精神科Q&A
【0551】グループホーム入所中の知的障害者の異常行動
Q: 私は、ある知的障害者グループホームで世話人をしております。
今、26歳男性の入居者のケースで頭を痛めております。
彼は、軽い知的障害はありますが、読み書きは普通に出来ます。グループホームには入居してから5年目になります。
数年前から、本人の希望で現在まで2つの精神病院で診察、通院、入院を繰り返していますがどちらの病院でも統合失調症(精神分裂病)、うつ病などの診断はされていません。
性格的なもの、あるいは心理的なものという診断なのですが性格的なものだけでは納得のいかない行動が多数あり対処の仕方がわかりません。
半年前まで、精神病院に3ヶ月間任意入院(本人の希望で)していたのですが入院中も、退院後も良い方向に向かうどころか悪くなっていく一方に見えます。
本人がよく訴えてくるのは
何かしたいのに、やる気力がない。
体がだるい。
死んだ父さんがよく枕元にたつ。
幻聴がきこえる。(お酒を飲め、など)
といったところなのですが、とにかくお金とたばこの要求ばかりを一日中訴えてきます。
歩く足元もふらふらしていて、会話をしていても目の焦点は全くあっていません。手に軽い震えもあります。始終頭から上半身を左右に(ほんのわずかですが)ゆらしています。
何かを思い出しているのでしょうが、突然、不気味に笑い出す事があり、今、笑ったと思ったら、次にはぽろぽろと涙を流していたりします。甘えがとても強く、人のそばに相手の状況を考えず、ぴったりとくっついて離れません。
挨拶など、(「おはよう」など)こちらがきちんと返事をしても何十回でも同じ挨拶のやりとりを要求してきます。
とにかく、一日中、寝る事、たばこを吸う事、食事をする事しかしていません。(それ以外は女性職員にくっついてはたばこの要求をしています)
母親は隣町に住んではいるのですが、息子の事は完全に拒否していますので、そのことも彼の気力をなくす原因にはなってはいると思いますが。
主治医の先生は、診察のたびに、やる気のない彼を怒鳴ります。
先週の診察(今2週間に1度診察してもらってます)では
「いつでも入院させる準備はあるが、今度入院させたらもう二度と社会復帰は出来ない!」と本人にはっきり通告されました。
環境的にグループホームという、決まりのある場所で生活しているため、職員の私達も、際限なく優しくする事までは出来ません。
現実的に、今収入の全くない彼にはたばこもこずかいも与えることは出来ませんので、彼には、今、甘える場所が全くないといった現状です。
とにかく、どうしたら良いのかわからないといった所です。
ただの心理的、性格的な症状で、ここまで納得のいかない行動をするものでしょうか?
現在のグループホームの環境が、彼を精神的に追いつめているのでしょうか。
長期入院したほうがいいのか? それとも今の状態を続けるべきなのか?
病院をかえて、もう一度診断名をきちんとした方がよいのか?
本当に頭を痛めています。
現在処方されている薬は
朝、昼
リスパダール細粒1パーセント
コンスタン0.4mg錠×3(毎食後)
夜
レンドルミン錠(就寝前)1錠
トレドミン錠25
リスパダール細粒1パーセント
セルシン100倍散
ブロバリン1×就寝前
です。
林: 知的障害の方には、時にこのメールに書かれているような症状、つまり幻聴など精神分裂病(統合失調症)の陽性症状に一致する症状や、無為・人格水準の低下など精神分裂病(統合失調症)の陰性症状に一致する症状が見られることがあります。この場合の考え方としては、単純にいうと、
「知的障害の人が、たまたま精神分裂病(統合失調症)にも罹患した」
という解釈と、
「知的障害のために、状況を正しく解釈できなかったり、対人関係に問題があり、一見すると精神分裂病(統合失調症)にみえる症状(つまり実際は精神分裂病(統合失調症)ではない)が出ている」
という解釈が可能です。
どちらの解釈が正しいかについては、昔から多くの議論がありますが、結論としては「どちらが正しいかわからない。どちらの解釈も可能」ということになっています。
解釈はともかく、知的障害の人にこのような症状が見られることは比較的よくあります。そのため、【0529】でも解説した接枝分裂病という概念が生まれたのです。つまり、この【0551】のケースも、接枝分裂病といってもいいと思います。
「いってもいい」というのは、【0529】でも解説した通り、そう呼んだとしても結局は「知的障害者が精神分裂病(統合失調症)をわずらった」ということを別の言葉でいっているのにすぎません。(ここでは単純に「精神分裂病(統合失調症)をわずらった」と言いましたが、はたして本当にそうかどうかはわからないことは、さっき上で言った通りです。厳密には「精神分裂病(統合失調症)らしい症状を呈した」とでも言うべきでしょう)
そして、このような状態に対して、決まった対応法はありません。精神分裂病(統合失調症)の治療と同じように、抗精神病薬が効くこともあります。一方、薬よりも環境の調整が有効なこともあります。
グループホームのスタッフであるあなたが対応に頭を痛めておられるのはよくわかります。おそらく他の入居者の方々への影響が無視できないところまできているのでしょう。
現実的な対応としては、医師の治療を受けながら(薬も必要でしょう。ただし絶対的とはいえません)、ホーム内での人間関係などの調整をしていくということになると思います。あせらず時間をかければ、改善の期待は十分持てると思います。