精神科Q&A
【0602】ロールシャッハテストは信頼できる検査ですか
Q:
20歳の女性です。現在専門学校に通っております。私は自分が境界型人格障害なのではないかと疑っております。あくまでもインターネットで調べた上での自己判断にすぎないのではっきりと言えた事ではないのですが、それでも自分に当てはまることが多いのです。
先日息苦しさを覚え呼吸器科の病院に行ったのですが、検査の結果肺に異常はないと言われ、先生のすすめで初めて心療内科へ行きました。
15分ほど先生とお話をした後、不安感を和らげるソラナックス0.4mg錠というお薬を渡されました。
そして次に行った時心理テストを受けました。ロールシャッハテストでした。
テストを終え家に帰ってから今まで聞いたこともないテストだったと思い(素人だから当然なのですが)、どんなテストなのか調べてみました。そして私の目に飛び込んで来たのは、
「ロールシャッハテストは当てにならない」というものでした。
理由を読んでいくうちに、あんな曖昧なテストで曖昧な結果しか出ないんじゃないかと不安になりました。
確かに抽象的な絵を見て曖昧な答えしか出せませんでした。
先生は「このテストではおおざっぱに何の病気か当てはめるのではなく、その人のもっと細かい心理状態を知ることが出来ます。」
とおっしゃっていましたがどうも不安が残ります。(テストの結果はまだ出ておりません)
インターネットでいろいろな情報を見て、境界型人格障害とうつ病は見分けることが難しいと知り、もし本当に私が境界型人格障害でそれを先生がうつ病と判断されてしまったらと思うと不安です。
まだ2回だけの通院ですが、他の患者さんの診断予約がいっぱいで2週間や3週間おきにしか見てもらえないことや、初めての通院の時にお話を聞いていただいた男性の先生が書き込んでいたカルテの内容を、2度目の心理テストをしていただいた女性の先生はまったく知らない様子だったことなどからすでに違う病院に通うことを考えています。
今は学校が春休みでずっと家から出ない状態なので気持ちも落ち着いておりますが、
4月から学校が始まることを考えると、入院させて欲しいとさえ感じます。(こんなこと言うのは不謹慎ですが・・・)
とりあえず一週間後にでるテストの結果を待つつもりですが、そのテストの結果、間違った診断を受け何の意味もなく間違った治療を受け続けたり、または何の異常もないと診断され先生にまで見放されるんじゃないかと不安です。
そこで質問なのですが、ロールシャッハテストは本当に信頼できるテストなのでしょうか?
林: ロールシャッハテストは、心理検査としての歴史も長く、精神科の臨床でも広く活用されています。投影法の検査としての信頼性は確立しているといえます。
ただし、どんな検査にも限界というものがあります。それは、心理検査であっても、血液検査など体の検査であっても同じことです。検査をするということは、その検査の限界を認識したうえでするのは常識以前のことで、もし限界を認識せずに検査結果を鵜呑みにすれば、どんな検査結果の解釈も信頼できないものになります。
あなたがお読みになったサイトに、どのような理由でロールシャッハテストが当てにならないと書かれていたのか不明ですが、おそらく素人が作成したサイトか(たとえ心理学や精神医学を職業としていても、心理検査には素人ということは十分ありえます)、またはサイトの内容そのものには検査の限界について正確に記載されていても、あなたの読み取り方のほうに問題があったのかもしません。もう一度言いますが、どんな検査にも限界があります。検査する側に、その限界の認識がなければ、どんな検査も信頼できません。ですから、
ロールシャッハテストは本当に信頼できるテストなのでしょうか?
というあなたの質問は、実は意味をなしません。
ロールシャッハテストの限界に関して、おそらくあなたのケースと関連すると思われる側面でいえば、この検査だけで診断をつけることは決してできません。診断の参考にすることはできるでしょう。ですから、
そのテストの結果、間違った診断を受け何の意味もなく間違った治療を受け続けたり、または何の異常もないと診断され先生にまで見放されるんじゃないかと不安です。
これはどちらもあり得ないことです。あなたの取り越し苦労といえるでしょう。
全体として、あなたは不安のレベルが高く、物事を悪い方向に考える傾向があることがメールからは読み取れます。もちろんそれ自体があなたの精神科受診の理由であるとは思いますが、現在のところは、それがスムースな治療の妨げになっているようです。たとえば、
初めての通院の時にお話を聞いていただいた男性の先生が書き込んでいたカルテの内容を、2度目の心理テストをしていただいた女性の先生はまったく知らない様子だったことなどからすでに違う病院に通うことを考えています。
先に結論を言いますと、病院を変えることはすすめられません。
心理テストをする先生(テスターといいます)が、カルテの内容をテストの前に知っておくべきか、また知るべきだとしたらどこまで知っておくべきかは、そう単純には答えられない問題です。あなたは、知っているのが当然であるとお考えのようですが、カルテの内容を知ることが先入観につながり、ひいては検査の解釈に偏りが生ずるというおそれは常にあります。しかし一方で、全く内容を知らないと、検査がポイントを外すというおそれも否定できません。ですからテストの前にカルテの内容を読んでおくかどうかは、ケースバイケースです。
さらに言いますと、あなたのケースで、「まったく知らない様子だった」からといって、本当にまったく知らなかったかどうはまったくわからないことです。知っていたとしても、それをあなたに対して態度として示すかどうかはこれまたケースバイケースといえるからです。
ですから、このことであなたがこの病院への信頼を失ったというのは、全く不合理なことです。
このように、実際の診療や検査の過程で進行していることは、とてもネットで調べて真の意味がわかるようなものではないのです。
いや、だからといって調べるのがよくないということではありません。調べれば何らかの参考にはなるでしょう。しかしあくまで「何らかの参考」にとどまることを常に意識する必要があります。もしその意識がなければ、調べることはかえってマイナスになるでしょう。【0707】もお読みください。
そしてあなたのケースではマイナスのほうがずっと大きいようです。これからも何かをご自分で調べるたびに、安心よりも不安が先に立つと予想できます。
今後、あなた自身の治療のためには、あなたはインターネットの医療情報を見ないほうがいいと思います。このサイトにいらっしゃるのもこれを最後にすることをおすすめします。今かかっておられる病院の治療方針に、是非迷わずしたがってください。