精神科Q&A
【0908】顔が覚えられないのと、ひどい方向音痴
Q:
私は30歳代 既婚女性です。【0683】人の顔がなかなか覚えられないの方が似たような 質問をされており、そちらの回答文を参考にさせていただいたのですが、 若干症状が違いますのでご相談をさせていただきます。
私も人の顔を覚えることが苦手です。幼稚園児の時に隣のクラスの男の子に 突然殴られたのですが、殴られた相手の顔を覚えられなかったため、先生に 訴える時に、別の近くにいた男の子を指差してしまい、濡れ衣を着せたという苦い経験があります。
また、高校生の時には、夏休みに電車で会った人に親しく話しかけられ、 見覚えはあるけど誰だかわからず、話を合わせているうちに、クラスメートであることがわかったということがありました。
日常生活においては、TVを見ていても出演者の認識が出来ず、ちょっと似た別の芸能人と思ってしまうことが多々あります。ただ、この「ちょっと似た」も他の人からすれば全然似ていないと言われます。
会社でも同様で、上司の顔を覚えるのに１ヶ月以上かかったり、何度も話しをしたことがあったり、一緒に仕事をしたことがあっても、次の時には誰かわからなかったりすることもあります。
通常の記憶力において、漢字、数字、出来事、人の声、服装などは、 客観的に見て、他の人より覚えるのが得意なように思われます。
例えば、過去の特に印象に残った出来事があるわけではない日の天気、 その時に他人が言ったセリフ、服装などよく覚えていて、話すと驚かれることがよくありますし、デパートなどですれ違った人の服装を記憶しており、 他フロアーですれ違っても、すぐに解ります。
前述いたしました【0683】と決定的に違う点は、日常生活に支障をきたすぐらいの方向音痴ということです。外にいる時はもちろん、建物の中でも迷いますし、見通しのいいオフィス内でも、自分の席に戻るルートを間違えたりします。レストランに行っても、お手洗いから自分の席に戻ることが出来なかったり、出口を間違えたりします。あと、これはあまり信じてもらえないのですが、部屋の中にいても一瞬、ドアの場所がわからなくなったり、先日はお手洗いの個室で、ドアのついてる方が一瞬わからなくなりました。
地図を読み取るのも苦手なのですが、目的地までのルートを、２つ目を右、３本目を左というふうな覚え方をすれば、さほど支障はありません。
ですので、出かける前にルートをチェックして言葉で覚えて行けば、たどり着けることが多いのですが、現地で地図を取り出して、自分の居る場所から、 目的地までのルートを考えようとすると混乱してしまい、地図をぐるぐる回しながらパニックに陥ります。
あと、右と左の認識も苦手です。東西南北の位置関係は理解できているのに、 「北を向いて右の方角は何？」という質問など、かなり考えないとわかりません。
他には、自分と同じ方向を向いていても、向き合っていても、相手が今、 右手を上げているのか、左手を上げているのかがわからないことがあります。
ダンスをしているので、振り付けを覚える際に大変苦労します。ですがこちらも、「ここで右手を上げて」といった感じで、言葉に置き換えて覚えてしまうと、その後、時間が経ってもめったに忘れることはありません。
また、これは関係があるのかわかりませんが、幅の感覚があまりないようで、 歩いていても、家の中やオフィスで、家具や備品などによくぶつかります。
車の免許は持っていますが、車の幅が認識できないので、危ないと思い運転はしておりません。
家族につきましては、母も姉も方向音痴ですが、私のように病的ではなく、 一般的に女性に多いタイプのいわゆる普通の「方向音痴」です。
頭へのショックにつきましては、乳幼児期にハイハイをしていて玄関のたたきの上から落ちて頭を強打し、しばらくは泣きもしなかったというエピソードを母に聞いたことがあります。（病院には行ってないそうですが）
できません尽くしで、書いていて情けなくなってきたのですが、今の私にとって、 「顔を覚えられない」こともかなり大きな悩みなのですが、「方向音痴」「立体が理解できない」ということが、大変切実な悩みとなっており、リハビリや覚え方の学習によって症状が改善されるのであれば、試してみたいと思います。 居住地は○○市です。近くにご相談をさせていただけるような専門機関はございませんでしょうか。
林: あなたはDevelopmental Prosopagnosia (先天性相貌失認)だと思います。相貌失認のQ&A例をご参照ください。特に【0782】の方との共通点が多いと思います。つまり、顔の認知だけでなく、「方向音痴」を伴っている点です。これは、【0782】でも解説いたしましたとおり、脳の中で、顔を認知するうえで重要な部位と、地理的な認知のために重要な部位は近接していることによると考えられます。そしてこれも【0782】の回答にあることですが、あなたのケースでも、現状をはっきりと把握するため、また他の病気によるものでないことを確認するため(特に、脳内の紡錘状回と呼ばれる部分に異常がないかどうか)、一度は検査を受ける必要があるでしょう。そこまでは通常の医療機関で可能だと思います。頭へのショックにつきましては、乳幼児期にハイハイをしていて玄関のたたきの上から落ちて頭を強打し、しばらくは泣きもしなかったというエピソードを母に聞いたことがあります。（病院には行ってないそうですが）
このエピソードが関係している可能性もごくわずかにはあります。出産時や幼少時の脳の外傷が原因になることがあり得るからです(その場合は「先天性相貌失認」という用語には合いませんが)。
問題は検査の後ですが、先天性相貌失認は、非常に稀な病態ですので、適切な検査を施行して対処方法をあなたに提示できる医師の数は残念ながら非常に限られています。ここでそうした医師をご紹介できればいいのですが、申し訳ありません、このサイトではいかなる医療機関の紹介も行わないという方針をとっています。その理由は【0019】の通りです。良き先生に出会われることを願うばかりです。