精神科Q&A

【0531】幻聴治療と糖尿病


Q: 41歳の主人は、24歳の時に幻聴と妄想(監視されている・声に命令される)という症状が突然あらわれ、精神科の薬をしばらく服用していたらしいのですが、あわなくて短期間でやめてしまったとのことです。その後二回ほど軽い再発があり(二回目は37歳の時)、そのあとは落ち着いていたのですが、この2ヶ月またひどくなっています。症状は幻聴のみです。先月から精神科を受診しています。
 先生の話だと、普通に社会人として仕事をして家庭生活も出来ているので、統合失調症ではないとのことです。
 先月受診を始めてから、リスパダールを処方されています。量は一日1mgから始まり、いったん4mgにまで増えたのですが、眠気が強くなったのでまた一日1mgに戻していただいています。
 今のところ、幻聴は全然良くなっていないと本人は言っています。
 ただ、先生に前回の受診時、糖尿病の検査をしたほうがいいといわれました。
糖尿病だと薬が効かないともいわれました。(会社の健診で糖尿病疑いを指摘されていますが、病院には行っていません。)
 ここ2〜3日はやる気がでない、頭がボーっとするといい仕事を休んでいます。薬や治療にも消極的になっているので、心配です。今後どのような治療を受けたらいいのでしょうか。



1. 病名は、統合失調症(精神分裂病)だと思います。
2. 糖尿病の検査をすすめられた理由は、糖尿病の人がリスパダールなどの非定型抗精神病薬を飲むと、重大な副作用が出る可能性があるためです。「糖尿病だと薬が効きにくい」という事実はありません。
3. 今後の治療は、まず糖尿病の検査を受けるのが第一です。そしてその結果に応じて、適切な薬物療法を受けることです。
薬や治療にも消極的になっている
とのことですが、治療しなければ統合失調症は悪化します。必ず治療を続けてください。

いくつか解説を付け加えますと、
1. (病名について)
 普通に社会人として仕事をして家庭生活も出来ているので、統合失調症ではない
と言われたとのことですが、統合失調症で、適切な治療を受けながら、「普通に社会人として仕事をして家庭生活も出来ている」方はたくさん(何万人も)おられます。したがって、「普通に社会人として仕事をして家庭生活も出来ているので、統合失調症ではない」という説明は誤りです。ただしこれは、主治医の先生が間違っているのではなく、あえてそのような説明をされたのだと思います。おそらく、あなたかあなたのご主人が、統合失調症という病名を非常におそれている態度を示されたのではないでしょうか。そうした場合、臨床的にはこのような説明をすることもあります。

 それは、実際の臨床では不安を与えないための説明として一理あるものですが、このサイトではそのような説明は一切しないという方針をとっています。
というのは、このような説明は、個人に対してはよいこともありますが、逆に、
統合失調症という病気は、社会生活ができなくなる病気である
という誤った認識を広める可能性があるからです。
これが私がもっとも危惧するところで、事実と異なる説明はしないという方針の基でもあります。


2. (統合失調症の薬と糖尿病について)
 糖尿病だと薬が効かないという説明は真実ではありません。糖尿病と薬の効きは、無関係です。これも、主治医の先生が間違っているのではなく、心配を軽くするためにこのような説明をされたのだと思います。しかし事実は違います。ご主人の飲んでおられるリスパダールの添付文書には、糖尿病又はその既往歴のある患者、あるいは糖尿病の家族歴、高血糖、肥満等の糖尿病の危険因子を有する患者では、血糖値が上昇することがあるので、慎重に投与するように注意を促す記載があります。
リスパダールをはじめとする、最近出てきた新しい「非定型抗精神病薬」と呼ばれる薬は、従来の薬に比べて、利点はもちろんありますが、欠点もあります。その最大のものがこの糖尿病にかかわる危険性です。リスパダールはその中でも比較的安全とされていますが、他の非定型抗精神病薬のジプレキサ(オランザピン)とセロクエル(クエチアピン)には、添付文書に次のような注意が書かれています。

1.著しい血糖値の上昇から、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡等の重大な副作用が発現し、死亡に至る場合があるので、本剤投与中は、血糖値の測定等の観察を十分に行うこと。 
2.投与にあたっては、あらかじめ上記副作用が発現する場合があることを、患者及びその家族に十分に説明し、口渇、多飲、多尿、頻尿等の異常に注意し、このような症状があらわれた場合には、直ちに投与を中断し、医師の診察を受けるよう、指導すること。

 つまり、糖尿病の方は、非定型抗精神病薬は飲まないか、飲むとしても十分な注意が必要だということです。

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