精神科Q&A
【0782】顔がわからない・方向音痴・不器用なのですが
Q: 30代前半の女性です。【0683】、【0695】を読ませて頂きました。同じような質問で恐縮なのですが、私にも似たような症状があり、このため仕事にさしつかえがあったり、自分はダメな人間なのではないかという思いが以前からありましたので、せめて何科にかかったらいいのかだけでも教えて頂きたくて、メール致しました。
私の症状は先の方たちと同じで、顔が覚えられないということです。学生時代は、私は目が悪いのにメガネを嫌って授業中以外かけないために、よく見えないから人の顔の区別がつかないのかもと思っていました。しかし大学に入ってからコンタクトをするようになって、そうではないことがわかりました。よく見えていても分からないのです。特徴のある人は区別がつきました。でも、それはよく考えると、体型、ファッション、声などで区別していたと思います。仲の良い友達の顔でも、会っていないときに顔が映像として浮かんできません。覚えようとして、じっと観察して顔の特徴を言葉でとらえてみるのですが、その特徴を統合して１人の顔として頭のなかで完成させることができないのです。私が自分はおかしいのではないかと感じたきっかけは、ずっと一緒にくらしている妹の顔が分からなかったことが何度もあったからです。家の中にいるときは、妹だと分かります。けれど外出先で会うとだれだかわからないのです。妹が化粧や服装で別人のようになるタイプというわけではありません。
しかし妹は、体型もファッションも顔も私から見るとあまり特徴がなく（私の主人は妹の顔はとても特徴があると言います）、他の人と区別がつきにくいのです。外出先で偶然会って、目はあってちゃんと妹のほうを見ていたのに気づかず無視することが5回以上ありました。いつもわからないわけではなく、わかるときもあります。近所で会ってもおかしくない時間・場所であったりしたときは気づきます。しかし、気づき方がやはりおかしいのではないかと思います。どこかで見た人→妹だ、という感じなのです。ちなみに結婚5年目で、一日中一緒に仕事をしている夫でさえも、外で会って何度か無視してしまっています。
顔が分からない以外の特徴として、方向音痴であるということ。あととても不器用です。何か手作業を教えてもらうとき、向かい合って同じ手作業をするという形だと理解することができません。頭の中で、その作業を回転させて理解して手を動かすということができずに、並んで同じ方向を向いて教えてもらってようやく理解するという感じです。学生のころは体育の時間にみんなでダンスをするというようなときに、向かい合って教えてくれる先生を見て踊ることができずに、となりにならんだ友達を見ながら覚えていました。
これは顔の区別がつかないことと、何か関係があるのでしょうか。今現在、人に会う機会が非常に少ないので、人の顔の区別がつかないことに関してはあまり支障がありません。顔はわかりませんが、声の特徴は区別ができよく記憶できるからです。テレビでタレントさんの映像だけ見ていてだれだかわからないことはしよっちゅうですが、テレビに目をやらずに声だけ聞いて間違うことはほとんどありません。ＣＭで声だけの出演などしている場合も、よくわかるほうです。
私が悩んでいるのは、後にあげた作業に関することです。向かい合わせで教えてもらうとわからない、すぐに左右が混乱する、ということは、そうでない人には理解しがたいらしく、もたもたするので周りをあきれさせることがしばしばです。現在自由業で自宅で仕事をしていますが、もし外で違う職種、職場で働くようなことになったとき、仕事ができるのか不安です。以前に接客業をしていたことがありましたが、お客様の顔が覚えられないのと、たたむ、ラッピングするなど簡単なはずの仕事が苦手で長続きしませんでした。ただの不器用、頭が悪いだけで、こちらで質問することが検討ちがいなのかもしれませんが、これがなおったならずいぶん生活しやすいだろうと思います。長々と失礼致しました。
林: あなたはDevelopmental prosopagnosia (先天性相貌失認)だと思います。【0683】の方(それからおそらく【0695】の方も)と同様の症状です。顔に関してあなたが書いておられることは、どれもこの病気の特徴にあてはまるものです。特に、
じっと観察して顔の特徴を言葉でとらえてみるのですが、その特徴を統合して１人の顔として頭のなかで完成させることができないのです。
このように、顔に関して、部分を統合して全体として把握できないという点が、相貌失認の本質にかかわるものであると考えられています。【0695】の方が、「けれど私にはどの人も「目がふたつずつあって、鼻と口がひとつずつある」としか取れず、他の人との差がわからないのです」とおっしゃっているのと同様です。
ただあなたが【0683】(そしておそらく【0695】)の方とはっきり違う点は、
方向音痴であるということ。あととても不器用です。
この2点ですが、【0683】でも解説したとおり、脳の中で、顔を認知するうえで重要な部位と、地理的な認知のために重要な部位は近接していますので、相貌認知に「方向音痴」が伴うことは十分ありうることです。また、「不器用」についても、【0683】でご紹介した参考文献の症例には、同様の記載があります。さらに、「方向音痴」と「不器用」は、どちらも空間的認知の障害としてとらえることも出来るでしょう。
相貌失認を完治させるということは出来ないと思います。ただし、現状をはっきりと把握するため、また他の病気によるものでないことを確認するため(特に、脳内の紡錘状回と呼ばれる部分に異常がないかどうか)、一度は検査を受ける必要があるといえます。
以下は【0683】の回答のコピーですが、そのままあなたにもお伝えいたします:
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さて、ここまでご説明してからこんなことを言うのは大変申し訳ないのですが、事実としてお伝えします。
先天性相貌失認は、非常に稀な病態ですので、適切な検査を施行して対処方法をあなたに提示できる医師の数は非常に限られています。しかしこのサイトではいかなる医療機関の紹介も行わないという方針をとっています。その理由は【0019】の通りです。良き先生に出会われることを願うばかりです。また、今回の回答の内容以外にご質問がありましたら喜んでお答えしたいと思います。