精神科Q&A
【0691】恋愛妄想の対処方法について
Q: 私は34歳の既婚女性です。8年ほど前から3歳上の男性に恋愛感情をもたれて困っております。(以下Sさんとさせてください。)
Sさんは以前勤めていた会社の同僚で、知り合ってまもない頃から私に好意をお持ちになり、プレゼントや誘いという形のアプローチかありました。私は【0596】の方と同じようにSさんからの誘いやプレゼントには一切答えていなかったのですが、結婚後も、出産後も、その会社を退職しても尚しつこく、電話や贈り物をされて、あげくにはSさんのご両親から、お見合いの釣書が届いたので、Sさんのご両親に電話をして結婚して子供がおり、大変幸せに暮らしているのにしつこく付きまとわれて大変迷惑していると、はっきり申し上げたところ、ご両親は大変驚かれて謝罪されました。
Sさんはご両親には離婚して子供が独りいるけれども僕と結婚したいと言っている人がいると話していたらしいのです。それを聞いて、絶対おかしいと確信し、失礼を承知で心の病気かも知れませんとご両親に申し上げました。(Sさんは地方出身者で独身寮に入っていたのです。)
当時は実家の両親から、私自身にも気があることをほのめかすなどの悪いところがあるのでは?といわれ、非常に憤慨していたので思わず言ってしまったのですが、遠方で暮らすご両親のお気持ちを考えると本当に失礼なことを申し上げたと反省しています。
その後Sさんも退職され(4年前)実家に戻られましたが、その後も何度か連絡がありました。頻繁にあるとストーカー行為ということで警察に相談しようかとも思うのですが、年に数回、電話や贈り物があるくらいなのでほっておいたところ(贈り物は一切受け取っていません)、最近になってSさんのご両親からお手紙が届きました。
そこには、Sさんが今年になって精神科に通っていること、強い薬でもぜんぜん効かず、私が今日くることになっていると言ったりすること、夜になってもこないとお前が追い返したんだと母上様をどなりつけたり、暴力を振るうこと。入院させたくても本人に入院する気がなければ入院させてもらえないこと。本当に辛く神仏に祈る毎日だということが切々と書かれていました。(やはりSさんも【0596】の方のように統合失調症なのでしょうか?)
そして、この病気を治すためには信頼する人からはっきりと違うんだといってもらうことが必要なので、私が直接Sさんに電話して、いつ結婚して、出産して、子供が何人いて、とても幸せな生活を送っていること、離婚などしていないこと、するつもりもないことをはっきり言ってほしい。そして、同様の内容の手紙も書いて後に読み返すことが出来るようにして欲しいと書かれていました。
【0596】、【0505】の相談とほぼ同じような内容だとは思ったのですが、このご両親のご要望に答えて、望まれるとおりの電話や手紙を書いていいものか思い悩んでいます。
遠方とはいえ電車で2,3時間の距離です。Sさんは私の住んでいる町で働いていたので土地勘もあります。現住所も電話も知っているのです。
母上様に暴力を振るっていること、私にはそれは恐ろしく感じます。
もう8年も続いているのです。このままエスカレートしていったら、ひょっとして娘たちに危害が及ぶのではないか?という不安さえ覚えます。
出来ればSさんともご両親ともかかわらずに知らぬふりでいたい。
しかし、神仏に祈るご両親の気持ちを考えると、Sさんの病気が治るのなら、私にしか出来ないのであれば、協力してあげなければ・・・とも思うのです。
こういう状態で私がSさんとコンタクトを取ることは良い事なのでしょうか? どうすれば一番いいのでしょうか?
林: まず、Sさんの病名は不明です。あなたに対して、現実から著しく逸脱した恋愛感情を持っていること、またSさんのお母様に対する態度などから、あなたの推定のように統合失調症が強く疑われることは確かではありますので、一応そのように仮定して回答します。
あなたのご質問は、このSさんにコンタクトし、今のあなたの状況をはっきり伝えるべきかどうかということが中心だと思います。その背景には、ご両親からの手紙、すなわち、
そして、この病気を治すためには信頼する人からはっきりと違うんだといってもらうことが必要なので、私が直接Sさんに電話して、いつ結婚して、出産して、子供が何人いて、とても幸せな生活を送っていること、離婚などしていないこと、するつもりもないことをはっきり言ってほしい。そして、同様の内容の手紙も書いて後に読み返すことが出来るようにして欲しいと書かれていました。
ということがあることが読み取れます。
息子さんが精神病になり、しかもなかなかよくならず、さらにはお母様への暴力行為まである。ご両親の苦悩は痛い程よくわかります。
神仏に祈るご両親の気持ちを考えると、Sさんの病気が治るのなら、私にしか出来ないのであれば、協力してあげなければ・・・とも思うのです。
というあなたのお考えももっともだと思います。
けれども、ではあなたがこのご両親の要望に答えるべきかどうかについては、以下の2点をよく考慮する必要があります。
第一は、手紙のこの記述です。
この病気を治すためには信頼する人からはっきりと違うんだといってもらうことが必要なので
この記述には、根拠がありません。
Sさんのあなたに対する感情は、恋愛妄想です。妄想というものは、はっきり違うと言われたからといって、よくなるものではありません。それでよくなるというのは、ご両親の願望、あるいは幻想に過ぎません。
ですから、
Sさんの病気が治るのなら、私にしか出来ないのであれば、協力してあげなければ・・・とも思うのです。
あなたのこの気持ちは尊重されるべきものですが、事実についての誤認があります。あなたの協力によってのみ、病気が治ることが期待できるというのは事実誤認です。
第二に、あなたは広い意味では被害者であって、Sさんの病気に対する責任もなければ義務もない他人にすぎません。
出来ればSさんともご両親ともかかわらずに知らぬふりでいたい。
というあなたの本音は、決して非難されるような性質のものではありません。
母上様に暴力を振るっていること、私にはそれは恐ろしく感じます。
もう8年も続いているのです。このままエスカレートしていったら、ひょっとして娘たちに危害が及ぶのではないか?という不安さえ覚えます。
危害が及ぶ可能性は非常に低いと思います。しかし、ゼロとは言えません。あなたがご心配されているように、いかなる形にせよ、あなたがSさんにコンタクトすることで、その可能性がいくぶんかでも高まることは否定できないでしょう。
以上をまとめますと、第一に、あなたがはっきりとSさんに言うことで、Sさんの病気が治るとはまず考えられません(ただし、絶対に効果がないとは言い切れませんが)。第二に、あなたにはSさんの病気に対する責任も義務もありません。
ただしこれは、他人だからほうっておけと言っているのではありません。ご両親の苦しみもよくわかります。けれども、ご両親が希望する形であなたが協力しても、効果はあまり期待できないという事実をお伝えしているとご理解ください(繰返しますが、絶対に効果がないとは言い切れません。ご両親はワラにもすがりたいというお気持ちなのでしょう)。
以上の事実を認識したうえで、あなたの行動はあなたがお決めください。