精神科Q&A

【0622】薬がいらなくなってもカウンセリングを続けるべき?


Q: 私は24歳、女性です。
 痴呆の祖母の介護疲れ、知人の自殺のショック、修士論文執筆の重圧など、様様なストレスが重なり、訳もなく涙が出たり(ほぼ毎日涙がでました)、猛烈な不安感、無気力、自殺願望、絶望感、幻聴(1度だけ)、過呼吸発作(1度だけ)があらわれ、8ヶ月間学校内にある保健センターに通い、その後1年ちょっと心療内科に通いました。
最初の医師には「典型的なうつ病でもパニック障害でもない。あえて病名をつければ適応障害。」といわれ、心療内科では「うつ病ではない。思春期危機症(?)」といわれました。
 薬はいろいろ変わりましたが、比較的長く飲んでいたのは、トレドミン(25mg)とレキソタン(2mg)です。
 心療内科では医師による投薬の他、カウンセラーによるカウンセリングが並行して行われました。
 修士論文のめどがついた頃、症状がぐっと良くなり、論文が完成したころ薬もいらなくなりました。
 それまでは食事をすると「うっ」「おえっ」とひどい吐き気があり、薬(ガスモチン、ソロン、ジアスターゼ、セルベックスカプセル等)やカウンセリングでも一向に良くならなかったのですが、これも論文が完成して論文のストレスから解放されると、嘘のように治りました。
 薬がいらなくなったので心療内科にはもう行かなくなったのですが、医師からもカウンセラーからも治療修了とは言われていません。薬を飲まなくなってもカウンセリングは続けるべきなのでしょうか。私のように自己判断で通院をやめるのはよくないのでしょうか。

 今は不安感や無気力もありません。が、大学院を修了して就職し、慣れない仕事のストレスからか、吐き気が再発し、仕事のある日は食事時吐き気に襲われ、ひどい時には吐いてしまいます。
 以前の吐き気の時、薬でもカウンセリングでも改善せず、論文のストレスから解放されて治ったことを考えると、今回も、仕事のストレスから解放されない限り、治らないのかな、と思ってしまいます。

 長々と書いてしまいましたが、以上をまとめると、「薬を飲まなくなっても、治療修了と言われるまで通院(カウンセリング)を続けるべきなのか。今の状態は、不安感や無気力等の精神的な症状はないが時々吐き気がするので完全に元気な状態ではない。以前の吐き気は、薬でもカウンセリングでも良くならなかったので、吐き気のために通院する効果があるのか疑問。」ということです。


: 医師の正規の診療以外にカウンセリングを受けるべきなのはどういうケースか。そして、いったんカウンセリングを始めたらいつまで続けるべきか。これはいずれも単純には答えられない問題です。

 この問題を考えるうえで前提となる事実としておさえておくべきことは、
(1) どの病気においても、カウンセリングが有効であるという証拠はほとんどない。
(2) カウンセリングの効果は、あるとしても、決して即効的なものではない。
という2点です。そして、カウンセリングは通常の診療に比べてかなりの費用がかかることも無視できないでしょう。

 まず(1)に関しては、カウンセリングには、効果を証明できないという宿命があります。もちろん、「カウンセリングを受けて良くなった」という人はたくさんいます。しかし、それは本当にカウンセリングの効果なのか、単に時間がたって自然治癒したにすぎないのかということが常に不明のままです。また、なにもカウンセリングという専門的なものを受けなくても、単に誰かと長時間話をするだけで良くなるという可能性もあるでしょう。

 カウンセリング以外の治療法の大部分は、たとえば薬であれば「薬を飲んだグループと、偽薬(プラセボ)を飲んだグループで、経過を比較する」という方法で、薬の効果を客観的に評価することができます。(うつ病の医学部講堂もご参照ください)
けれどもカウンセリングの効果に関しては、このような評価がほとんど不可能なのです。ですから、効果への疑問は常にあります。カウンセリングが保険では認められず、高額な費用がかかるという背景のひとつがこれです。

 だからといって、カウンセリングは無効であると言っているのではありません。しかし、たとえ有効であるとしても、即効性はなく、効果が認められるのには時間がかかることは確かです。これが(2)に述べたことです。

 以上のことから、あなたのケースを見てみますと、

カウンセリングでも一向に良くならなかった

というのは、ある意味で当然で、吐き気止めを飲むように、カウンセリングを受けたからといって吐き気がすぐに治まるということはまず考えられません。
もっとも、あなたのケースでは吐き気止めなどの薬も無効だったわけですから、

以前の吐き気の時、薬でもカウンセリングでも改善せず、論文のストレスから解放されて治ったことを考えると、今回も、仕事のストレスから解放されない限り、治らないのかな、と思ってしまいます。

このようにお考えになるのは理解できます。おそらく、正しい考えだと思います。少なくとも、吐き気の当面の対策としてカウンセリングを続けることには、あまり意味はないでしょう。お金の無駄だと思います。
 しかし、カウンセリングというのはそもそもそのような目の前の症状をとりあえず軽くすることを目的とするものではありません。あなたのケースでは、ストレスが吐き気につながっていることはほぼ確実と思われますので、その背景にある心理状態、性格傾向などを把握し、根本的な改善を目的とするものです。だからこそ、治療修了とは言われていないのだと思います。

吐き気のために通院する効果があるのか疑問

それはもっともな疑問で、もしあなたがカウンセリングを吐き気の直接の治療と位置づけておられるのであれば、それは認識の誤りですので、上記の通り、カウンセリングを続けることに意味はないでしょう。しかし、カウンセリングとはそういうものではないということを認識されたうえで、今後どうするかをお決めください。
 なお、「カウンセリングは根本的な改善を目的とする」と言いましたが、それはあくまでも目的であって、カウンセリングで本当に根本的な改善が得られるという証拠はないということも、理解されたうえでお決めください。


精神科Q&Aに戻る

ホームページに戻る