを受けようという意欲そのものが消えかかっています。
アモキサンを服用して以来、最悪期に比べれば間違い無く快方に向かっていると思いますが、仕事への自信と意欲が回復する事は未だにありません。今でも、最初に私に与えられた役割は、所詮私には無理だったと自分を慰めようと考えていますが、人生で最大の挫折からどうしても立ち直れないのです。最近では、職場が配慮してくれているのに甘えてしまって、現状に慣れっこになって怠けてしまっているようにさえ感じています。主治医は、周りが私の事を怠けていると見るなどとは、考えない方が良いと言いますが...
最悪期は本当に寝たきりの日々でしたが、その後は、休日になると子供と元気に公園等で遊び回る元気があり、普通に趣味を楽しんだりも出来るのです。うつ病の人は思考能力や判断力が鈍るものと良く聞きますが、最近人気の脳を鍛えるゲームでは、私は非常に脳年齢が若く診断される程、頭が冴え渡っているなどという事もしばしばあります。食欲も落ちたと感じる事は無く、むしろ最近少し太ってきた位です。睡眠障害は相変わらずほぼ毎日あり、午前中会社で眠気と戦う事がしばしばあります。最近は、夜中に中途覚醒し、口が渇いて水を飲んでも、翌朝その事を覚えていないという現象まで出て来ました。アルコールは禁忌と理解しており、もともと飲む方でもない為、発病以来断酒を続けていますが、夜中の記憶が飛ぶ事があります。
主治医による現在の処方と所見をまとめますと、
現在の処方は、
アモキサン(25x3)mg朝と夜
加えて、就寝前にアモキサン25mg+ロヒプノール2mg+ピレチア25mgx4錠
所見は、
うつ病であり、一旦は回復しかけたが、再発した。難治性うつという程では無い。
薬物治療を、安定して回復したと思えるまで続ける。今は、薬で持ち上げている状態であると認識し、常に無理をしないよう心がける事。
アモキサンが効いているが、用量的には私の場合は副作用の出方からして、200mg/日位が限度と思われ、これ以上の増量は困難。今後再び悪化するようであれば、リーマスを加える可能性がある。
電気けいれん療法が多分効くタイプだと思われるが、薬物治療を最優先する。
症状が3〜6ヶ月安定する事が確認出来れば、その後薬の減量を検討し、再発防止に向けカウンセリングを行うか、予防的に薬を飲み続ける。
今は、周りから自分が怠けている様に思われていると勘繰りたくなる気持ちは分からないでもないが、そんな事は無いから治療の為には忘れる事。
そして、治療を続ければ「必ず治る」です。
現在掛かっている主治医に、私は信頼を寄せています。妻は、うつ病がなかなか治らないため、別のお医者様に掛かった方が良いのでは、と言いますが、私自身が口下手で、毎回の受診ではいつも気持ちを上手く言えなかったり、言い忘れたりしてしまう事が多く、主治医の診断に悪い影響を及ぼしてしまっているのではないかと思っております。
(当初デプロメールでの治療がズルズル長引いたのは、私の申告が曖昧だったからだと思っていますが、妻は主治医の処方に問題があったのでは?、と言います)
こうして文面に書くと、今まで重ねたメンタルヘルス以上に、自分の気持ちを打ち明けられているような気もします。
以上、長々と経過を書き連ねてしまい繰り返しになりますが、主治医の所見に私は基本的に納得しております。
ただ、あえて林先生にセカンドオピニオンとしてお伺いしたい事は、以下の事柄です。
1)自信と労働意欲が戻らないのは、うつ病が完治していないからでしょうか?
上に書きました通り、昨年の夏頃は本当に気分が良く、その後再発で悪化しましたが最近また気分は持ち直して来ていました。しかし、発病以来、失った自信と仕事への意欲が、戻って来たと感じた事はありません。なお、林先生のお書きになっている「擬態うつ病」を読ませて頂きましたが、私に当てはまるかどうか、正直良く分かりません。
2)アモキサンが効く量が、段階的に増えて来てしまっていますが、そういうものでしょうか? アモキサンを服用し始めた時は、20mg/日の処方で効果を感じましたが、一年近くたった現在では、175mg/日まで増やさないと効き目が出なくなってしまっています。主治医に聞いても、アモキサンに耐性がついてしまうという話は聞いた事がないと仰います。
3)カウンセリングは効果があるでしょうか?
主治医とは、何れ時期が来れば、認知療法を行う事になる可能性が高いという所まで話をしています。ただ先に書いた通り、一時気分の良かった時期には積極的にカウンセリングに臨もうと思っていましたが、現在は億劫であまり受けたいとは思えません。
林先生のご意見を頂戴したく、よろしくお願いいたします。
林: 経過を詳細に書いていただきありがとうございました。これだけ情報をいただけると、私も自信を持って回答できます。その回答は単純明快です。すなわち
「あなたはうつ病です。そしてあなたの主治医の治療は完璧です。この主治医の先生を信頼し、治療を受け続ければ必ず治ります」
以上がすべてです。これ以外、私からあなたにお伝えすべきことはありません。したがって、以下に書くことは、あなたはお読みになる必要はありません。一応はあなたへの回答という形で書きますが、他の読者への説明であると解釈してください。
まず、あなたの経過はうつ病としてかなり典型的です。すなわち、
(1) 会社の環境の大きな変化をきっかけに発症
自らの精神状態がおかしいと自覚し始めたのは、1年半程前に管理職に昇進して、その後一つのプロジェクトのリーダーに抜擢されてから1、2ヶ月が過ぎた頃(8ヶ月前)でした。
元々の気質(引込思案で内向的で上がり症)と、これまで部下を持った経験が無かった事もあり、チームのリーダーシップを取ることが出来ず、上からも下からもプレッシャーを受け、もがき苦しんでいました
このような形での発症はしばしばあります。「昇進うつ病」と呼んでもいいでしょう。
(2) 抗うつ薬による治療開始。
当初は、デプロメールが処方されました。量は忘れましたが、最初は少量で、2週間後に増量、といった感じで、3ヶ月位の間に主治医が最大量と言う量まで増やしたような記憶があります。
SSRIであるデプロメール(ルボックス)を最初に処方するのは、ごく一般的な治療導入です。(もちろん、トフラニールなどの三環系抗うつ薬から始める方法もあります)
(3) 効果不十分のため、他の抗うつ薬に変更
3ヶ月位の間に主治医が最大量と言う量まで増やしたような記憶があります。
デプロメールを十分な量と期間服用し、明確な改善が認められなかったため、別の薬を試してみましょうという方針になりました。
抗うつ薬の量が不十分なためにうつ病が長引いているケースは非常に多いのですが、この【1033】のように、3ヶ月で最大量、そこで効果を判定し(多くの場合は充分な効果が得られるのですが)、効果が不十分なら薬を変えるというのはきわめて適切な治療方針です。
ここでどの薬に変えるのがいいかについては特に定説はなく、主治医の方針によります。アモキサンは適切な薬の一つであると思います。
(4) 変更した抗うつ薬が奏功
アモキサンを服用してからは、自分でも今度ははっきりと効いているという実感がありました。会社にもなんとか復帰出来る状態になりました。
その後、アモキサンを25mg朝と夜に増量し、初夏から秋口にかけて、気分はとても良く安定していました。
デプロメールよりもアモキサンが、あなたには合っていたということがこれでわかります。アモキサンを服用しながら、あせらず回復を目指すのが次の方針になります。もっとも、副作用も出てしまったようですが、
アモキサンを服用当初、脹脛のムズムズと手の震えなどに悩まされました。主治医にその苦痛を訴えた所、ピレチアが追加で処方されるようになり、程なくその症状は消失しました。副作用の頑固な便秘は、以後現在までに渡り悩みの種になっていますが、市販の下剤で何とかこらえて対処しています。
この程度の副作用は、効果のほうを考えれば、やむを得ないとみなすべきでしょう。
(5) 復帰をあせって再燃
自信が戻らない事に対し、主治医はアモキサンの増量を薦めてくれましたが、便秘がつらいのを理由に私は断ってしまいました。自信は無いけど良くなっているはずだ、と自分に言い聞かせ、土日も出社するなど、一気にペースを上げ過ぎ、結局また調子を崩し始めました。あなたのうつ病は典型的な経過とさきほど私は書きました。再燃するのが典型的であるとするのは抵抗があるのですが、現実にはせっかく良好な経過をたどっていても、あなたのように復帰をあせって再燃してしまうケースは多いものです。この過程で、薬の増量を患者さん本人が拒否することでさらに再燃しやすくなってしまうこともしばしばあります。まさにそれにあたるといえます。
(6) 抗うつ薬のさらなる増量に伴い改善
主治医に再び不調になってきたと伝えると、頑張って仕事をするにはまだ早かったようだと言われ、アモキサンが(25+10)mg朝と夜に増量になりました。その際主治医は、これでもまだ増量の余地がある処方だと仰っていました。そして、薬物治療は恐らく2〜3年は続ける事になるだろうとも仰るようになりました。
アモキサンの増量により、気分はまた少し持ち直し始めました。その後昨年末までは、小康状態を保っていました。12月初旬には、取得していなかった夏休みの振り替えで休暇を取り、故郷に帰省しました。両親には、私のうつ病の事は一切伏せていますが、帰省中に調子を崩すことも無く、無事バレずに帰って来る事も出来ました。
このあたりまではかなり良い経過といえます。
(7) 二次的障害と思われるものの出現
うつ病がある程度以上長引くと、二次的障害が出てきます。つまり、休んでいることや、役割が充分に果たせていないことによる障害です。これは、本人がそう思い込んでいるだけのこともあれば、実際に周囲から冷ややかな態度を取られたり、会社であれば閑職に追いやられたりすることもあります。あなたも下のように「ただの思い過ごしかもしれませんが」と書いておられますが、いずれにせよ、長引いてくるとこういう問題が出てきます。だからこそ、早い時期に充分な抗うつ薬で治療し早く回復することが望まれるのです。
ところが、年が明けてから、また調子が悪い日が増えて来ました。仕事の役割にまたリーダー的な要素が入ってきたせいかも知れません。また、私の病気の事は、一部の上司にのみ伝えてあり、チームのメンバーには建前上は伝えていないのですが、段々私がろくに仕事をしない事に対し、周囲の目が冷たくなってきたと感じてきました。ただの思い過ごしかも知れませんが、私としてはまた段々居心地の悪い状態になってきたのです。
(8) 抗うつ薬の増量とともに休養
1月の受診の際、主治医からは、調子の波がまだ落ち着かないというのは、経過として長引き過ぎだと言われました。今度は迷わずアモキサンの増量を受け入れました。(25+25)mg朝と夜に変更です。主治医によると、少ない量で無理をして治療を続ける事は好ましくないとの事でした。
妻同席での受診で、主治医は家族の視点で普段私がどんな状態にあるか聞き、その上でやはり休んでみるべきだと強調されました。妻も同意見で、私は押し切られるような形で急遽2月末まで一週間休暇を取る事になりました。受診後まず上司に報告しましたが、上司は急な休職にも快く応じてくれました。そうして、その翌日から2月末まで一週間、自宅で療養しました。療養中は、本当に「何もしない」を実践しました。
もっと早く休んでもよかったと思われますが、それは結果論かもしれません。
しかし、休みの前半はただ退屈に過ぎ、休むまでもないかなと思っていましたが、後半になってくると、休みが終わってしまう事が辛く圧し掛かってきて、会社に行きたくないと思うようになっていました。
これもよくある経過で、一週間では短すぎたと思います。
(9) 回復に向かう
しかし、どのみち薬が切れるので会社の診療所には行かなければならず、予定通り2月末に診療所には行きました。一週間休んだが、良くなった気がしないと主治医に伝え、アモキサンが更に増量されました。それまでの(25x3)mg朝と夜に加え、就寝前に追加で25mg服用になりました。
このような経過で、年度末を迎えようとしている現在まで、直近の約3週間程度気分が安定した状態が続いていました。私としては、このまま完治まで持って行けそうな希望が、やっと持てるようになってきていました。
メールをお書きになった時点ではこのように比較的良い状態で、だからこそ長文のメールを書くことが出来たともいえますが、まだまだ油断はなりません。これからも波はかなりあると思います。うつ病の回復とはそういうものです。しかし重要なことは必ず治るということです。
冒頭にも書きましたが、この主治医の先生の治療は完璧といっていいと思います。メールに書かれている、この先生のその他のアドバイスや説明も、きわめて適切です。この先生の治療を受け続ければ治ります。
妻は、うつ病がなかなか治らないため、別のお医者様に掛かった方が良いのでは、と言います
あなたの病状を心配されてのこととは思いますが、これは誤った意見です。このような意見に従ってはいけません。どんな病気でも長引くことはあります。それは、治療が不適切なこともあれば、最善の治療を行っていても病勢のため長引くこともあります。それを見極めず、単に長引いているからといって主治医を変えていたら、いつまでたっても治る見込みはありません。
最後に、質問項目に簡潔に回答いたします。
1)自信と労働意欲が戻らないのは、うつ病が完治していないからでしょうか?
その通りです。うつ病が完治すれば自信も労働意欲も戻ります。
昨年の夏頃は本当に気分が良く、その後再発で悪化しましたが最近また気分は持ち直して来ていました。しかし、発病以来、失った自信と仕事への意欲が、戻って来たと感じた事はありません。
あなたのうつ病は回復に向っています。しかしまだまだ波があります。そして、うつ病の症状の中で、意欲低下はもっとも長引き易いものです。あなたの気分が持ち直した時期も、自信や意欲が戻っていないのは、うつ病が波打ちながら回復する過程として典型的なものです。
なお、林先生のお書きになっている「擬態うつ病」を読ませて頂きましたが、私に当てはまるかどうか、正直良く分かりません。
あなたは擬態うつ病ではありません。うつ病です。
2)アモキサンが効く量が、段階的に増えて来てしまっていますが、そういうものでしょうか? アモキサンを服用し始めた時は、20mg/日の処方で効果を感じましたが、一年近くたった現在では、175mg/日まで増やさないと効き目が出なくなってしまって います。主治医に聞いても、アモキサンに耐性がついてしまうという話は聞いた事がないと仰います。
効く量が段階的に増えることは時おりあることです。そのメカニズムは不明です。しかし決して例外的なことではありません。
3)カウンセリングは効果があるでしょうか?
効果はないでしょう。少なくとも現時点ではお勧めできません。
主治医とは、何れ時期が来れば、認知療法を行う事になる可能性が高いという所まで話をしています。ただ先に書いた通り、一時気分の良かった時期には積極的にカウンセリングに臨もうと思っていましたが、現在は億劫であまり受けたいとは思えません。
うつ病の症状がある程度まで回復すれば、カウンセリングは考慮してもいい治療法ですが、今のあなたの症状のレベルでは逆効果になる可能性のほうが強いです。認知療法は、再発防止のためには行っていいと思います。ただしその時期については主治医の先生の指示に従ってください。いや、それだけでなく、すべてこの主治医の先生の指示に従うことが、あなたのうつ病回復の最短距離です。
その後の経過(2006.9.5.)