精神科Q&A
【0563】うつ病の兄が、からだのだるさなどのために興奮しています
Q: 兄の「うつ」について相談いたします。弟の私は、別の県で生活しておりますので、彼の経過を逐一掌握しているわけではございません。曖昧な相談になるかもしれませんが宜しくお願い致します。
兄は、47歳会社員です。5年前に具合を悪くして入院し、パニック障害と診断されたことがありました。
昨年の夏頃から体調を悪くし、心療内科にかかるようになりました。「うつ」状態と診断され、次の薬を処方され飲んでいるようです。(本人はうつ病ではなく「うつ」状態と強調しております)
・ベンザリン錠5
・レンドルミン錠
・ メイラックス錠
・ トレドミン錠25
・ デパス錠0.5mg
・ ドグマチールカプセル50
4ヶ月程前から2ヶ月間病気休暇を取得し、その後は不調を訴えつつも1ヶ月前まで勤務しました。しかしその後の回復は思わしくなく、再び2ヶ月の病気休暇を取得し、現在家庭で療養しています。毎週一度心療内科のクリニックに行って診察・投薬を受けています。前回の外来時には、一向に良くならないので大学病院の精神科に紹介状を出していただくことになったそうです。
最近は、全身に様々な症状が出て内科の病院で胃カメラを飲みましたが全く異常はないとのことで本人はがっかりしたようです。また体がだるく特にふくらはぎに痛みというかだるさがあるようで、椅子にも座っていられないし、畳の上にも5分と坐っていられないとのことで悩んでおりました。昨日、あまりの体のだるさに耐えきれず、救急の精神科の外来を訪ねました。(と申しますのは、かかりつけのクリニックの主治医は週二日だけの診察で、その二日間以外は全く連絡も取れないので非常に困っております)その救急病院では、ふくらはぎの痛みは「アカシジア」ではないかとの診断で、この症状を緩和すべく注射を受け、(この注射の薬の名前は私がメモし忘れました)少し楽になり帰宅したそうです。ところが、その後かえって胸が苦しくなるような、意識が朦朧となるような今までに感じたことのないほどの不安感に襲われ、再びその病院を訪ね、点滴により先ほどの注射の薬を体外に排出させたそうです。
今日になっても体のだるさは一段と酷く、ふとんの中で寝ているのですがジッとしていられないほどで、昨夜もほとんど眠れなかったそうです。そのような様子がこちらに報告され、私ども夫婦が行って兄に会ってきました。極めて不安定な状態で、「どうしたらいいか分からない」「苦しくてじっとしていられない」「自分のこの苦しみは誰にも分からない」「ものすごく不安だ」「泣きたくなる」等々不快を訴えるばかりで、こちらとしてもどう対処したらいいのか皆目検討もつきません。それでもと精神科の病院の救急外来に連絡を取り、迷う兄をなんとか説得し奥さんが連れて行ってきました。体がだるいのはドグマチールの副作用かもしれないと判断していただき、取りあえずこの薬だけ飲むのを中止し、代わりに睡眠薬(今までも睡眠薬も飲んでいたそうですが)をもらってきたそうです。私どもは側にいても口論になり却って病人を興奮させるだけなので帰ってきました。その後も不調は回復せず、救急車を呼んでくれなどと口走っているようですが、奥さんに何とかなだめられているようです。奥さんの話では、時に家族に対し暴力的になることもあったり、布団や自分の手を噛んだりすることもあるそうです。このような状態が続き、家族も憔悴しきっているのですが、どのように対応したらいいものでしょうか。
林: 入院をお勧めします。このまま家庭で療養を続けるのは、ご本人にとってもご家族にとってもつらすぎると思います。現在の症状の原因をはっきりさせ、適切な治療をするためには、入院が必要でしょう。
現在の症状の原因は、薬である可能性もかなりあると思います。しかし、病気そのものの症状(お兄様の病気は、おそらくうつ病でしょう)でないとも言い切れません。このように、副作用なのか症状なのかよくわからないことは時々あります。どちらと判断するかによって、治療は正反対、とまではいかないまでもかなり違ってくるのは言うまでもありません。現在のお兄様のような激しい症状が副作用か病気の症状かわからない場合は、入院がベストでしょう。
救急病院で下されたアカシジアという診断は、おそらく正しいと思います。アカシジアが副作用として見られる薬は一般的には抗精神病薬ですが、ドグマチールで出ることもあります。お兄様がお飲みになっている薬の中では、トレドミンも可能性がありますが、これはごく稀です。
アカシジアの時には、「足がムズムズする」「座っていられない」という訴えをされるのが普通です。このため、長時間歩き回ってしまうこともあります。この「ムズムズ」を、人によっては「だるい」とか「痛む」と表現することもありますので、お兄様が、
ふくらはぎに痛みというかだるさがあるようで、椅子にも座っていられないし、畳の上にも5分と坐っていられない
とおっしゃっているのは、まずアカシジアに間違いないと思います。
アカシジアに対しては、アキネトンという薬(抗パーキンソン薬です)を注射するのがごく普通の対処法です。ホリゾン(セルシン)が有効なこともあります。お兄様が救急病院で受けられた注射はこのどちらかでしょう。
ところが、
その後かえって胸が苦しくなるような、意識が朦朧となるような今までに感じたことのないほどの不安感に襲われ、再びその病院を訪ね、点滴により先ほどの注射の薬を体外に排出させた
とのことですが、アキネトンやホリゾンの注射でこのようなことが起こることはまずありません(絶対にないとは言えませんが)ので、この不安感もアカシジアの一症状である可能性の方が高いように私には思えます。点滴により楽になったとのことですが、それもアカシジアであったことと矛盾するものではありません。
楽になったといっても、その夜はほとんど眠れず、
ふとんの中で寝ているのですがジッとしていられない
というのは、アカシジアが十分治っていないと解釈できます。
極めて不安定な状態で、「どうしたらいいか分からない」「苦しくてじっとしていられない」「自分のこの苦しみは誰にも分からない」「ものすごく不安だ」「泣きたくなる」等々
以上のいずれもアカシジアとして矛盾はありません。病院で「ドグマチールの副作用かもしれない」と診断されたのは適切だと思います。ただし、最初に言ったように、うつ病そのものの症状でないと言い切ることもできません。不安焦燥の強いうつ病では、このような症状になることがあります。
アカシジアだとしても、うつ病の不安焦燥だとしても、ご本人にとっては非常につらい症状です。私はアカシジアの可能性が強いと思いますが、どちらにしても診断を誤ると逆効果の治療をしてしまうことになりかねませんので、ここは入院して細かく症状を観察していただき、適切な治療を受けるようにすべきだと思います。何かの理由でどうしても入院しないという場合には、アカシジアの原因になりうる薬を全部中止して、抗不安薬と抗パーキンソン薬を多目に飲んでいただくという方法もありますが、姑息的な感じであまりお勧めできません。入院すべきだと思います。