精神科Q&A
【0858】うつ病とは違うようだが、かなり症状があるので擬態うつ病でもない?
Q: 私は40代の女性です。職場の同僚(30代後半男性)の、3年にわたるうつ病の経過を見ていて、質問させていただくことにしました。
うつ病に対しては、「生真面目、几帳面な人がなりやすい」「励ましてはいけない」「治療すれば治る」という程度の知識は持ち合わせていましたが、うつ病の同僚を見ていて、「うつ病は怖い」「治療は当てにならない」「周囲に迷惑がこんなにかかるのか」などと、このままではうつ病に対して偏見を持ってしまいそうになりました。
このサイトの「うつ病」「躁うつ病」「擬態うつ病」「人格障害」も読ませていただきましたが、同僚がどれに該当するのかによって私自身の対応も変えるべきだと思いましたので、思い切って質問させていただいた次第です。
彼は4年前に会社に採用されました。ちょっと自己中心的ではあるものの普通の人でした。「うつ病を発症した」と彼から聞かされたのは3年前です。「病院に行ったらうつ病だと診断された。自分がうつ病にかかるなんて思ってもみなかった。それで、疲れた時は席をはずしたりするのでよろしく」というもので、そんなに重症には見えませんでした。
それまでの彼の性格について述べますと、一見温厚そうなのですが、自尊心が高く、特に自分より下の立場の人に偉そうでした。「僕はほら、お金や地位に興味が全くないから」などと言うのが口癖で、また彼の自慢話には「前の会社では偉そうな上司に喧嘩をふっかけてやった」という類のものが多かったです。お酒の席では話の中心にいるのが好きで、必ず誰かの失敗や欠点を話のネタにして笑いをとっていました。また、豪快な発言をする割には気が小さく、自分の評価をとても気にするところがありました。仕事面では、雑事は他人(特に立場の弱い人)に押しつける傾向はありましたが、真面目で優しい面も多々あり、頭もよく、驚くほど博識で、事実関係で嘘をつくことや短気を起こすことなどはありませんでした。
仕事上の彼自身の業績不振がしばらく続いたこと、奥さんの実家の離れに新築してもらった家に引っ越したこと(家の名義に彼が加えられなかったことを気にしていました)、等々があった後、突然うつ病発症を彼から知らされたわけです。
うつ病の治療のため通院を開始し、薬の服用が始まってからが悲惨でした。
それまで、たとえうつ病を患っていたとしても、普通の範囲だった人が、治療を開始した途端、異常な人格者に変わったのです。少なくとも私にはそう思えました。
恐ろしいほどのハイ状態になり、弾丸のように一方的にしゃべりまくる。私が忙しかろうとおかまいなしで、仕事を阻害します。その期間が1,2週間続いたあと、廃人のように何もしゃべらず何もせず、ぐったりと無気力な時期が1ヶ月ほど続きます。次のハイ期は、また少し様子が違っていて、「僕ってセクハラ系?」などという色気話をことさら持ち出すようになったりします(以前は決してそういう話を口にしない人でした)。そして落ち込み期・・・という具合です。一番迷惑なハイ期の症状は彼が自分のことを「できる男」だと思いこむというものです。自分で「僕はできる男なんです」と言い放ち、分けの分からないことをやりだし、私を召使いのように扱い、顔つきも恐かったです。ランチに関しては、ハイ期であろうと落ち込み期であろうと、みんなと一緒に行き、食欲は普通でした。痩せたりもしていません。2年間そういう状態でしたが、その後、急に入院しました。半年後退院し、しばらく自宅療養を続け、1ヶ月ほど前に職場復帰しました。ちょっと太っていました。うつの症状は入院前と変わりがないか、ひどくなっているように思います。現在の状況は、お昼前に出社し、出社するなり「ああ、疲れた。通勤は疲れる」と周囲に言い、見た目も辛そうです。お昼はみんなと普通に会話しながら普通に食べます。午後は日替わりで症状が変わり、恐い顔つきで空を見つめながらすごい勢いでキーボードを打ち続けたり、銅像のように身動き一つせずに過ごしたり、誰か相手を見つけて大きな声でずっと仕事に
関係ないことをしゃべり続けたりします。そして、3時頃に「今日は仕事しすぎた。働きすぎてはいけないと病院から言われているので」と言い、帰っていきます。欠席も何日かあります。
もともと人間関係のよかった職場ですが、彼がいるとどうしても雰囲気が暗くなります。直属の上司は、かなり理解のある人で、彼の尻拭いを文句一つ言わず引き受けています。
また、こんな事件もありました。1年前、彼が入院する直前、顧客から彼のことを名指ししたクレームがありました。彼はそれを「僕は気にしていないから」と笑いながらも傷ついた様子で、自虐的と思えるほどそのことにこだわっていました。その後すぐ彼は入院し、みんなはそのことを忘れていました。ちょうど1年後の、彼が職場復帰する1週間ほど前に「わが社幹部」と称する人から会社に匿名メールがあり、「1年前の彼へのクレームは不当なものだった。その時彼は体調が悪かっただけだ。彼は実に有能で人徳もある人間だ。彼の業績はかくかくしかじかだ」という内容でした。かくかくしかじかの部分は内部の人間と彼本人以外には知り得ない情報でした。社内ではもちろん話題になりましたが、みんな「誰がメールの送り主か」ということにはふれませんでした。そして、彼が復帰してから3日目くらいだったと思います。彼自身からおもむろに、別の同僚に「あ、そうそう、こんなメールあったの知ってる?」とその匿名メールの見られる画面をわざわざ開いて見せたのです。彼が「誰か知らないけど庇ってくれてるつもりなの?迷惑なんだよね、こういうことされると。別に気にしてなかったんだから。それに幹部の誰がこういうことしたか目星もついてるんだよね」と言ったのが聞こえてきました。その話を持ちかけられた同僚は、「そんなメールあったんですか。うちの幹部じゃないと思う。匿名なんて相手にしない方がいい」と上手に流していました。
彼が匿名の主だとする証拠は何もありません。ただ言えるのは、顧客からの1年も前のクレームに尋常ならざる執着を見せているという事実です。彼はそのクレームを異常にこき下ろすと同時にそのクレームを異常なほど恐れてもいます。
長くなりました。私の質問です。
彼は「うつ病」なのでしょうか?それとも「躁うつ病」なのでしょうか?
症状があれだけあるのですから「擬態うつ病」ではないと思うのですが、「うつ」を言い訳にしているように思える時があります。周りを振り回すほどではありませんが「人格障害」に近い部分が見えるときもあります。
私は彼にどういう態度をとるべきでしょうか。温かく見守るべきでしょうか?距離をなるべく置くようにすべきでしょうか?
以上よろしくお願いいたします。
林: うつ病でないことは確かです。これだけははっきり言えます。この方についてメールに書かれている内容は、どれ一つとってもうつ病には一致しません。また、躁うつ病ということもまずないでしょう。
症状があれだけあるのですから「擬態うつ病」ではないと思うのですが
症状がかなりあるから、擬態うつ病でないということにはなりません。症状の多さや重さと、擬態うつ病かどうかということは関係ありません。
擬態うつ病とは、うつ病とされているがうつ病でないもののことですので(もっともこれは私が勝手に決めたものですが)、この方が、
「病院に行ったらうつ病だと診断された。自分がうつ病にかかるなんて思ってもみなかった。それで、疲れた時は席をはずしたりするのでよろしく」
と言っていて、しかしうつ病でないことは確実ですので、定義からいえば擬態うつ病ということになるでしょう。
「人格障害」に近い部分が見えるときもあります。
確かにそのようにも見える部分があります。また、他の精神疾患も考えられます。
以上、結論としてはこの方の病名はわかりません。しかし、うつ病でないことは確かです。
うつ病の同僚を見ていて、「うつ病は怖い」「治療は当てにならない」「周囲に迷惑がこんなにかかるのか」などと、このままではうつ病に対して偏見を持ってしまいそうになりました。
このような方の症状や言動をご覧になって、うつ病に対する誤った印象をお持ちにならないようにお願いしたいと思います。