精神科Q&A

【0509】66歳の母の、若い頃からの被害妄想がひどくなっています


Q: 66歳になる私の母親の被害妄想について相談申しあげます。 
 元々母親は思い込みが強い性格で、私が子供の頃から特に私の父親に対して「物を隠したり、壊したりして嫌がらせをする」、「自分の悪口を親戚に言いふらす」などと言ってはよく喧嘩をしていました。父親だけではなく、隣家の人についても「家に入って来て、物を取ったりする」などと本気で言っていました。「鍵をかけているのだからそんなことがある筈ない」と周りが言っても聞きません。「床に髪の毛が落ちていた」「家具の位置が違っていた」と言い張り、それが家に入ってきている証拠だと言います。母親が言う嫌がらせは、身の回りの些細なことであり(服が破れているなど)、はたから見れば大したことでないのが殆どです。

 しかし、被害妄想以外おかしなところはなく、全く正常ですので、不快ながらも「また始まった」程度でずっと見てきました。 

 3年ほど前に自分で自宅から出て行って、アパート暮らしを始めました。理由は、これまでと同じように父親が「嫌がらせをする」、「近所に自分の悪口を言いふらし、近所の人も同調している」、「近くのスーパーでも自分の悪口を言っている」です。 

 父親は数年前に仕事をやめ、自宅にいるようになりました。父親とは元々考え方などが合わないようですので、母親もストレスを感じるのでしょうが、それにしても異常な言動です。それから5ケ月後、母親は私の妻にも迷惑がかかると言い、自宅に戻りましたが、その後も被害妄想的なことを言っていました。 

 一軒家の生活は年寄には辛いということで、一昨年に父親と母親は同居の私の姉と一緒に別のマンションに引越しました。これで気分が変わってくれればと願っていたのですが、同年9月にまた「父親がマンションで自分の悪口を言いふらす」と言って怒り、管理人さんや自治会長さんのところまでおしかけました。そのような事実はあり得ませんが、自分は絶対正しいと言い張り、離婚すると言い出しましたので、とても一緒に暮らせるような状況でないと判断し、私の妻、姉とも相談し、父親も説得して母親の言う通りにしました。 

 それ以来母親はワンルームマンションで一人暮しをしています。離婚もし一人暮らしになれば、さすがに妄想も言わなくなるだろうと期待していたのですが、相変わらず「自分のいない時に誰か部屋に入ってきて、冷蔵庫や服にいたずらをしている。父親の差し金に違いない。」、「隣の人が聞き耳を立てる。」、「父親と(母親の)姉がぐるになって自分を殺してやるといっている。」、「パトカーや救急車が近くの道路をよく通る。サイレンがうるさい。誰かが自分への嫌がらせをしているのではないか。」等々妄想を言っています。今も世間話などに移れば正常のように思えますが、妄想で頭が一杯のようです。(しばらく妄想を言わなくなる時もあり、ひどくなる周期があるようです。) 

 昔より妄想が強くなっているような気がしますが、自分は正常と信じていますのでどうしようもありません。(説得しても自ら病院へ行くような状況ではありません。) 
これからどうなるのか、他の精神病に進展しないのか、どうすればよいのか等々大変気掛かりになっております。また、哀れにも感じております。ご見解頂ければ幸甚です。


: お母様の現在の症状は、精神分裂病(統合失調症)といっていいと思います。
 最近の妄想の例として挙げられている、
「自分のいない時に誰か部屋に入ってきて、冷蔵庫や服にいたずらをしている。父親の差し金に違いない。」
「隣の人が聞き耳を立てる。」
「父親と(母親の)姉がぐるになって自分を殺してやるといっている。」
「パトカーや救急車が近くの道路をよく通る。サイレンがうるさい。誰かが自分への嫌がらせをしているのではないか。」

これらはいずれも精神分裂病(統合失調症)で非常によくみられる被害妄想です。

さらに、3年前の症状の例として挙げられている、
「近所に自分の悪口を言いふらし、近所の人も同調している」
「近くのスーパーでも自分の悪口を言っている」

これらも精神分裂病(統合失調症)の典型的な症状です。いずれも幻聴を伴う被害妄想といっていいでしょう。【0504】【0397】の方とよく似た症状です。

 また、もっとずっと以前の症状として挙げられている、
「物を隠したり、壊したりして嫌がらせをする」
「自分の悪口を親戚に言いふらす」
「家に入って来て、物を取ったりする」
というのも同様で、本人がそう言い張る根拠として、
「床に髪の毛が落ちていた」
「家具の位置が違っていた」

というような理由づけをするのもまた典型的です。

 ただしこの時期に幻聴など他の症状があったかどうかが不明ですので、もし純粋に被害妄想のみだった場合は、妄想性障害妄想型人格障害といった診断名になるでしょう。もっとも、上で言ったように、現在の状態からは精神分裂病(統合失調症)という診断になります。

そして、
「鍵をかけているのだからそんなことがある筈ない」と周りが言っても聞きません。
というのは、自分が病気であることが理解できない、つまり病識欠如という、やはりこの病気の特徴です。

 精神分裂病(統合失調症)の治療の基本は薬物療法です。

離婚もし一人暮らしになれば、さすがに妄想も言わなくなるでだろうと期待していた
とのことですが、残念ながらそのような期待が実現することはまずありません。病院での治療が必要なのです。

説得しても自ら病院へ行くような状況ではありません
とおっしゃる状況はよくわかります。しかし、これは病識の欠如した精神分裂病(統合失調症)の共通した苦悩でもあります。このままで自然に治ることはまずありえません。そして、受診させることができるのはご家族しかありません。病院で治療する以外には方法がない、という事実を直視してください。


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