精神科Q&A
【0752】以前、妄想にとりつかれていた自分
Q:
私は20代女性です。ご相談したいのは、"私は病気ではないか、あるいは病気だったのではないか" という悩みです。
大学に入って友達や彼氏もでき、1年半充実した毎日を送っていました。
今まで学校生活になじめなかった私にとって初めて楽しいと思える日々でした。
ところが彼氏とのことで学校側から退寮を検討されるようなトラブルがあってから、歯車が狂いだしました。
数ヶ月の間情緒不安定な時期が続き、相談に乗ってくれていた仲の良い友達のことも死ぬほど憎らしくなったりして八つ当たりした結果、私は孤立していきました。 (後で述べますが、以前からこのような傾向はありました。)
それから一年間、ヒトの目が怖く、誰を見ても自分の悪口を言っているに違いないと思い込むことが多くなりました。
睡眠リズムも狂い夜寝たのに授業中も一日中寝ていたり、休日はご飯とトイレ以外はまどろみ続けたりしました。洗濯・掃除といった家事もほとんどしなくなり、お風呂やはみがきも面倒になりました。部屋はごみ屋敷のようでしたがそれも気にならず、ただ学校に着けていく下着がなくなったときなどにようやく動き出すありさまでした。(家事は以前から苦手で、清潔感も強いほうではないですがこのときはありえないレベルでした)
学校は何とか続けていましたが洋服には構わなくなり、大好きだった買い物にもまったく行かなくなりました。
趣味の読書もしなくなり何をするのも億劫でした。
また恥ずかしい話ですがトイレに間に合わないことがちょくちょく起こるようになりました。
飲み会の後など、帰り道で歩きながらもらしてしまいそれでも恥ずかしい気持ちがあまり起こらなかったりしました。ズボンだったので直接は見えないだろうと思い、周囲の人たちともそのまま会話していました。
今では考えられませんが・・・。
倫理観も薄くなり、以前は口が堅かったのに友達のことを暴露したり、借りたものを返さなかったりと人として堕落していくような行動が多くなりましたがそんな自分を感じても自己コントロールはできませんでした。
感情もあまり動かなくなり、まだ彼氏とは続いていましたが都合よく使われてももやもやしたまま何も言わず従うような状態でした。
そんな自分が嫌でしょうがなくて、お前なんか最低だ、嫌われて当然だ、死ね、死んでしまえと自らを責め続けていました。
しょっちゅう死にたいと思っていましたが行動に移すパワーはありませんでした。
そんな状態が1年半続きました。
その頃ある日突然、飲み会をきっかけに、知人の男の子が私のことを好きなのだと思い込みました。急に世界の色が変わったようで、ずっと幸せでその子のことを考え続けました。
3日間くらい学校にも行かず、ベッドの上で同じ曲を聞き続け、ご飯もあまり食べませんでした。
勢いづいて彼氏とも別れ、今まで疎遠になっていた友達皆に電話をかけて別れたことを話しました。(中にはただの知人も含みます)なぜか学年中の人が今まで私のことを思ってくれていたんだと思ったり、知っている人全てがすばらしい人に思えたり、ありえないほどばら色な考えが次々に浮かび、収拾がつきませんでした。
その後私のほうが彼を好きになり、ずっと見続けたりと、ややストーカーのような行動をとっていました。さすがに半年くらいたつと自分の妄想かもと考えましたが、それでも彼は私を好きに違いないと思う気持ちはずっとありました。
それから2年たった今、ようやく自分は彼のことは好きではないし、自分の空想がどんどん広がっていたと納得できるようになりました。
ただ、あのころのことを思い出すとどこまで現実でどこから妄想なのか、 まったく分かりません。たしかにアプローチされたと感じた出来事もあり、 周りの人もそれを裏付ける行動をとっていましたがそれが現実だったと思う自分を信用できない状態です。
現在は家事もある程度はこなし、友達は少しですが旅行に行ったりしますし、学校にも行き試験勉強などに追われつつ、落ち着いた日々を過ごしています。
情緒不安定なこともよくありますが、それは幼い頃から同じです。
ただ以前に比べて忘れっぽくなり頭の回転が遅くなったような感じがします。
相談したいのは、あのときの私は何だったのだろうか、という疑問です。
実は最近弟が統合失調症と診断され、また伯母もおなじ病気であることが分かりました。
(伯母は祖母と二人暮しだったのですが病気のことは伯母の妹である母にも隠しており、祖母の遺物を整頓しているときに診断書などがみつかって初めて分かりました。)
この病気が遺伝するわけではないことは知っていますが、やはり自分も発症していたのではないか、そして軽症だったため自然治癒したのではないか、と心配です。病気について調べたら、自然治癒する症例はどこにも書いてないし、発症したら早く治療しないと進行する、また服薬しないと再発の可能性を高める と書いてあり、不安が募ります。
躁うつ病も調べましたが、こちらも自分に当てはまっているようにも思えます。
特にうつの時期はかなりそれらしいと思いますが、躁の時期はテンションが高くなったのは一ヶ月くらいで収まり、でもその後も妄想が続いていました。
どちらにしても今後再発するかもしれないし、今とくに症状がなくても病院へ行ったほうが良いのでしょうか。
私の性格は幼い頃から内向的で友達も少ないほうで、空想にふける傾向がありました。
クラスからもなんとなく浮くことが多く、ただ勉強は得意なほうだったので変わったガリ勉タイプと思われることが多かったです。そのためか疎まれることも多々あり、いつのまにか皆自分のことを嫌っているのではないか、という否定的・被害妄想的な思考がつよくなってしまいました。
また感情の波が激しく人間関係も自分で壊すことがよくあり、いろいろ調べた今になって思えば境界型人格障害の傾向を備えていたのではないかと思います。今でもその傾向はありますが前より少しはましになったと考えています。
気分は常に低めで、暗いほうですがテンションが上がった時は自分が万能であるかのような、やや誇大した空想に浸ることもありました。(空想であることは分かっていました。)
私は病気なのでしょうか、あるいは病気だったのでしょうか。
将来のこと、再発の可能性がとても心配です。
アドバイスをいただけたら、幸いです。
長文を読んでくださってありがとうございました。
よろしくお願いします。
林: 現時点であなたをどう診断すべきか、残念ながら、わかりません。
ただ、過去にあなたが体験された症状は統合失調症(精神分裂病)に一致しているということは確かに言えます。
ヒトの目が怖く、誰を見ても自分の悪口を言っているに違いないと思い込むことが多くなりました。
これは、被害妄想といえるでしょう。もっとも、これひとつだけをとってみた場合は病的とは言い切れませんが、他にも統合失調症(精神分裂病)的な症状がいくつも見られています。たとえば、少し長いですがそのまま引用しますと、
睡眠リズムも狂い夜寝たのに授業中も一日中寝ていたり、休日はご飯とトイレ以外はまどろみ続けたりしました。洗濯・掃除といった家事もほとんどしなくなり、お風呂やはみがきも面倒になりました。部屋はごみ屋敷のようでしたがそれも気にならず、ただ学校に着けていく下着がなくなったときなどにようやく動き出すありさまでした。(家事は以前から苦手で、清潔感も強いほうではないですがこのときはありえないレベルでした)
学校は何とか続けていましたが洋服には構わなくなり、大好きだった買い物にもまったく行かなくなりました。
趣味の読書もしなくなり何をするのも億劫でした。
また恥ずかしい話ですがトイレに間に合わないことがちょくちょく起こるようになりました。
飲み会の後など、帰り道で歩きながらもらしてしまいそれでも恥ずかしい気持ちがあまり起こらなかったりしました。ズボンだったので直接は見えないだろうと思い、周囲の人たちともそのまま会話していました。
これは、統合失調症(精神分裂病)の初期にしばしば見られる症状です。つまり、幻覚や妄想というより、生活が全般的にだらしなくなってくるという形です。このような形で発症し、さらに人格低下が進むというのが、統合失調症(精神分裂病)のひとつの悪い経過です。たとえば【0404】をご参照ください。
あなたのケースでは、そうはならず、しかし以下のような別の症状が出ています。
知人の男の子が私のことを好きなのだと思い込みました。急に世界の色が変わったようで、ずっと幸せでその子のことを考え続けました。
3日間くらい学校にも行かず、ベッドの上で同じ曲を聞き続け、ご飯もあまり食べませんでした。
なぜか学年中の人が今まで私のことを思ってくれていたんだと思ったり、知っている人全てがすばらしい人に思えたり、ありえないほどばら色な考えが次々に浮かび、収拾がつきませんでした。
これは恋愛妄想が中心ですが、全体として誇大妄想的な思考障害といえるでしょう。これも統合失調症(精神分裂病)の症状として矛盾はありません。
したがって、あなたのご質問のポイントである、
私は病気なのでしょうか、あるいは病気だったのでしょうか。
に関しては、以前の状態は統合失調症(精神分裂病)の発症が考えられるとまでははつきり言えます。しかし、「考えられる」といっても、当時の状態だけで統合失調症と診断することはできないでしょう。
そして今のあなたは洞察力も十分あり、病気とはいえません。
もし、以前の状態のときに受診したら、統合失調症(精神分裂病)と診断されたかもしれません。その場合は、今の状態をみれば、誤診だったということになります。
が、本当はわかりません。
どうも歯切れの悪い回答で大変気が引けるのですが、実際にはあなたのようなケースで、そのままよくなってしまう人がいるのだと思います。その場合は受診されることがないので、医療側としてはそういう人がいるのか、いるとしたらどのくらいいるのか、知る術がありません。ですから、
病気について調べたら、自然治癒する症例はどこにも書いてない
これは、書いていないからといって、存在しないと言い切れるわけではないのです。
ただ病院でみる限りでは、統合失調症(精神分裂病)の人で、よく聞くと過去にあなたのような体験をした人は時々いらっしゃいます。
それともうひとつ、あなたのケースではご家族の中に統合失調症(精神分裂病)の方がいらっしゃいますね。
この病気が遺伝するわけではないことは知っていますが
これは単純にはその通りなのですが、遺伝因子がないわけではありません。というより、遺伝因子は確実にあります。これについては【0135】をご参照ください。
そのこともあわせて考えると、
やはり自分も発症していたのではないか、そして軽症だったため自然治癒したのではないか
私はどちらかといえばこの見解に近いものを持っています。
しかし、もっとも肝心な以下の点、
将来のこと、再発の可能性がとても心配です。
これは、申し訳ありませんが、予測できません。
念のため受診しても、何かあったらまた来てくださいと言われるだけのように思います。
現実的には、再発の可能性があるということをある程度は意識していて、もしまた何かあれば早めに受診する、というのが適切なところだと思います。
なお、【0756】もある意味で似たケースですので、ご参照ください。