精神科Q&A
【0678】統合失調症の病状は、「知能」的活動の表れで推し量れるものでしょうか
Q: 29歳女性です。主に睡眠障害と抑うつで心療内科へ通院をはじめて、6年目です。
この6年間を症状・処方された薬の内容ともに振りかえると、うつというよりは統合失調症の様な気がします(一度も病名は言われていません)。
最近、中学・高校時代のことを思い出すと、その頃から素因の顕れがあった、と感じます。
幻覚・幻聴・妄想・それらへの強い恐怖心が2〜3年前をピークに、今もあります。今は3年前の事柄を「あれは幻覚だったんだ」と判別できるていどには落ちついています。最近の症状は、極度の緊張で吐き気と震えがとまらず、何ら理由もない時に涙が溢れ、運動時以外でも突如動悸・息切れを起こして呼吸困難に陥る…という感じです。1日にどれか1つは、この症状があり、いちいちビックリしてしまいます。
カウセリングを受けていた時期は、自己の奥底へ入りこみ過ぎて悪化していた面があります。カウンセラーに暴言を吐かれて不信になり、カウンセリングを止めて漢方を取り入れてから、快方に向かったと思います。これが昨年春のことです。
昨年6月、父が自ら命を絶ってしまいました。父には係累がなく、母方の親戚で密葬しました。叔父のすすめで、母は弟と、今年5月、他県へ転居しました。家屋を売って、そのお金を生活費の足しにしようという提案でした。未だに家は売れません。
私は妹と2人でアパート暮らしです。この部屋が、盗聴されている気がして落ちつきません。見えない造りのはずですが、ドアポストからやドアに耳をつけて様子を窺われていると思うので、物音を立てないように過ごしています。
妹が「ここなら頑張れる」と選んだ部屋は家賃が高いので、毎月末、悲鳴をあげています。妹は働いていますが、月々収入があるわけではなく、私はアルバイトの面接に落ち続けています。日払いの派遣バイトにも、たまに行けるのですが、遠方の仕事が多く、行くと数日ぐったりしてしまい、妹が推奨するように週3回もなど無理だと感じます。また派遣は日毎に予約をして指示を受けていくため、「明日、行く?」「いつなら行ける?」と毎回選択を迫られる状況や、行けるのか自分に自信がないことから、呼吸困難と吐き気に襲われるなど、心身ともに辛いです。その事を毎回、自己弁護することにも引け目を感じます。
せめて「無理をしてでも家賃を稼がなければ」という状況を補強できないかと、今日、障害年金の申請を希望しました。最初、市役所へ行ったところ、ともかく医師の意向をきいてくださいと言われたので、医院へ行きました。
先に結果を書くと、「申請は出来ますが、(診断書代などが)無駄になると思うので」と断られました。対象になるのは、"私のように(予診表に)自分の状況や心境などを理路整然(?)と書くことも困難な人・そのような知能が働かない人であり、私は知能が充分機能していることから、対象にならない"でしょう、ということでした。仕事に関しては、このご時世ですから、無理のない仕事が見つかるまで、焦らず地道にどうにかやってください、と。
焦らず探すために、その環境作りとして年金を望んだのですが…。そして、医師の言葉の中で「知能」とありましたが、この病気は知能障害ではないですし、知能の高低は無関係だったと記憶しています。文章に表せる、という事に関しても、たとえば統合失調症を罹患なさっていても立派なHPを運営されている方が大勢いらっしゃるのを見ていて、「文章を、整然と 書ける」=症状が軽い、とは思えません。
妹の、わずかな収入と友達に借金までして遣り繰りしてくれている家計で、なお、無理を押してでも遠くても働こう!と頑張れない自分は、いったい何なのだろう、何をしているんだろう、病気にかこつけて怠惰を満喫しているのではないか?と、朝 目が醒めた瞬間から自己嫌悪の日々です。嫌悪している状況から脱するためにでも働く、という事をできない自分を、世界中が軽蔑していると感じます。息苦しいです。
だいぶ長くなってしまいましたが、質問は、
1 私は 統合失調症でしょうか?それとも単なる擬態うつ病でしょうか?
2 統合失調症の病状は、医師のいう「知能」的活動の表れで 推し量れるものでしょうか?
3 だとすると、私は日常がどれほど苦痛でも、症状による制限を受けていないものとして働くべきでしょうか?
4 また、この状態で受けられる扶助・助成の制度というものは、ないのでしょうか?
という事だと思います(なんだか不確かですみません)。長文、失礼いたしました。
林: あなたは統合失調症(精神分裂病)だと思います。擬態うつ病など、他の病気ということはあまり考えられません。
もっとも、発病のころ、そして今もある症状が、
幻覚・幻聴・妄想・それらへの強い恐怖心が2〜3年前をピークに、今もあります。今は3年前の事柄を「あれは幻覚だったんだ」と判別できるていどには落ちついています。
このように抽象的な記載ですので、判断しかねるところはあります。症状については、「幻覚」「妄想」のように書かずに、具体的にどのようなことがあったかを書いていただいたほうがよりよい回答ができると思います。
とはいうものの、
この部屋が、盗聴されている気がして落ちつきません。見えない造りのはずですが、ドアポストからやドアに耳をつけて様子を窺われていると思うので、物音を立てないように過ごしています。
これは統合失調症(精神分裂病)に特徴的な被害妄想ですので、これまでの経過と処方内容をあわせると、比較的典型的な統合失調症(精神分裂病)であったと考えられます。
また、
最近の症状は、極度の緊張で吐き気と震えがとまらず、何ら理由もない時に涙が溢れ、運動時以外でも突如動悸・息切れを起こして呼吸困難に陥る…という感じです。1日にどれか1つは、この症状があり、いちいちビックリしてしまいます。
このように、はっきり名前をつけにくい症状が出ることも、統合失調症(精神分裂病)として矛盾はありません。
さらにいえば、
カウセリングを受けていた時期は、自己の奥底へ入りこみ過ぎて悪化していた面があります。
このような不用意なカウンセリング(あるいはカウンセリングらしきもの)によって悪化することがあるのは、統合失調症(精神分裂病)の診療では常識に属することです。
2 統合失調症の病状は、医師のいう「知能」的活動の表れで 推し量れるものでしょうか?
「知能」的活動は、参考にはなります。しかしこれを決めてにすることは通常はできません。
医師の言葉の中で「知能」とありましたが、この病気は知能障害ではないですし、知能の高低は無関係だったと記憶しています。
あなたのこの記載は基本的に正しいです。「基本的に」という意味は、「知能」という用語の使い方にもよるということです。かつては統合失調症(精神分裂病)は、「早発性痴呆」と呼ばれていました。最悪の経過をたどったときの状態を重視した病名といえるでしょう。しかしその後の研究で、最悪の経過をたどるのはごく一部にすぎず、またその最悪の場合でも、慢性期の状態は痴呆とは全く異なることが明らかになり、その事実を強調するという意味も含めて「知能障害ではない」「知能は低下しない」ということが前面に出されるようになったという歴史があります。
けれども厳密な意味で知能がどうであるかということは、さきほど言いましたように、「知能」という用語の使い方によって違ってきます。そもそも知能とは何か。知能を測定することができるのか。これらは昔から議論されている問題で、おそらく当分は解決されることはないでしょう。
そこで現実的には、今ある知能検査の結果(IQ)を「知能」としているのが現状です。そしてIQでみる限り、統合失調症(精神分裂病)の人はあまり低下は認められません。
しかし、通常の知能検査以外の詳細な検査(高次脳機能検査、神経心理学的検査、認知機能検査、などと呼ばれています)を行なうと、統合失調症(精神分裂病)の人にある程度特徴的な機能障害が認められることがわかっています。この障害と、幻覚や妄想、思考障害などとの関係は、現在多くの研究が行われているところです。
あなたのご質問からやや話がそれてしまいました。ここまでを簡単にまとめると、「統合失調症(精神分裂病)では通常の意味での知能障害はない。しかし、ある認知機能障害はある」ということになります。
あなたが医師から受けた以下の説明については、
対象になるのは、"私のように(予診表に)自分の状況や心境などを理路整然(?)と書くことも困難な人・そのような知能が働かない人であり、私は知能が充分機能していることから、対象にならない"でしょう、ということでした。
これは部分的には正しいともいえます。順に説明しますと、
・理路整然とした記載ができない人は、知能障害や認知障害がある可能性は高いといえるでしょう。
・逆に、(あなたのように)理路整然とした記載ができる人は、少なくとも読み・書きといった機能については障害がほとんどないと判断されるでしょう。読み・書きは、全般的な知能や認知機能のひとつの判断基準になることが多いものですが、厳密にはこれをもって全体を推定することはできません。
・それよりももっとも根本的な問題は、「私は知能が充分機能していることから、対象にならない」という説明です。これは明らかに誤りです。知能検査にしても、あるいはどんな検査にしても、検査結果と実生活での機能があまり一致しないことは非常によくあることです。だからこそ年金等の診断書には、日常生活機能の記載欄があるのです。もし検査ですべてが推し量れるのであれば、検査値だけの記載があればいいはずです。実際に年金診断書の書式をご覧になればおわかりのとおり、重視されているのは日常生活の状態で、検査所見は参考として付記する形になっています。検査だけで日常生活の障害の程度を推し量ることはできないのです。
3 だとすると、私は日常がどれほど苦痛でも、症状による制限を受けていないものとして働くべきでしょうか?
以上の説明から明らかと思いますが、
私は日常がどれほど苦痛でも、症状による制限を受けていないものとして
この部分に関しては答えは間違いないくノーです。苦痛があれば症状による制限を受けているのは明らかです。
ただし、
働くべきでしょうか?
この点についてはわかりません。メールの文面からは働くのはかなり困難にみえますが、ここは主観的・客観的の両方の判断が必要なところです。(だからこそ診断書が求められるわけです)
4 また、この状態で受けられる扶助・助成の制度というものは、ないのでしょうか?
あなたが当初お考えになったとおり、障害者年金を申請するのがいいと思います。おそらくあなたは3級相当になるのではないかと思います。
ただし、実際に判定がどうなるかは何ともいえません。あなたが受けられた説明のとおり、申請しても却下され、診断書代などが無駄になるという可能性もなくはありません。しかしこれは何を申請する場合でも同じであると考えるべきでしょう。