精神科Q&A
【0529】接枝分裂病とは何ですか
Q: 私は50歳女性です。ある事情から、親戚の女性の後見人をお引き受けすることになりました。その女性は接枝分裂病と聞いているのですが、この病気についての資料がなくて困っています。どのような病気なのでしょうか。文献名だけでもお教え頂けたらと思いこのコーナーにお便り致しました。本人のプロフィールと病気について簡単にご説明致します。
67歳 女性 てんかんの持病があり障害者手帳ランクA交付済み 学歴無し(小学校にも行っていません)
15年前まで母親と二人暮し。母親の死後も施設等に行く事を拒絶したためそのまま一人暮し(ただ、自立と言うには程遠く排泄物の処理等も出来ないし、お金の計算も出来ない。とりあえず一人で暮らしていたという感じ)
10ヶ月ほど前から大声を出す等の従来と異なる行動が現れ始め、半年前から幻覚や幻聴が出現。
本人はそれに向かって昼夜無く大声で威嚇し続け、更に近所の馴染みの人に刃物を向ける行動に出た事から保健所や行政の力も借りて精神科に入院。統合失調症と診断された。
医師の話では生来の脳障害と後天的な生活環境による複合的な脳の未発達が考えられるとのこと。
あるいは老人性の脳萎縮による痴呆の可能性もあるが、何しろすべての要因が混沌としてしまっているのでこれといった治療法は特に無いらしい。ただ、落ち着かせるように薬を服用しているのみ。
居住している県の精神病のセンターに電話をした際に偶然、接枝分裂病かもしれないという話を聞く。
しかし、ネットでいくら検索しても、あるいは精神科ではないが医療関係者に聞いてもこの病気についての情報が知的障害者が統合失調症をわずらった事を指すらしいとしか得られなかった。
以上がお尋ねするに至る経緯です。よろしくお願い致します。
林: 接枝分裂病(せっしぶんれつびょう)とは、あなたがお調べになったとおり、知的障害者が統合失調症をわずらった事を指します。それ以上でもそれ以下でもないとお考えになったほうがいいでしょう。
接枝分裂病の本質については、昔から多くの説がありますが、まとめると以下のようになります。
・二つの病気が偶然合併した。
・知的障害が、精神分裂病の初期状態だった。
・知的障害は、精神分裂病を引き起こしやすい。
・接枝分裂病という、独立した病気である。(つまり、知的障害でも精神分裂病でもない)
・知的障害者は、心因反応として精神分裂病に似た症状をきたしやすい。
以上、どれも一理ある説ですが、肯定する決め手もなく、かといって否定することもできません。説であるとしかいえません。
そうしたこともあって、現在では接枝分裂病という言葉はあまり使われなくなっています。あなたがお調べになってもあまり資料が見つからないのはそのためです。
そういう事情ですから、接枝分裂病という病名にこだわっても(つまり、接枝分裂病なのかどうかとか、接枝分裂病ならどういう治療・接し方をするべきか、など)あまり意味はないと思います。あなたの親戚のこの67歳の女性は、知的障害に幻覚妄想が加わり、さらにてんかんもあるということですので、あなたに説明してくださった先生のおっしゃるとおり、
何しろすべての要因が混沌としてしまっているのでこれといった治療法は特に無い
というのが実情だと思います。
もっとも、てんかんに知的障害が合併しているケースでは(そういうケースは非常に多いのですが)、両方の原因となる脳障害が存在すると考えられ、幻覚妄想もその脳障害からくる症状と解釈するのがもっとも妥当だと思います。なお、「接枝」という言葉は、つぎ木という意味です。知的障害というもともとの木に、分裂病という木がつぎ木された、ということですが、これは単なる言葉の意味であって、病気の本質とは関係ありません。
接枝分裂病に関する最近の参考文献■ A case of "Pfropfschizophrenia": Kraepelin's bridge between neurodegenerative and nuerodevelopmental conceptions of schizophrenia.
By Mack AH, Feldman JJ, Tsuang MT
American Journal of Psychiatry Volume 159, p1104-1110, 2002.