精神科Q&A
【0956】どうしても断酒の決心がつきません
Q: 20歳代後半女性未婚です。
アルコールに関する林先生の記事を読ませていただきました。
久里浜式アルコール症スクリーニングテストでは、15点で私はアルコール依存であると思います。
重複する質問で申し訳なく、またアルコールをやめる以外の治療法はないと承知なのですが、止められなくてメールをさせて頂きました。
具体的に止める方法があれば…と他力本願で甘ったれているのですが、本人のやる気以外には方法がないのでしょうか。もう私の力では…
最近では「どうせ私はアル中だから」とネタにして開き直っています。
意志薄弱なのは自分で自分の嫌な部分であるのですが、最近では治らないので自分のそういう部分を愛するように心掛けています。
特効薬はないかと友人の医師の卵に「シアナミド」という薬を処方してもらえば?とアドバイスを受けました。
その薬はどうですか?(まだ病院に掛かったことはありません)
私がアルコール依存について関心を持ったのは、今年のお正月に田舎に帰ったときでした。(今は都内で一人暮らしをしています)
私がお酒が好きなことを知っている家族は、たまに帰ってくる娘のためにビールを沢山用意してくれていました。
朝、朝ご飯と一緒に缶ビールをプシュっと開け、ゆっくりですがビール、焼酎、と飲み進め、夜には普段は甘いものを好まないのですが飲む酒がなくなり果実酒に手を付けます。
挙句の果てに調理用の、日本酒を飲んで…いい気分になっていました。
後日妹が電話で、母に「お姉ちゃん、アル中じゃないかしら」と相談を受けたと言ってきました。
始めは笑っていたのですが、私本人ではなく妹に相談したところにことの重大さを覚え断酒会に参加しました。
断酒会の皆さんには、とても温かく迎え入れていただきました。
ただ、病気したなどお話があまりに痛々しく若い女性もおらず、自分はまだまだ社会生活や身体に異常をきたしている訳ではないと一度顔を出したきりになりました。
この言い訳は林先生の言う「否認」につながると思います。
普段の生活でも、コントロールが効かなくなることがままあります。
お酒がとても好きなのですが、貧乏なので平日はビール1缶とウィスキー1杯を有り難がっています。
「飲み放題」の時は、“気を付けよう”と始めは思っているのですが大抵記憶をところどころ失います。
酷いもので、駅で寝てしまい知らない女性に家まで送ってもらったり、男性3人にカラオケに連れ込まれて逃げたり、危険な目にも合いました。
それでも、止められない。
ふらふら歩いているので(所持金ギリギリまで飲んでしまい、タクシー代が考慮に入れられません)、帰るまでに「大丈夫?」と見知らぬ人に複数声を掛けられます。
幻聴でしょうか?でも、一応危機を察知しているので、本当にそうなんだと思うんですけど。。
最近忘年会が多く、2年間付き合っている恋人に「その飲み方が治らない限り、結婚は出来ない。俺が凄い借金あったら結婚しないでしょ?それと同じだよ」と言われプレッシャーに感じ、苦しいです。
酔うと恋人の家まで行き、散々文句をつけて泣くそうです。
「お酒が好きな自分を愛して」と。あまり人格が変わっているわけではないとは思うのですが。
以前4年付き合った男性にも全てお酒が原因ではないのですが、泥酔を相当煙たがられました。
また、お酒が原因の一つで大切な人を失いかけています。
大切な何かを得るためには、何かを失わなければいけない。
お酒と恋人を天秤にかけること自体、普通ではないのでしょうけど、私にとってはお酒が大好きで、今まで生きてこれたのもお酒のお陰だと思ってしまうんです。
心の支えにして、人に言われるから止めなければと苦しむ限り、止められないのではと思ってしまいます。
どうにかして、「お酒がなくても人生は楽しいものだよ」と自分を納得させられればいいのですが…
そういう風に思考回路がどう頑張っても、出来ません。お酒だけが原因じゃないのでしょうか。
質問の趣旨が、サイトの趣旨と大分それてしまったのではないかと不安ですが、宜しかったらお願い致します。
林: あなたがアルコール依存症であることは間違いないと思います。他の大切なものをいくら犠牲にしてもアルコールを求める、アルコールこそが人生である、そういう行動や考えは、アルコール依存症の典型的な特徴です。
「依存症候群」の定義として、国際的な診断基準であるICD-10には次のように記されています。
「ある物質あるいはある種の物質使用が、その人にとって以前にはより大きな価値をもっていた他の行動より、はるかに優先するようになる一群の生理的、行動的、認知的現象」
診断基準の文章として読むと味も素っ気もないのですが、あなたの一連の生活パターンはまさにこれに当てはまるものです。
これはこのメールの中のほとんどあらゆる文章に表れていますが、ひとつ例を挙げれば、
どうにかして、「お酒がなくても人生は楽しいものだよ」と自分を納得させられればいいのですが…
そういう風に思考回路がどう頑張っても、出来ません。お酒だけが原因じゃないのでしょうか。
ここに典型的に表現されています。お酒が自分のすべて、という感覚です。そして
お酒だけが原因じゃないのでしょうか。
という一文は、一種の否認とも受け取れます。
なお、他にも否認はこのメール中に溢れています。あなたが自ら否認と認めておられる部分以外にも、たとえば、
意志薄弱なのは自分で自分の嫌な部分であるのですが、最近では治らないので自分のそういう部分を愛するように心掛けています。
つまり、このようなあなたを愛していたら、アルコール依存症の回復の見込みはなく、あなたに未来はありません。
そして、アルコール依存症から回復するためには、アルコールをやめる以外の方法はありません。やめるというのは、一生アルコールを口にしないということです。
まずこのことを心底認識することがアルコール依存症の治療の第一歩です。この第一歩を踏み出すところまでなかなか行かれない人が非常に多いのですが、あなたのケースでは、
またアルコールをやめる以外の治療法はないと承知なのですが、止められなくてメールをさせて頂きました。
と書かれているように、第一歩の位置には来ておられると思います。そこから足を踏み出せば、回復は十分期待できます。
その方法は、あなたのケースでは、まずは薬の力を借りることだと思います。
特効薬はないかと友人の医師の卵に「シアナミド」という薬を処方してもらえば?とアドバイスを受けました。
シアナミド(シアナマイド)cyanamideは、抗酒薬、あるいは嫌酒薬と呼ばれる薬で、アルコール依存症の薬局、アルコール依存症の医学部講堂でも解説したおり、アルコール代謝系の酵素(具体的には、アルデヒド脱水素酵素)の働きを阻害することによって、一時的にアルコールを飲めない身体にする薬です。シアナミド以外にもノックビンという同様の作用の薬もあります。これを毎朝、何も考えず習慣のように飲むこと、これがあなたにとっての現時点では最善の対応だと思います。これを続ければ、断酒、すなわち回復が十分期待できます。逆に、これが出来なければ、将来に希望はないでしょう。