精神科Q&A
【0971】成人期になってのアスペルガー障害について
Q:
私は42歳未婚男性で、父78歳、母74歳の3人家族です。現在は無職ですが、大学卒業後は約7年間地元の信用金庫に勤務していました。贅沢な暮らしをしなければ、経済的に苦しい状態ではありません。
本題に入ります。現在通院中の精神科専門病院の担当医より初めて、「アスペルガー障害の可能性が高い」と診断を受けました。当該病院には、約1年前より、週1回通院しており、担当医は、かなり早期の時点よりアスペルガーを疑っていたようで、その後の心理検査等を勘案して、アスペルガーの可能性が高いと診断されたようです。加えて、二次的症状として、強迫性障害様と摂食障害様を併発しているようです心理検査の結果を以下に記します。@WAIS−Rにおいて、VIQ=108、PIQ=87、IQ=98、所見にて「言語性能力が高く、周囲の状況を把握する能力もあるが、一度「こうだ」と思うとなかなか変えることができない面がある。しかし非常にまじめで集中力もあり、少し助言をすると改められる面もある」とのことでした。また、ロールシャッハテストにおいて、「器質的な問題があることを示すサインがかなりはっきりと出ており、〜(中略)〜情報の取捨選択が苦手で、〜(中略)〜複雑な情報が一気に入ってくるような場面に遭遇すると、まったく整理がつかなくなる傾向にある。〜以下略〜」と、書面にて説明を受けました。尚、現在の服用薬は、「レキソタン2r・アナフラニール25r×3、パキシル20r×1、入眠剤として、マイスリー5r・サイレース2r、滴剤型緩下剤として、ラキソベロン10滴」です。二次的症状としての強迫性障害様は、具体的に記すと、「資格取得勉強において、テキストにラインマーカーを引くことや補足事項を書き足すことなどを完璧に、そして、綺麗にする事のみにこだわってしまい、目的である資格試験合格に向けての勉強でなくなってしまう事」であり、摂食障害様は、「太ることへの強固なこだわりと、満腹感の喪失など」です。アスペルガーとの診断について、自分なりに当てはまることとして、「得意な分野と苦手な分野がはっきりしていることや、対人関係、特に就業先でその場での雰囲気を読み取りきれなかったこと、上司の命令の意図することが聞き取れなかったこと、OA機器の単純な操作に戸惑ってばかりいた事など」が、あげられます。しかし、アスペルガーの特徴である、乳幼児期においての、対人関係や自己表現能力などの障害がなかった事などは、アスペルガーの診断基準と大きく乖離しているように思います。
この事は、普通学級での教育や両親、担当教師、友人などからの指摘や認知などがなかったことで、客観的に判断できます。なによりも、精神的疾患に罹患して20年以上も経ているのに、そして、その間、複数箇所ではありますが、年単位にわたって、精神科のクリニック等の受診を受けていていたにもかかわらず、当を得た治療が得られなかったのか、今になって思うと、人生を無為に過ごしていたとの怒りの気持ちがこみ上げて来ます。しかし、一方で自分なりの将来への希望は捨ててはいません。このような自分でも達成可能か否かはわかりませんが、資格試験(法律系の国家資格)に合格して、自活できるようになりたいと、思っています。
要領の得ない文章になってしまいましたが、ご回等いただきたいのは、(1)アスペルガーの診断は、適切なのでしょうか。(2)アスペルガーとしたら、将来に向けての希望は、達成できるのでしょうか。(3)アスペルガーとしたら、診察と上記の投薬方法で何とかなるものでしょうか。以上三点についてです。最後に、このメールが、先生のお目に留まる事を切に願っています。
林:
(1)アスペルガーの診断は、適切なのでしょうか。
あなたはアスペルガーではありません。
そう断言できる理由は、あなたが記しておられる通りで、
アスペルガーの特徴である、乳幼児期においての、対人関係や自己表現能力などの障害がなかった事などは、アスペルガーの診断基準と大きく乖離しているように思います。
このことにつきます。
アスペルガー障害は発達障害の一型ですから、乳幼児期から小児期にかけての成長がどのようなものであったかは、診断の最も大きなポイントです。したがって、この時期に何ら問題がなかったあなたのケースでは、たとえ現在の状態がアスペルガーに類似(または完全に一致)したものであっても、アスペルガーと診断することは出来ません。明らかな誤診です。
(2)アスペルガーとしたら、将来に向けての希望は、達成できるのでしょうか。
あなたはアスペルガーではありませんから、この質問にはお答えする必要はないかもしれません。しかし、アスペルガーにかなり類似した状態であるのは事実のようですので、診断の如何にかかわらず、アスペルガーに準じた注意をすることで、より幸福な生活を送ることが出来ると考えられます。それは【0970】の主治医の先生も言っておられるように、「アスペルガーの良い特徴を活かす」ことです。もっとも、これはある意味でプラスの面を強調した言い方であって、その裏にあることとして、「アスペルガーの欠点が表面化しないようにする」ことも同時に必要でしょう。それはごく単純化すれば、複雑な対人関係にはあまり入り込まないようにし、一人でこつこつとやっていけることに集中するようにする、ということになります。あなたの「将来に向けての希望」がどのようなものであるか不明ですが、方向性として、アスペルガーの特徴を活かすことをお考えになることで、希望達成の期待は大きくなると思います。
(3)アスペルガーとしたら、診察と上記の投薬方法で何とかなるものでしょうか。
あなたはアスペルガーではありませんが、いくつか治療を要する症状があるようですので、引き続き投薬を含めた治療は必要でしょう。あなたの主治医はあなたを誤診していますが、しかしこの場合に限っていえば、誤診だから治療も不適切になるとは言えません。むしろあなたがアスペルガーの特徴を持っておられることをはっきり認識している今のあなたの主治医の治療を受け続けることが望ましいとも言えるでしょう。