精神科Q&A
【0830】躁状態の姉の授乳育児
Q: 37歳の姉が躁うつ病で、これまでに2回(25歳、35歳)入院しています。
2回とも躁状態から錯乱して、強制入院となりました。
2回目の退院後、薬を飲み続けていたのですが、その後順調だったこともあり、1年前に徐々に減らしてやめ、その後、妊娠出産し、現在2ヶ月の子供(次男)がいます。
しかし、3週間ほど前から躁状態が現れました。
きっかけは、長男の学校の問題だと思われます。
はじめの1週間で、学校の問題もほぼ解決したのですが、躁状態はひどくなっていきました。
妊娠が発覚した時から、「様子がおかしくなったら、薬をちゃんと飲む」と本人が言っていたので、その時点(1週間後)で、病院で処方していただいていた薬を飲ませようとしたのですが、薬を飲んでいる間は授乳はできないのが耐えられないようで、「薬なんて、利かない!毒だ!」と言って、拒否しました。
なんとか説得して飲ませたのですが、次の日には「トイレで全部吐いた!」と言ってました。
これまで診て頂いていた病院にもいき、「3日間薬を飲んで、とりあえず、睡眠をとること。薬をやめたら、2日間開けて、授乳を再開するように。できれば、手伝い(母や私の)なしで、家族だけでやってみて、やっていけるか様子を見ましょう。」
ということになりました。
結局、薬は、1週間飲みました。
睡眠はかなり取れるようになりましたが、断続的でした。
躁状態もまだ残っていましたが、本人が授乳を強く希望し、搾乳して自分の母乳を捨てるのが、とてもストレスだと訴えるため、1週間で薬をやめました。
その後、1週間たち、授乳も再開しましたが、やはりまだ躁状態が続いています。
睡眠は改善され、夜に8時間以上ぐっすり眠れるようです。(夜は子供を母に預けている)
現在の状態は、
・スーパーや雑貨屋さんで買い物しまくる。
・部屋のかたずけや模様替えをしまくる。
・難題を吹っかけてくる。
・物を捨てまくる。(が、後で反省するのか、もったいないものはゴミ捨て場から
自分で拾ってくる)
・1日の計画を立てて、そのとおりに行動しようとやっきになる。
・手伝いに行っている私や母に怒りまくる。
「もう、帰ってくれ!」と何回か言われたが、翌朝、「やっぱり、もう少し、手
伝って」と謝ってくる。
・子供の前で、だんなや母や私と口げんかする。
・子供に対して、ふざけすぎる(いじめて遊ぶ)
などです。
姉自信もそうですが、周り(だんな、母、私)も、できれば、薬を飲まずに、授乳を続けさせてあげたいのですが、それで、うまく行くための周りの対応のコツなどがありますで
しょうか?
とはいえ、入院しなければいけないような事態は絶対に避けたいので、そうなる前に薬で抑えるためには、今すぐにでも再開した方がいいですか?
その場合、短期的に授乳をやめる(短期的に薬を飲む)のではなく、今後、授乳はせず、
ミルクのみで育て、断乳をした方がいいでしょうか?
(短期的であれば、搾乳が必要だし、断乳なら、搾乳はしない方がいい)
姉のだんなが病院で授乳による子供への薬の影響の話を聞いて、薬を飲みながらの授乳は絶対にやって欲しくないと言っていますし、姉も同じ意見です。
もちろん、姉には、断乳する気(=薬を長期的に飲む気)なんて全くありませんが。
また、お医者さんに「家族だけでやってみなさい」という言葉はまだ、実現していません。
だんなの仕事も忙しく、今回のことで、かなり休みはとったのですが、これ以上、
仕事に影響を与えるのも姉自信がいやなようで、どうしても、母に頼ってしまいます。
母や私が手伝いに行くのは、家事・育児は楽になる一方、喧嘩になったりで、かなりストレスのようなのですが、母や私が手伝いに行かない方が、姉の精神安定には、いいのでしょうか?
林: 断乳し、服薬を再開すべきだと思います。理由は、過去2回の躁状態が、いずれも強制入院という事態になるほど激しい症状だったという事実です。今回も早く薬物治療を開始しなければ、同じ事態になると推測できます。少なくとも、今回に限って軽いと推測する根拠は全くありません。過去2回の躁状態のときの状況が不明ですが、妊娠・出産後という今回の状況は、通常の躁状態より悪くなると推測するのがむしろ普通でしょう。
姉自信もそうですが、周り(だんな、母、私)も、できれば、薬を飲まずに、授乳を続けさせてあげたいのですが、
その気持ちはよくわかりますが、その前に現実を冷静に直視しなければなりません。このままでは躁状態が悪化し、授乳はおろか、育児そのものができなくなってしまう可能性が非常に高いと思います。
妊娠が発覚した時から、「様子がおかしくなったら、薬をちゃんと飲む」と本人が言っていたので、
はっきり申し上げますが、これはきわめて甘いと言わざるを得ません。この方の過去の経緯から考えて、いったん悪化したら治療の導入そのものが困難になることは十分予想されたはずです。「様子がおかしくなったら」ではなく、様子がおかしくなる前に薬を飲まなければならないケースと言えます。「様子がおかしくなったら」、もはや治療を開始することが困難な状況だからです。
ですから、
その時点(1週間後)で、病院で処方していただいていた薬を飲ませようとしたのですが、薬を飲んでいる間は授乳はできないのが耐えられないようで、「薬なんて、利かない!毒だ!」と言って、拒否しました。
これは当然予想された事態です。
これまで診て頂いていた病院にもいき、「3日間薬を飲んで、とりあえず、睡眠をとること。薬をやめたら、2日間開けて、授乳を再開するように。できれば、手伝い(母や私の)なしで、家族だけでやってみて、やっていけるか様子を見ましょう。」
ということになりました。
主治医の先生も、現在の状況をご覧になって、何とか最善の対策を、ということでアドバイスされたのだと思います。
けれども、このようなケースでは、医師のほうも、一縷の望みは持ちながらも、負け戦をやむを得ず戦っているというのに近い感覚を持っているものです。つまり、いったん悪化し始めると、食い止めることが難しいのです。ですから繰返しになりますが、その前に薬を飲まなければならないところでした。
母や私が手伝いに行くのは、家事・育児は楽になる一方、喧嘩になったりで、かなりストレスのようなのですが、母や私が手伝いに行かない方が、姉の精神安定には、いいのでしょうか?
もはやそういうレベルの問題ではありません。服薬が必須です。
躁うつ病やうつ病で、再発防止のために薬を飲み続けるかどうかは、ときに非常に判断が難しいものです。けれども、このケースのように、躁状態になって強制入院ということが2回もあった場合は、薬を飲み続けるという決定を下すべきでしょう。今回の事態は予想されたことであり、薬を飲んでいればよかった、というのは決して結果論ではありません。
もっとも、今それを言われても・・・と思われるかもしれません。
今すべきことは、今からでも薬物療法を始めることです。まだ間に合いますので、早く断乳し、服薬を再開すべきです。