精神科Q&A

【0893】薬で治療を続けている15歳の娘は擬態うつ病でしょうか


Q15歳の娘Kのことでお伺いいたします。
先生のうつ病の相談室と擬態うつ病を拝読いたしました。
擬態うつ病は版元で品切れとのことで、図書館でも貸し出し予約2人待ち状態で、何軒もの古本屋を探し、やっと手にいれました。ネットでは3500円で出ていました。
擬態うつ病を読んで、治らずに悩んでいるたくさんのうつ病と診断された方々がこの本に出会うと気持ちが救われるのに・・と思いました。
宝島社が重版してくださることを切に希望いたします。

余談が長すぎました。
さて、娘のK(15歳中3)は半年前から子供専門の病院で治療して頂いております。
先日学校宛の診断書の病名欄に抑うつ状態と記されており、うつ病とは言えないとの診断でした。適応障害や統合失調症の心配も無いとのことです。
薬もかかさず飲みましたが、いっこうによくなりません。
症状は、うつ病そのものに見えます。
ですから、先生の擬態うつ病を読んだ時は目からうろこが落ちた思いでした。
と同時に、主治医の先生は薬は効かないことを承知で薬を出していたのかしら、、
との疑問を持ちました。
でも、一つ伺いたいのですが、
娘はうつ病の病名すら知らないのですが、似て非なるものなのでしょうか?
症状はとても深刻で、私に申し訳ないを繰り返します。
親としてどう対処したらよいかわからず、困っています。
本の中に擬態うつ病でも、症状が深刻な時やこじらした時は治療が必要、、と
ありますが、どんな治療ですか。
処方される薬は量も種類もいつも同じです。
ルボックス25・ミラドール100・アキネトンです。
最近、多量の寝汗をしばしばかくようになりました。
子供でも擬態うつ病の状態があるのなら、薬も止めて、焦らず、娘が自力で一歩を踏み出す時まで見守っていようと思いますが、いかがでしょうか?


林: 
私の著書をよくお読みいただいたようで、それは嬉しいことですが、ご質問の内容を見ますと、うつ病、抑うつ状態、擬態うつ病などの関係について、あなたはいくつか誤解をされているように思います。

先日学校宛の診断書の病名欄に抑うつ状態と記されており、うつ病とは言えないとの診断でした。
・・・
ですから、先生の擬態うつ病を読んだ時は目からうろこが落ちた思いでした。
と同時に、主治医の先生は薬は効かないことを承知で薬を出していたのかしら、、
との疑問を持ちました。


上の文面から読み取れるのは、
「うつ病とは言えないという診断であるからには、薬は効かないということなので、治療として薬を出すことはおかしい」
とあなたは考えておられるということです。
しかし、そもそも15歳という年齢では、うつ病の診断はなかなか難しいこともあり(成人のうつ病とは色彩の違った症状になることもしばしばあります)、「診断は抑うつ状態で、うつ病とは言えない」という見解は、「まだうつ病と診断することはできないので抑うつ状態とするのが妥当だが、本当の診断名は経過をみないと何とも言えない」ということである可能性も強いと思います。だとすれば、抗うつ薬を投与しつつ経過をみる、という方針は適切ということになります。
(「本当の診断名は経過をみないと何とも言えない」というのは、医師とすればいわば無責任な言い方で、このような表現はできればしたくないと私は思うのですが、現実にはこのように言うしかないケースもあるものです)

大変失礼な言い方ですが、私の本からの知識による素人のあなたのご判断より、直接診察をされている医師の判断のほうがはるかに信頼できると思います。今の治療を続けるという基本方針でいいのではないでしょうか。

いま「いいのではないでしょうか」という曖昧な表現をしたのは、Kさんの本当の病名が全くわからないということが背景にあります。症状としてメールに記載されているのは、

症状は、うつ病そのものに見えます。

症状はとても深刻で、私に申し訳ないを繰り返します。


この二つだけですので、私が診断名を推定することはほとんど不可能です。ですから、

娘はうつ病の病名すら知らないのですが、似て非なるものなのでしょうか?

と訊かれても、お答えしようがありません。


なお、念のため付け加えますと、この回答の冒頭に

「あなたはいくつか誤解をされているように思います」

といきなり書きましたが、それはKさんの病状と治療に関して、という意味です。擬態うつ病の本質についてはあなたは正確に把握しておられると思います。けれども、本に書いてある内容を一人一人の方にあてはめる時は、細心の注意が必要です。本の内容はあくまで参考にとどめ、現実には直接診察していただいている医師の方針を尊重するというのが、もっとも間違いの少ない姿勢だと思います。

本を書いた時点では、読者の方々がどのような読み方をされるかはなかなか予想しにくいものです。擬態うつ病のあとがきに
「一冊の本で、わかりやすさと嘘のなさを両立することは難しく、私ひとりの力量の及ぶところではないが、読者のご協力を頂ければ、完成に近づけると信じている」
と書いたとおりで、寄せられたあらゆるご質問・ご意見が、私の勉強の貴重な材料になっております。「誤解をされている」と失礼なことを書きましたが、この【0893】のご質問をいただいたことに私は感謝しております。



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